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ユニベルの右手 -忌まわしき女神の使命-  作者: 蓮見ななこ
ノイシュタット大陸 王都リューベルク
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14/207

14.さらわれた姫君

 頼みにくい雰囲気とはいえ、レンジ達の旅は関所を開けてもらわないことには先に進めない。

 もどかしい沈黙を破ったのは、セレスだった。


「あの、どうかされたんですか?」


 下を向いて俯き気味の王と王妃に、セレスは勇気を出して話しかける。

 王が深く長いため息をつきながら、ちらっと目線をこちらに向けた。

 そして、軽く手のひらを見せて重々しく口を開いた。


「旅人か。

 ……すまないが今は気分が乗らなくてな。」


 王は王座から立ち上がり、奥の部屋につながるであろう大きな扉に向かっていった。


「ごめんなさいね。

 せっかくいらしてくれたのに……。」


 王妃が申し訳なさそうにそう口にするが、ここで引くわけにはいかない。

 関所を開けてもらうことばかりが頭にあったレンジだが、兵士の慌ただしさ、王の落ち込む様子、そしてかすかに涙の痕が見える王妃の表情を見ると、自ずと彼らの力になりたいと考えるようになった。

 王妃を、イラプに残したオリバと重ねていたのかもしれない。


「あのっ、何があったのか、俺……僕で良ければ話してもらえませんか?

 何か力になれるかもしれませんし。」


 たどたどしい敬語を使って話すレンジの表情は、真剣そのものだった。

 それが伝わったのかどうかは知らないが、王妃はゆっくりと語り出す。


「私と王には、ルナという一人娘がいます。

 ちょうど、そちらのお嬢さんと同じくらいの年齢かしら。」


 セレスを見た後、王妃はさらに言葉を続ける。


「今朝、侍女が部屋に行くとそこにルナの姿はなく、これが置いてありましたの。」


 王妃はそう言うと、しわの入った一枚の小汚い紙を差し出してきた。

 そこには、「姫はいただいた」とだけ、乱雑な文字で記されていた。


「兵士達に街の中を探させているのだけれど……どこにもいませんの。

 もうすぐ嫁ぐ身ですのに……。」


 その言葉にセレスは引っかかったが、まずは姫を探し出すことが先決だった。

 王族の私情よりも、姫の安否が気になる。


「心当たりのある場所はありますか?

 今朝の出来事であれば、まだそう遠くには行ってないはずです。」


 シアードが淡々と王妃に問う。

 王妃は下から上に眺めるようにシアードを一見した。


「あの子はリューベルクから出したことはありませんの。

 北の関所は塞いでありますし……。

 この大陸内で行けるとしたら、トリノかケイシャ鉱山くらいですわ。」


「ケイシャ鉱山?」


「リューベルクからずっと南にある鉱山です。

 硝子の原材料が採れるのですが、魔物も出るような物騒なところで、最近は出入りする者も減ってきています。

 いくらなんでも、そのような危険な場所に姫がいるはずありませんわ。」


 それは、王妃の願望も込められていた。

 篭の鳥のごとく大切に育ててきた娘が、ましてや魔物が住んでいる危険な場所にいるなどと、考えただけでも身の毛がよだつ。


「僕達がケイシャ鉱山まで行って探してみます。

 その代わりといっては何ですが……この事件が解決したら、北の関所を開けてもらいたいんです。

 どうしても行かなきゃならないんです!」


 レンジの言葉に力が入る。


「北部はリューベルクの統治外ですのよ?

 ですが、どうしても、なのですね。

 ……分かりました。

 姫が見つかれば、私のほうから王に取り合ってみますわ。

 ですから、どうか……どうか姫を見つけてくださいまし。」


 王妃の、娘に対する心配が頂点に達したのだろう。

 声を震わせた品のある淑女の目から、ぽたぽたと涙がこぼれ落ちた。


 感情移入したレンジが姫を助けようといき込む中、セレスは何かを考え込んでいるようだった。

 シアードがそれを察知し、彼女に耳打ちする。


「……王族の私情には口を出さないほうがいい。」


 彼は、どうしてそんなに冷静でいられるのだろう。


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