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ユニベルの右手 -忌まわしき女神の使命-  作者: 蓮見ななこ
決戦 ゼロ
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200/207

200.悪魔

 「凄い……!」


 ハープは、レンジの一撃に思わず声を漏らした。

 セレスと、彼女の治癒魔法によって全快したロイドは、二人がかりでシアードに治癒魔法をかけている。

 ゼロがこの場にいない今、五人は体勢を立て直している。


「ヤグティン、ごめんな。

 箱舟、ボロボロにしちまってよ。」


 箱舟は、一旦アルメイン大陸の砂漠の地に置かれた。


「構わない。

 それよりも……。」


 レンジの言葉を余所に、ヤグティンはゼロが吹き飛ばされた方向に目をやった。

 少年は、黙って頷いた。


「あぁ、分かってるさ。

 ゼロがこんなにあっさりとやられるはずがない。」


 岩山の瓦礫から、ゼロが飛び出した。

 そして、着ているローブや体が傷だらけになったゼロが目の前に現れた。

 長い前髪で、目は覆い隠されている。


「いいか、ゼロ。

 俺達は封印しに来たんじゃねぇ。

 お前をぶっ倒しに来たんだよ!!」


 不気味な雰囲気でいるゼロに対して、レンジは臆することはなかった。


「くくく……はっはっは!!

 あーっはっはっははは!!」


 ゼロは天を仰いで笑い出した。


「何が可笑しい!!」


 おちょくっているのか。

 レンジは怒りを剥き出しにして、ゼロに怒鳴り上げた。


「人間ごときが この僕を倒すだと……?

 ───笑わせるなよ。」


 ゼロがレンジに向かって手をかざした。

 殺気を感じ取ったレンジは、さっと身を避け、その場から離れた。

 次の瞬間、地面から赤黒い火柱が上がった。


「あっぶねぇー……!」


 レンジは冷や汗をかいた。

 ゼロは、思った以上に素早いレンジの動きに、ため息を漏らす。

 そして、にっ、と笑った。


「……僕は 君達を少しなめていた。

 だけど もう手加減はしない。

 今度こそ僕は この醜いユニベルを無に帰す!!」


 ゼロは背中を丸めて、自分の体に魔力を集中させた。

 ゼロの周りには、黒と紫が入り混じる禍々しいオーラが発し始めた。

 そこに、この砂漠で最も強いと言われている魔物、バジリスクの群れが現れた。


「シギャアアアァッ!!」


 バジリスク達は、自分の縄張りを荒らされた事に怒っているのか、牙を剥き出しにして吠えている。

 そして、バジリスクの群れは一目散にゼロの元へと向かっていく。

 尖った爪をもつ大きな前足で、力強く進んでいく。

 だが、そんな彼らもゼロの前では無力だ。

 禍々しいオーラに触れたバジリスクから、ジュワッ、と蒸発していった。

 バジリスクの群れが全滅した時、変貌を遂げたゼロの姿が見えた。

 黒光りする大きな二本のツノが生え、皮膚の色も紫色に変色している。

 長い尾と、背中に漆黒の翼をもつ化け物は、今までに目にしたことのないおぞましい雰囲気を醸し出す。

 その姿を見たハープとロイドは、自分の血が、細胞が、騒ぎ出すのを感じ取る。

 ラクベールの民に組み込まれた、自分達の母なる細胞が反応しているのだ。

 

「化け物め……!」


 レンジは冷や汗が止まらなかった。

 レンジだけではない。

 ここにいる全員が、初めて見るゼロの真の姿に思わず息を飲む。


「さぁ何処からでもかかって来い……なぶり殺してやる。

 死して体が残ると思うなよ!!」


 上半身のローブは全て破れ落ち、鋭い牙が生えているその姿は、まるで悪魔だ。


「俺達は負けるわけにはいかねぇんだよ!

 たとえお前がどんなに強くてもな!!

 ───行くぞ!!」


 レンジの声を合図に、全員が戦闘態勢をとる。


「おらぁっ!!」


 全身に炎を纏ったレンジが、ゼロに渾身の拳を振りかざす。

 だが、レンジの攻撃はゼロの片手で阻止される。


「んなモン、分かってらっ!!」


 レンジはもう片方の手から、炎の球をゼロの顔に投げつけた。

 ゼロの顔面で爆炎が巻き起こった時、ロイドが風の力を纏わせた双剣で幾度となくゼロを斬り付けた。

 体のあちこちから、紫色の血が飛び散る。


「はぁっ!」


 そこに、シアードが容赦なく剣を振り下ろす。

 ゼロの尾が、いとも簡単に断ち斬られた。

 三人は一旦ゼロから離れ、警戒しつつもゼロの様子を眺めていた。

 何かがおかしい。

 何も仕掛けて来ない。

 それがまた、気味が悪くてならない。

 何よりも、ゼロの体の強度が失われている事が不気味だった。

 ゼロは無表情のまま、自分の体を、腕を、尾があった部分を眺めた。

 顔色一つ変えることなく、目を閉じて念じ始めると、みるみるうちにすべての傷が消えていく。

 失われたはずの尾も、まるでキメラの様に新しい尾が生えてくることで元通りになる。

 先人達が何故、ゼロを倒さず封印をしてきたのかが、今になってやっと分かった。

 倒せなかったのだ。

 絶対的な力と自己再生能力をもつゼロに、封印するしか手段がなかったのだ。


「もう終いか?」


 コキ、コキ、と首を左右に鳴らしたゼロは、瞬時に姿を消した。

 全員が上空に目を向けたが、何処にもゼロの姿はない。


「何処だ!?」


 レンジも、仲間達もゼロを探している時、ある仲間の悲鳴が聞こえた。

 セレスの背中が、ゼロの鋭い爪によって斜めに斬り付けられた。

 

「セレスっ!!」


 ゼロは、治癒魔法を唱えることが出来るセレスを真っ先に狙ったのだ。

 あまりの速さに、セレスは避けることも出来なかった。


「あうっ!」


 背中から鮮血を流しながら、彼女はうつ伏せに倒れ込んだ。

 ロイドがすかさず、彼女に治癒魔法をかける。

 だが、いくら成長したとはいえ、自分には彼女ほどの治癒の魔力はない。

 焼け石に水。

 その程度にしかならなくても構わなかった。


「させないよ。」


 再び、ロイドの目の前にはゼロの顔が現れた。

 咄嗟に体を避けたロイドは、セレスをその場に残してしまう。


「あぐっ!!」


 ゼロは、既に瀕死の状態でいるセレスの体を蹴り飛ばした。

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