201.微笑み
「この野郎……!!」
「てめぇーーーっ!!
よくもセレスを!!」
怒り狂ったシアードとレンジが、ゼロに攻撃を仕掛けた。
だが、雨嵐の様なレンジの連打も、シアードの目にも止まらぬ剣裁きも、ゼロは全て受け止めた。
「ぐっ!!」
「シアード!!」
ゼロは長い尾でシアードをなぎ払った。
「これはさっきのお返しだ。」
ゼロはシアードの背後に回ると、右肩に鋭い牙で噛みついた。
「ぐああぁっ!!」
脳天を突き刺すような激痛に、シアードは声を上げた。
服を掴まれると、そのまま岩壁に叩きつけられた。
がらがら、と岩がシアードの体に積もっていく。
レンジとロイドは、詠唱を唱えるハープの守りに入る。
ロイドは再び天絶防御を唱え、バリアを張った。
レンジはこちらに向かってくるゼロに向かって、炎の球を投げつけた。
だが、漆黒の翼を持ったゼロはそれを器用に使い、突風を巻き起こした。
「うわっ!!」
レンジの軽い体は、いとも簡単に吹き飛ばされてしまう。
少年はそれを逆手にとり、回転して体の向きを変えると勢いを付けてゼロに飛び込んでいった。
「てめぇ!!」
黒光りする二本のツノを握り、自分の体を纏う炎を燃やした。
頭を燃やされているにもかかわらず、ゼロは微動だにしない。
それどころか、レンジの髪を鷲掴みにすると、そのまま顔面から地面に叩きつけた。
叩きつけた場所を中心に、地面が大きく窪む。
ゼロの力がどれほど凄まじいものなのかを、物語っているかのようだった。
ゼロはレンジの様子を確かめることなく、バリアに包まれているロイドとハープの元まで猛スピードで移動した。
そして、ロイドの目の前で立ち止まると、歪んだ笑みを浮かべた。
「破壊神の大牙───!!」
詠唱を終えたハープが、大地の究極魔法を唱えた。
ハープの声と共に、地面が波打ち始める。
ゼロの真下から、巨大な尖った岩石が突き出てきた。
漆黒の翼を貫通したかと思うと、続々と尖った岩石が現れる。
アカデミー本部で唱えた時よりも、明らかにパワーアップしている。
無数の岩石に包まれ、ゼロの姿は見えなくなった。
だが───。
ふっ、と二人が息をついた瞬間だった。
無数の岩石の中から、紫色のゼロの手が勢いよく飛び出した。
その手は、ロイドの編み出したバリアをいとも簡単に砕いた。
「う、ぐ……!」
「ロイド!!」
忍び寄ってきたゼロの手は、ロイドの首を掴んでいる。
そして、ゼロは彼の腹に手を当てると、魔力の球を発した。
ロイドはその衝撃により、何メートルも先に体をふっ飛ばされた。
「よくも皆を……!」
唯一無傷であったハープに、ゼロはつかつかと歩み寄る。
ハープは疾風矢で応戦しつつ、距離を取ろうとする。
だが、ゼロは彼女の魔法を真正面から受けているにもかかわらず、歩み寄るペースを変えないでいる。
その不気味な様子と、立っているのが自分一人だという現状に、今まで感じた事のない恐怖が広がる。
その時、ハープは瀕死の状態である仲間の視線を感じた。
セレス、シアード、ロイド、そしてレンジは、まるですがるような視線をこちらに向けていた。
ゼロに勝つ手立ては、もう印の魔法しかない。
ハープは、そう言われているかのように感じた。
彼らの哀れな視線と、ハープの心を読み取ったゼロは両手を広げた。
「どうだ これが人間だ!!
絶望の淵に立たされた時 人間は何かを犠牲にしてまでも助かろうとする!!
醜いだろう 無様だろう!!
こんな奴ら 滅びて当然なんだよ!!」
「う……。」
ハープは背中に固い何かが当たるのを感じた。
背後はもう、行き止まりの岩山だった。
「だから もう大人しく殺されてくれよ……。
僕がユニベルを無に帰せば もう誰もこんな思いをしなくてもすむんだよ。」
ゼロは手を上に上げ、赤黒い球体を作り始めた。
島をいとも簡単に消滅させてしまうほどの威力をもつ、あの魔法だ。
ハープの目の前で、それはみるみるうちに大きくなる。
やはり、自分が印の魔法を使うしか手立てはないのか。
言葉にできない程の恐怖と、決死の覚悟が葛藤する中で、仲間の声が聞こえてきた。
「ふ……ふざけんじゃないわよ……。」
瀕死の傷を負っているセレスが、立ち上がろうとしている。
「決めたんだよ。
僕達は、絶対に印の魔法は使わせないとな……。」
セレスだけではない。
ボロ雑巾のようにされたロイドも、立ち上がった。
「自分だけのこのこ助かろうだなんて、思っちゃいないさ。」
シアードはぷっ、と口の中に入った砂煙と砂利を吐き出した。
聖剣グラディウスを握りしめ、ゼロの元へと歩いていく。
「まだだ……まだ終わってねぇ!!」
レンジは、這いつくばったままゼロの尾を握り絞めていた。
そして尾を力いっぱい引っ張り、まだ戦えるのだと言わんばかりに引きちぎってみせた。
「……しぶといね 君達。」
ゼロは、レンジの手を思い切り踏みつぶした。
「痛ぇじゃねぇかクソヤロー!!」
激痛に悶えることなく、レンジは飛び起きた。
そして、怒りに任せてゼロの頬をぶん殴った。
予想だにしていなかったレンジの反撃に、ゼロの体は吹っ飛ばされた。
その時、未完成の赤黒い球体はゼロの手を離れ、海の向こうへと飛んでいった。
二、三秒経った頃、海の向こうでは大きな水柱が巻き起こる。
そして、大きな大地の揺れがアルメイン大陸に発生した。
「皆……。
私に力を貸して。
あなたたちの魔力を、私に下さい。」
ハープの目つきが変わった。
意を決した彼女の様子に、三人は頷いた。
だが、レンジだけは違った。
彼女を疑っている。
「……印の魔法を使うんじゃねぇだろうな。」
「大丈夫、使わないよ。
だって約束したじゃない。
ゼロを倒したら、一緒に旅するって。」
ハープはこの状況下の中で、愛しく想う彼に微笑んだ。




