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ユニベルの右手 -忌まわしき女神の使命-  作者: 蓮見ななこ
ノイシュタット大陸 王都リューベルク
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15/207

15.悶々とするセレス

 レンジ達は、馬車に揺られていた。

 リューベルクから南へ伸びる長い道は、徒歩で行くには丸一日必要とするため、王妃から受けた少しばかりの援助を、馬車代に充てた。

 馬車の速さに感激し、やや興奮気味に外を眺めているレンジの隣で、セレスは物思いにふけっていた。

 彼女は、シアードがいつも冷静でいられる理由を探していた。

 それと同時に、彼がアレス島の海岸に流れ着いた時のことを思い返していた───。



 今から十年前のことであった。

 セレスがイラプの外れの海岸で貝殻を拾っていた時、身体も服も傷だらけの少年が倒れていた。

 その姿を見つけるやいなや、セレスは手に持っていた貝殻をすべて投げ捨て、少年の元に駆け寄る。


「だ、大丈夫?」


 声をかけても返事はなく、息があるかどうかを確認するために仰向けに体をひっくり返す。


「……う……。」


 しばらくすると、少年は目を開ける。

 吸い込まれそうな瑠璃色の瞳が見えたと思うと、少女は思わず呟いた。


「……綺麗。」


 傷だらけで汚れている格好にもかかわらず、彼女が少年を見て最初に放ったのは、その一言であった。


「……ここは?」


 少年のかすかな言葉に、彼女の小さな体はびくっ、と大きくたじろいだ。


「こ、ここはアレス島だよ。

 あなたは?

 あなたはどうしていっぱいケガしてるの?」


 セレスの問いに、少年は答えない。

 再び気を失ってしまったようだ。


「ど、ど、どうしよう……。」


 気が動転していたが、頭は何故か冷静だった。

 このままじゃいけない、と考えた彼女は、少年を背負おうとした。

 だが、自分の体よりも一回りも大きい少年を背負うほどの力はなく、少年と共に崩れ落ちる。

 少年の顔が鼻先にある。

 なんて綺麗な顔立ちだろう、と羨ましく思ったのも束の間、表情が苦しそうに歪むのを見て、彼女は何としてもこの少年を助けたいと思った。


「酷いケガ……。

 どこか痛むのね。」


 彼女は少年の胸のあたりに手をあてがう。

 そして、誰に教わったでもない治癒魔法を唱え、少年の傷を癒す。

 だが幼い彼女にはまだ、彼を全快させるほどの魔力はない。


「とにかくオリバおばさんに知らせなきゃ……!」


 彼女はもう一度少年を背負い、両足は半ばひきずる形でイラプまで運んだ。


「早く元気になって。

 元気になったら、あなたのこと、教えて?」


 彼女は、一晩中つきっきりで少年を看病した。

 いつしか寝てしまい、ふと目覚めると、ベッドに腕をつき伏せている自分の体勢に、はっ、となった。

 肩には、自分のベッドにあったであろう毛布が掛けられていた。

 おそるおそる自分のベッドにいる少年に目をやると、少年は優しく微笑んだ。


「ありがとう。」


 少年の───シアードの言葉に胸が熱くなった。

 初めての感覚に、体中が熱を帯びてくる。

 これが恋なのだ、と気づくのに、そう時間は掛からなかった。



 何故今、シアードとの出会いが思い出されるのか。

 それは、彼女が聞きたかったことをずっと聞けないままでいるからだ。


 シアード、あなたはいったい何処から来たの?


 今、想い人は目の前でレンジと話している。

 足を組んで話している姿を見るだけで、自分の鼓動が高鳴るのが分かる。


 私、知りたい。

 あなたが何処から来たのか、あなたが何者なのかを。


「ねぇ。」


 セレスが口を開いた瞬間、馬車がゆっくりと止まった。

 どうやらケイシャ鉱山に着いたようだ。

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