表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ユニベルの右手 -忌まわしき女神の使命-  作者: 蓮見ななこ
セイレーン島
PR
120/207

120.心配

 レンジが島について二日目が経とうとしていた時、一隻の船がセイレーン島に到着する。

 昨日と同じ岩場で釣りをしていたレンジとミリルは、その場から船を眺めていた。


「行ってみようぜ。」


 レンジはそう言うと、ミリルの手を引いた。

 一方で彼女は乗り気ではなかったが、咄嗟に繋がれた手が嬉しくて、振り払う事も断ることも出来ないでいた。


 船が海岸に着くと、決して大きくはないその船から三人降りて来た。

 その三人とは、レンジの脳裏を幾度となく掠める者達であった。

 銀髪の青年と黒髪の青年、そしてミリルと同い年くらいの黒髪の少女は、レンジの姿を発見するなり駆け寄った。


「レンジ!

 無事だったんだね、ほんとに良かった!!」


 ずっと心配していた。

 レンジが自分の傍から離れてしまってから、彼を考えない時など無かった。

 蒼龍の大渦(メイルストローム)によって、クラーケンと共に大渦に飲み込まれてしまった彼が、今、自分の目の前にいる。

 ハープは居ても立っても居られなくなり、思わず彼の傍まで駆け寄った。

 だが、ぼーっと自分の顔を眺めてくるレンジは、自分の知っている彼ではなかった。

 何より、彼の隣には、水色の髪をした美少女がいる。

 その美少女は、あろうことかレンジの上着を身に纏っている。


「レンジ……?」


 レンジはハープの呼び声に反応することなく、ただ不思議そうな顔で彼女を眺めている。

 そして、耳を疑うような言葉を口にした。


「……誰だ?

 俺のこと、知ってんのか?」


「えっ……。」


 ハープは、鈍器で頭を殴られたような感覚に陥った。

 言葉が出ないでいる時、ハープに追いついたシアードとロイドが、彼に声をかける。


「レンジ、無事でよかった。

 セレスはまだ見つかっていない。

 早く戻って、セレスを探すぞ。」


 シアードがレンジの名前を呼んで淡々と話す。

 だが、今の彼には何が何やら全く分からないでいた。


「セレ、ス……?

 誰だ?」


 怪訝そうに首を傾げるレンジの姿に、シアードは一瞬大きく目を見開いた。

 続けて話しかけようとした時、じれったいと思ったロイドが、レンジの前まで歩み寄る。


「お前は何言ってんだよ。

 ほら、早く船に乗れよ。

 人を待たせてるんだぞ。」


 船に引き連れようと、ロイドはレンジの手首を掴んだ。

 だが、レンジは彼の手を乱暴に振り払った。


「痛ぇな!

 お前誰だよ!

 黙って聞いてりゃ……お前らさっきから何ワケの分かんねぇことばっかり言ってんだ?」


 まるで得体のしれない物でも見るかのように、レンジは三人を睨み付けた。

 その表情に、三人は驚きを隠せない。


「お前、もしや記憶を……。」


「記憶?

 そんなの知らねぇよ。

 俺はミリルと旅をしてんだよ。」


 レンジはミリルを庇うように後ろに隠し、シアードの前に立ちふさがる。

 しかしハープは諦めきれず、レンジに詰め寄った。


「レンジ、私の事も忘れちゃったの……?」


「……ごめん、知らねぇや。」


 悲しそうな表情を浮かべながら見つめる少女に、レンジは冷たく言い放つ。

 だが、何故こうも胸が痛むのだろう。

 レンジは思い出そうと、ハープの顔をじっと見つめる。

 不思議そうに見つめるレンジの手が、ハープに伸びそうになった時、横からミリルがその手を掴むことで遮った。


「レンジ、もう行こうよ!」


 ミリルはそう言うと、レンジの手をそのまま引いてその場を離れた。

 ハープは声もかけられないまま、泣きそうになるのを堪えながら二人の背中を眺めていた。

 その時、レンジがこちらに振り返る。

 彼もまた、不思議そうな表情を浮かべていた。


「……どうしたものか。

 記憶を失ってるとなると、無理やり連れていく訳にはいかないしな……。」


 シアードはため息をついて、煙草に火を付けた。

 どうしたらいいか分からないまま、三人は船員に声をかけられた。

 今日はいったん引き上げ、捜査を終了するとのことらしい。

 船に乗ろうとした時、ハープは足を止めた。

 そして彼女は意を決して、その場にいる全員に告げた。


「私、この島に残るわ。」


 彼女の言葉に、ロイドは驚き、そして反対した。

 だが、ハープは本気だ。

 彼女の眼差しは真剣そのものであった。


「レンジの記憶が戻るまで、私もこの島にいたいの。」


「ハープ、何を言い出すんだ。

 こんな得体の知れない島に残るだなんて、僕は反対だ!」


「でも……!」


「……それでもって言うのなら、僕も残るよ。

 ハープを一人残すなんて出来ないからな。」


 ロイドがハープと同じく真剣な表情でそう言うと、シアードは了承した。

 二人を信じて、自分の大切な弟分を任せることにした。


「……分かった。

 ハープ、ロイド、レンジのことよろしく頼む。

 俺達はセレスを探すから、その後ベガスで落ち合おう。」


「あぁ。

 シアード、絶対セレスを見つけてくれよ!

 きっとセレスも、シアードが来るのを待ってるはずだ。」


 そして、シアードと船員を乗せた船は、ベガスへと戻っていく。

 その船が夕日に向かって進む姿を、セイレーン島の海岸から二人は眺めていた。


「ロイド、付き合わせちゃってごめんね。」


「僕は……。」


 ロイドは思わず、ハープの肩を掴んだ。


「僕はハープが心配なんだ!

 あいつのために無理なんかするなよ……。」


 自分の心配など、ハープにはきっと伝わらないのだろう。

 何故なら、彼女の頭の中はレンジの事でいっぱいだからだ。

 でないと、今目の前にいる自分の視線を、逸らしたりなんかしない。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ