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ユニベルの右手 -忌まわしき女神の使命-  作者: 蓮見ななこ
ノイシュタット大陸 王都リューベルク
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16/207

16.ケイシャ鉱山

 ───ケイシャ鉱山の中の風は冷たい。


 白と灰色の鉱石が入り混じる洞窟の壁は、見ているだけでも冷たく感じる。

 鉱山なだけあって、人の手が加えられているため、要所にオイルランプが掛かっているがそのほとんどが消えていた。

 この鉱山に魔物が出るようになってから、人の出入りは少なくなったと王妃は言っていた。

 さしずめ欲深い商人か、腕っぷしに自信のあるハンターしか、もうこの場所に用事など無いだろう。

 何故なら、魔物が人を襲うようになったからだ。


 ユニベルでは、魔物は古来から存在する。

 しかし、魔物は普段人間を襲うことなど滅多になかった。

 人間が魔物達のテリトリーを荒らした場合や、仲間の危機を守る時に威嚇することはあるが、基本的にはこちらが何も仕掛けなければ、人間などには関心を示さない生き物だ。

 また、時としてパートナーとなり、人間と共存する種族もいる。


「何だコイツ!?」


 レンジ達の前に、二体のゴブリンが現れた。

 ゴブリンの体の色は茶色や深緑色が主であるが、このゴブリンは亜種のためか体が白い。

 図鑑で見るような小人のような姿ではなく、腕の筋肉は盛り上がり、大きな口から尖った犬歯が剥き出しになっており、まさに凶悪という言葉が当てはまる。

 それは、アレス島の森のベアなど可愛く感じてしまうほどである。

 セレスが鞭でゴブリンの目を狙う。

 ゴブリンが(ひる)んだ隙に、シアードが背後に回り、勢いをつけて真っ二つに一刀両断する。

 一方、レンジはもう一体のゴブリンをすでに倒しており、ゴブリンの腹の上で胡坐をかいていた。

 かかと落としが止めだったのだろう。

 ゴブリンの頭頂部がひどく凹んでいた。

 一撃の威力はシアードほどではないが、彼が剣を振りかざしている隙に、拳や蹴りを連続で何発も繰り出せるのがレンジの強みだ。


「ベアといいコイツらといい、一体どうなってんだ!?

 魔物があんなにいきり立って人を襲うなんて、今まであったか?」


 レンジは率直な疑問を二人にぶつける。

 その声はやけに響いた。

 こちらに気付いたのだろうか、遠くのほうで動物ではない何かの遠吠えが不気味に聞こえてきた。


「やけに響くな。」


 さほど大きくないシアードの声でも、この環境下ならエコーがかかる。

 すると奥の方から、男性と女性の揉めているであろう声が聞こえてきた。

 明確な言葉は聞き取れなかったが、男性の声は一人ではない事は分かった。

 三人は皆、嫌な予感を感じていた。


「……急ごうぜ!」


 レンジが先頭を突っ走って行こうとすると、シアードが腕を掴んで動きを止める。


「落ち着け、足音をできるだけ立てるな。

 魔物や向こうに気付かれる。」


「でも、急がないと!」


「気持ちは分かる。

 けど、魔物との戦闘を避けるのが一番手っ取り早いはずだ。」


 レンジを止める彼の手に力が入る。

 そして、やや厳しい口調で静かに話す。


「あの海岸で、俺が言ったこと忘れたのか?」


 レンジは一瞬、動きを止めるが、すぐにシアードの手を乱暴に振り払った。


「覚えてるさ!

 でも今はそれどころじゃない!

 何かあってからじゃ遅いだろ!?

 俺は止めたって行くからなッ!!」


 そう言い残すと、レンジは声が聞こえた方に駆けていった。


「レンジ!」


 セレスが呼んでも、レンジは振り返らなかった。

 薄暗い闇の向こうに、少年の背中は消えていった。

 彼女も追いかけようとする。

 その前に、シアードの方に振り向いた。


「……シアード。

 あなたはいつも正しかったわ。

 でもね、それが全てじゃないの。

 分かってても身体が先に動くことだってあるの。

 誰もがみんな、あなたみたいに感情をコントロールできる訳じゃないんだよ?

 私もレンジと同じだよ、まだまだ子供なの。」


 セレスはそう告げると、レンジの後を追った。

 彼女の姿が見えなくなると、その場に残されたシアードは小さくため息をつき、二人を追いかけた。

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