14.さらわれた姫君
頼みにくい雰囲気とはいえ、レンジ達の旅は関所を開けてもらわないことには先に進めない。
もどかしい沈黙を破ったのは、セレスだった。
「あの、どうかされたんですか?」
下を向いて俯き気味の王と王妃に、セレスは勇気を出して話しかける。
王が深く長いため息をつきながら、ちらっと目線をこちらに向けた。
そして、軽く手のひらを見せて重々しく口を開いた。
「旅人か。
……すまないが今は気分が乗らなくてな。」
王は王座から立ち上がり、奥の部屋につながるであろう大きな扉に向かっていった。
「ごめんなさいね。
せっかくいらしてくれたのに……。」
王妃が申し訳なさそうにそう口にするが、ここで引くわけにはいかない。
関所を開けてもらうことばかりが頭にあったレンジだが、兵士の慌ただしさ、王の落ち込む様子、そしてかすかに涙の痕が見える王妃の表情を見ると、自ずと彼らの力になりたいと考えるようになった。
王妃を、イラプに残したオリバと重ねていたのかもしれない。
「あのっ、何があったのか、俺……僕で良ければ話してもらえませんか?
何か力になれるかもしれませんし。」
たどたどしい敬語を使って話すレンジの表情は、真剣そのものだった。
それが伝わったのかどうかは知らないが、王妃はゆっくりと語り出す。
「私と王には、ルナという一人娘がいます。
ちょうど、そちらのお嬢さんと同じくらいの年齢かしら。」
セレスを見た後、王妃はさらに言葉を続ける。
「今朝、侍女が部屋に行くとそこにルナの姿はなく、これが置いてありましたの。」
王妃はそう言うと、皴の入った一枚の小汚い紙を差し出してきた。
そこには、「姫はいただいた」とだけ、乱雑な文字で記されていた。
「兵士達に街の中を探させているのだけれど……どこにもいませんの。
もうすぐ嫁ぐ身ですのに……。」
その言葉にセレスは引っかかったが、まずは姫を探し出すことが先決だった。
王族の私情よりも、姫の安否が気になる。
「心当たりのある場所はありますか?
今朝の出来事であれば、まだそう遠くには行ってないはずです。」
シアードが淡々と王妃に問う。
王妃は下から上に眺めるようにシアードを一見した。
「あの子はリューベルクから出したことはありませんの。
北の関所は塞いでありますし……。
この大陸内で行けるとしたら、トリノかケイシャ鉱山くらいですわ。」
「ケイシャ鉱山?」
「リューベルクからずっと南にある鉱山です。
硝子の原材料が採れるのですが、魔物も出るような物騒なところで、最近は出入りする者も減ってきています。
いくらなんでも、そのような危険な場所に姫がいるはずありませんわ。」
それは、王妃の願望も込められていた。
篭の鳥のごとく大切に育ててきた娘が、ましてや魔物が住んでいる危険な場所にいるなどと、考えただけでも身の毛がよだつ。
「僕達がケイシャ鉱山まで行って探してみます。
その代わりといっては何ですが……この事件が解決したら、北の関所を開けてもらいたいんです。
どうしても行かなきゃならないんです!」
レンジの言葉に力が入る。
「北部はリューベルクの統治外ですのよ?
ですが、どうしても、なのですね。
……分かりました。
姫が見つかれば、私のほうから王に取り合ってみますわ。
ですから、どうか……どうか姫を見つけてくださいまし。」
王妃の、娘に対する心配が頂点に達したのだろう。
声を震わせた品のある淑女の目から、ぽたぽたと涙がこぼれ落ちた。
感情移入したレンジが姫を助けようといき込む中、セレスは何かを考え込んでいるようだった。
シアードがそれを察知し、彼女に耳打ちする。
「……王族の私情には口を出さないほうがいい。」
彼は、どうしてそんなに冷静でいられるのだろう。




