121.白状
「今日も大漁だなー!」
「うん……。」
「どうした、ミリル。
気にすんなよ、あいつらのことなんか。」
ミリルは、罪悪感に頭を悩ませる。
昼間見た三人の表情が、頭から離れないでいた。
彼らは、間違いなくレンジの仲間だ。
特に自分と似ている少女の、あの悲しそうな表情が、瞼に焼き付いて離れない。
きっと、あの少女はレンジとの再会を待ちわびていたに違いない。
ずっと彼を心配していたのだろう。
ミリルにはその気持ちが痛いほど分かる。
自分も、仲間が石に変えられた時は身を裂かれる思いだった。
きっとあの子も───。
黒髪の少女の心境に自分を重ね合わせると、どうしても体の熱が目頭を熱くさせるのが分かる。
その少女と彼を引き離したのは、自分の嘘だった。
「お前はほんと、泣き虫だよな。」
レンジは優しい笑みを浮かべ、ミリルの涙を指で拭った。
だが、ミリルは首を横に振った。
「レンジ……白状するわ。
あたしね、あなたにウソついてたの。」
ミリルの頬を再び涙が伝う。
彼女はそれを拭うことなく、レンジの目を真っ直ぐ見て、本当の事を伝えた。
「あなたは……海に落ちていたところをあたしが助けたの。
でも、傷だらけで……どうしようもなくて……あたしは自分の血を飲ませたわ。」
レンジは、嗚咽交じりに話すミリルの話を黙って聞いていた。
「……人魚の血は、体の傷を癒す代償として……飲んだ者の記憶を失わせてしまうの。
だから……あなたが仲間のことが分からないでいるのは、あたしのせいなの。
ごめんなさい……でも、あたしはどうしてもレンジの事、助けたかった……。」
レンジは持っていた魚を置いて、ミリルの頭を撫でる。
少年は、自分を救ってくれた人魚の少女を責めることはなかった。
「ありがとな。
お前が助けてくれなきゃ、俺はきっと死んでいた。
だから、気にすんなよ!
俺の記憶はそのうち戻るさ!」
「レンジ……。」
「さーてっ、飯にしようぜ!」
レンジは伸びをして、昨晩焚火を起こした場所まで歩いた。
そして、彼は手のひらから火の球を生み出し、いとも簡単に薪に火を付ける。
自分が何故火を起こせるのか分からないでいたが、あまり気にしてはいなかった。
その日の夜、ハープは焚火を見ながら考え事をしていた。
ハープと共に島に残るとはいったものの、ロイドは正直見たくなかった。
想い人が自分の目の前で、仲間とはいえ他の男を心配する姿など。
自分は、ハープがレンジと出会う前よりもずっと昔から想いを寄せている。
それなのに、何故彼女はこうもレンジに惹かれるのだろう。
そんな思いが、彼の心を意地悪くする。
「あの子、誰なんだろうなぁ。」
ロイドの言葉に、ハープの身体が強張る。
「あいつ、記憶を失ったとはいえ、島で他の女の子と一緒だなんて何だかな───。」
「やめてよ!」
淑やかな少女が、声を上げた。
その姿に、ロイドは思わず目を見開いた。
「あの子はきっと、レンジを助けてくれたんだよ!
きっと、そうだもん……きっと……。」
ハープは不安げな表情を浮かべ、消えるような声と共に俯いた。
少女は、かつてない心情を抱いていた。
体の奥底から、まるで石炭がじりじりと、ゆっくり燃えるような鈍い熱さが込み上げてくる。
そして、何処となく胸が苦しい。
ハープは初めての感情に戸惑いを隠せない。
だが、ロイドは彼女の険しい表情が、自分が意地の悪い発言をしてしまったことからくるものだと思っていた。
ロイドは本気でハープを愛してやまない。
だからこそ、彼女に嫌われるような事だけは、どうしても避けたいのだ。
たとえそれが、恋敵を応援することになったとしても。
「ハープ、ごめんな。
アイツならきっと大丈夫だ。
レンジがハープのことを忘れるはずがない。
そのうち僕達の事、思い出すさ。」
「……うん。」
彼女の浮かない返事に、ロイドは冷や汗が止まらない。
自分のような人間の事を言い表す、下界に降りてから知り得た言葉がある。
自分は間違いなく、「ヘタレ」という性分なのだろう。
「さっ、もう寝よう!
おやすみ、ハープ。」
「私は……もうちょっとだけ起きてるね。
おやすみ、ロイド。」
そしてロイドは鞄を枕にし、焚火を眺めるハープに背を向けて眠りについた。
ハープは水魔法で火を消したが、それでもなお外は明るかった。
ふと夜空を見上げると、そこには満天の星空と、ほぼほぼ陰りのない月の姿があった。
「明日は……きっと満月ね。」
ハープはそう呟くと、煮え切らない思いと心の中で人知れず戦っていた。
レンジの隣に、セレスと自分以外の女の子の姿があったのは初めての事だった。
美少女がレンジの手に触れた時、胸が苦しくなり、そしてキュッと喉を潰されるような感覚に陥ったのを覚えている。
レンジは自分のものじゃない。
そんな事は百も承知だ。
だが、こうしている今でも、レンジはきっとあの美少女と一緒にいるのだろう。
二人っきりで話をして、笑って、もしかしたらまた手を繋いでいるのかもしれない。
「……そんなの、やだ。」
そう考えただけでも、ハープは胸が苦しくてたまらない。
そして、悶々と疑心暗鬼に陥った自分の心が情けなくて嫌気がさす。




