199.超噴火
レンジの意を決した表情に、ゼロの表情が歪む。
ゼロは眉間にしわを寄せ、前を見据える少年が不愉快でならなかった。
「さっきから黙って聞いてりゃ馬鹿じゃねぇの。
この世はな、いいことばっかじゃねぇ。
死ぬほど辛い事だってある……。」
レンジはぐっ、と拳に力を込めた。
「それでも、生きていかなきゃなんねぇんだよ!!」
この少年は心の底からそう思っている。
何百年も前から見てきた人間とは、何かが違う。
レンジの心を覗いたゼロは、彼に対して初めて興味が湧いた。
壊してやりたい。
希望などただの幻想であると、自分の力の前に見せつけてやりたい。
絶望を抱かせたまま、闇に葬り去ってやりたい。
ゼロは、にやりとほくそ笑んだ。
その不気味な笑みに、レンジ以外の四人は背筋が凍る思いだ。
だが、それでも立ち向かっていかなければならない。
誰の犠牲の上にも成り立たない、真の平和を手にするために───。
ゼロは、箱舟にすうっと近づいてくる。
両手をこちらに向けると、手のひらから無数の魔力の球を生み出し、こちらに放たれた。
「うわっ!!」
箱舟をうまく操縦しているヤグティンも、全てを避けきる事など出来ない。
流れ弾が命中すると、箱舟は大きく揺れた。
「よくもやりやがったな!」
レンジは片手を上に上げ、炎の魔力を集中させた。
その間、容赦なく放たれる魔力の球をシアードとロイドが剣で弾いている。
「───遅いよ。」
ロイドの目の前には、ゼロの顔が現れた。
ゼロはロイドに向かって、至近距離から赤黒い炎を発した。
避けきれなかったロイドは、赤黒い炎に全身包まれた。
「ロイド!!」
セレスはゼロに鞭を放った。
すると、ゼロは首を動かさないまま、黄色い瞳をこちらに向けてきた。
こいつを始末したら、次はお前だ。
そう言わんばかりの鋭い視線に、セレスは思わず身体が強張った。
「くっ……!」
赤黒い炎が消え去った時、中からロイドの姿が現れる。
彼は、天絶防御を使ってゼロの攻撃を凌いだのだ。
だが、既に半分以上の体力を奪われたようで、全身に火傷を負った。
セレスが駆け寄ってロイドに治癒魔法をかけようとすると、間髪入れずにゼロが拳を振り上げた。
だが、ゼロの拳は二人の前に立ちはだかったシアードの剣によって遮られる。
ゼロは一旦距離をとって飛び上がり、上空からシアードを睨み付けている。
「来い。」
シアードは守りつつも攻撃が出来るよう、剣を顔の前に構えた。
只ならぬシアードの気配に、ゼロも攻撃のタイミングを見計らっている。
そして、軽く手を横にかざすと、黒紫色の剣を生み出した。
禍々しい魔力を纏ったその剣からは、何やらうめき声が聞こえる。
「死の剣。
僕が今まで殺してきた人間の魂を集めて作ったものだ。」
「この外道が……!」
その中には、オリバの魂も含まれているのだろうか。
そう考えると、シアードに怒りが込み上げてきた。
聖剣グラディウスを握る手からは、自分の血が滴り落ちる。
ゼロはシアードの憤怒の表情に、舌で自分の唇をなぞった。
「そうさ その顔が見たかったんだ。」
ゼロは上空から、シアードの真正面に飛び込んでいった。
死の剣の切先を向けて、突き刺してやるつもりだった。
シアードはそれを正面から弾いた。
横にすっ、と動いて構えを変えると、一瞬の隙をついて剣を斜めに下から振り上げた。
ゼロの青い髪がはらりと落ちていく。
しばらくすると、ゼロの頬から紫色の血が滴り始める。
「……虫ケラが。」
ぴっ、と親指で払うと、ゼロは箱舟の上に降り立ち、剣をシアードに向けた。
シアードとゼロの一騎打ちが始まる。
互いとも一歩も譲らず、剣と剣のぶつかり合う音がその場に響いた。
ゼロは目にも止まらぬ速さで剣技を繰り出す。
シアードは応戦するも、それを受け止めることで精いっぱいだった。
「防御破壊!!」
シアードは飛び上がり、ゼロの腕を斬り落とすつもりだった。
だが彼の剣は、ゼロの指で受け止められた。
「何だと……!?」
驚愕したシアードの表情に、ゼロは口角を上げた。
そして、剣を受け止めたままシアードに剣を向けた。
「がはっ!!」
ずん、と一瞬視覚が揺れる。
次の瞬間、体の中心から激痛が走る。
ゼロの剣が、シアードの右胸を貫いたのだ。
口から吐血した青年の頭を鷲掴みにすると、ゼロは箱舟に叩きつけた。
「シアードっ!!」
唯一動けるハープが、シアードの元へ駆け寄ろうとした。
だが、彼は這いつくばりながらも手を前に突き出して、来るな、と合図した。
彼は剣を箱舟に突き刺し、立ち上がろうとする。
そして、レンジに向かって言った。
「もういいだろ……レンジ!」
「あぁ、ありがとな!」
レンジが溜めていた巨大な赤い球体は、赤々と燃え上がる。
それは、スノードラゴンと戦った時よりも何倍も大きなものだった。
紅炎がほとばしる球体を上げたまま、レンジはゼロに狙いを定めた。
「いくぜ!
超噴火!!」
レンジの放った魔法は、ゼロを目掛けて飛んでいく。
炎の球体は、ゼロを一瞬のうちに飲み込んだ。
そして、レンジは自分自身も全身に炎を纏わせ、球体へ向かって飛び込んでいった。
「ぐっ……!」
ゼロは炎の中で、紫色の魔力のバリアで攻撃を凌いでいた。
そして、目の前にいる少年を見つけると目を丸くした。
「お前がこれぐらいの攻撃でやられるはずねぇもんな。
分かってたぜ。」
手を交差させてバリアを張っているゼロは、身動きが取れない。
「覚悟しやがれ!!」
レンジは渾身の力を込めて、ゼロの頬に正拳突きを命中させた。
ゼロの身体は、そびえ立つ岩山へと激突した。




