200.悪魔
「凄い……!」
ハープは、レンジの一撃に思わず声を漏らした。
セレスと、彼女の治癒魔法によって全快したロイドは、二人がかりでシアードに治癒魔法をかけている。
ゼロがこの場にいない今、五人は体勢を立て直している。
「ヤグティン、ごめんな。
箱舟、ボロボロにしちまってよ。」
箱舟は、一旦アルメイン大陸の砂漠の地に置かれた。
「構わない。
それよりも……。」
レンジの言葉を余所に、ヤグティンはゼロが吹き飛ばされた方向に目をやった。
少年は、黙って頷いた。
「あぁ、分かってるさ。
ゼロがこんなにあっさりとやられるはずがない。」
岩山の瓦礫から、ゼロが飛び出した。
そして、着ているローブや体が傷だらけになったゼロが目の前に現れた。
長い前髪で、目は覆い隠されている。
「いいか、ゼロ。
俺達は封印しに来たんじゃねぇ。
お前をぶっ倒しに来たんだよ!!」
不気味な雰囲気でいるゼロに対して、レンジは臆することはなかった。
「くくく……はっはっは!!
あーっはっはっははは!!」
ゼロは天を仰いで笑い出した。
「何が可笑しい!!」
おちょくっているのか。
レンジは怒りを剥き出しにして、ゼロに怒鳴り上げた。
「人間ごときが この僕を倒すだと……?
───笑わせるなよ。」
ゼロがレンジに向かって手をかざした。
殺気を感じ取ったレンジは、さっと身を避け、その場から離れた。
次の瞬間、地面から赤黒い火柱が上がった。
「あっぶねぇー……!」
レンジは冷や汗をかいた。
ゼロは、思った以上に素早いレンジの動きに、ため息を漏らす。
そして、にっ、と笑った。
「……僕は 君達を少しなめていた。
だけど もう手加減はしない。
今度こそ僕は この醜いユニベルを無に帰す!!」
ゼロは背中を丸めて、自分の体に魔力を集中させた。
ゼロの周りには、黒と紫が入り混じる禍々しいオーラが発し始めた。
そこに、この砂漠で最も強いと言われている魔物、バジリスクの群れが現れた。
「シギャアアアァッ!!」
バジリスク達は、自分の縄張りを荒らされた事に怒っているのか、牙を剥き出しにして吠えている。
そして、バジリスクの群れは一目散にゼロの元へと向かっていく。
尖った爪をもつ大きな前足で、力強く進んでいく。
だが、そんな彼らもゼロの前では無力だ。
禍々しいオーラに触れたバジリスクから、ジュワッ、と蒸発していった。
バジリスクの群れが全滅した時、変貌を遂げたゼロの姿が見えた。
黒光りする大きな二本のツノが生え、皮膚の色も紫色に変色している。
長い尾と、背中に漆黒の翼をもつ化け物は、今までに目にしたことのないおぞましい雰囲気を醸し出す。
その姿を見たハープとロイドは、自分の血が、細胞が、騒ぎ出すのを感じ取る。
ラクベールの民に組み込まれた、自分達の母なる細胞が反応しているのだ。
「化け物め……!」
レンジは冷や汗が止まらなかった。
レンジだけではない。
ここにいる全員が、初めて見るゼロの真の姿に思わず息を飲む。
「さぁ何処からでもかかって来い……嬲り殺してやる。
死して体が残ると思うなよ!!」
上半身のローブは全て破れ落ち、鋭い牙が生えているその姿は、まるで悪魔だ。
「俺達は負けるわけにはいかねぇんだよ!
たとえお前がどんなに強くてもな!!
───行くぞ!!」
レンジの声を合図に、全員が戦闘態勢をとる。
「おらぁっ!!」
全身に炎を纏ったレンジが、ゼロに渾身の拳を振りかざす。
だが、レンジの攻撃はゼロの片手で阻止される。
「んなモン、分かってらっ!!」
レンジはもう片方の手から、炎の球をゼロの顔に投げつけた。
ゼロの顔面で爆炎が巻き起こった時、ロイドが風の力を纏わせた双剣で幾度となくゼロを斬り付けた。
体のあちこちから、紫色の血が飛び散る。
「はぁっ!」
そこに、シアードが容赦なく剣を振り下ろす。
ゼロの尾が、いとも簡単に断ち斬られた。
三人は一旦ゼロから離れ、警戒しつつもゼロの様子を眺めていた。
何かがおかしい。
何も仕掛けて来ない。
それがまた、気味が悪くてならない。
何よりも、ゼロの体の強度が失われている事が不気味だった。
ゼロは無表情のまま、自分の体を、腕を、尾があった部分を眺めた。
顔色一つ変えることなく、目を閉じて念じ始めると、みるみるうちにすべての傷が消えていく。
失われたはずの尾も、まるでキメラの様に新しい尾が生えてくることで元通りになる。
先人達が何故、ゼロを倒さず封印をしてきたのかが、今になってやっと分かった。
倒せなかったのだ。
絶対的な力と自己再生能力をもつゼロに、封印するしか手段がなかったのだ。
「もう終いか?」
コキ、コキ、と首を左右に鳴らしたゼロは、瞬時に姿を消した。
全員が上空に目を向けたが、何処にもゼロの姿はない。
「何処だ!?」
レンジも、仲間達もゼロを探している時、ある仲間の悲鳴が聞こえた。
セレスの背中が、ゼロの鋭い爪によって斜めに斬り付けられた。
「セレスっ!!」
ゼロは、治癒魔法を唱えることが出来るセレスを真っ先に狙ったのだ。
あまりの速さに、セレスは避けることも出来なかった。
「あうっ!」
背中から鮮血を流しながら、彼女はうつ伏せに倒れ込んだ。
ロイドがすかさず、彼女に治癒魔法をかける。
だが、いくら成長したとはいえ、自分には彼女ほどの治癒の魔力はない。
焼け石に水。
その程度にしかならなくても構わなかった。
「させないよ。」
再び、ロイドの目の前にはゼロの顔が現れた。
咄嗟に体を避けたロイドは、セレスをその場に残してしまう。
「あぐっ!!」
ゼロは、既に瀕死の状態でいるセレスの体を蹴り飛ばした。




