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ユニベルの右手 -忌まわしき女神の使命-  作者: 蓮見ななこ
ノイシュタット大陸 王都リューベルク
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12/207

12.物知りドン・チェルニ

 「ラクベールって……どこだ?」


 レンジは、宿のロビーで地図を眺めていた。

 地図は主にノイシュタット大陸付近が拡大されていた。

 アレス島が、ここから南東の位置にひっそりと記されている。


「俺達の住んでたトコって、こんなに狭かったんだな……。」


 分かってはいたが、少しだけ淋しい気分になる。

 するとそこに、恰幅かっぷくの良い商人がやってきた。

 派手な金細工が施されたキセルを吹かしながら、レンジの隣で地図を眺めている。

 シアードの煙草の煙とはまた異なる煙が、少年の鼻をつく。


「君は、どこを目指しているんだい?」


 見た目通りの声だなと、レンジは思った。


「ラクベールってとこに行きたいんだ。」


「ほう、魔法都市ラクベールか。」


「えっ、おっさん知ってんの!?」


 ノイシュタットに来たのはいいものの、どこを目指せばいいか分からなかった。

 レンジにとって、ハープが言い残したラクベールという場所の名前が聞けただけでも有難かった。


「ラクベールは、この辺りというウワサさ。」


「ウワサ?」


 この大陸は、北側が二つに分かれている。

 商人はその右側を指して、話を続けた。


「ウワサになってる訳はな、ここに行けるのはラクベールの民だけだからなんだよ。

 ほら、このあたり一帯は深い森に覆われているだろう。

 これは、ラクベールの民が私達のような一般人の侵入を拒んでいる証拠さ。

 彼らは、のっけから仲間内の意識が強いからね。

 森に魔力を通わせて、ラクベールの民でない人間を迷わすのさ。

 それにこの場所は国の統治外だから、関所も通らないと。

 私はもちろん行ったことがない。

 これもウワサなんだが、この広い森の何処かにはエルフもいるって話さ。」


「へー!

 おっさん、物知りだなぁ!」


「そりゃあもう、私はドン・チェルニだからね。」


 ドン・チェルニは、商人の間では有名な人物だが、鼻高々に語る姿は、レンジからするとただのリッチな中年男性にしか見えない。

 だが、彼は貿易業で巨万の富を得た、紛れもなく世界一の大富豪である。

 彼は派手なもの・珍しいもの・美しいものが大好きで、今回の渡航では、美しい硝子細工を仕入れにやってきていた。


「とにかく、ラクベールに行くのは君じゃ無理だよ。」


「でも俺、どうしても行かなきゃならないんだ!

 それにこれを───。」


 首にかけていた琥珀のネックレスを見せようとしたが、踏み止まった。

 相手は商人だ。

 売ってくれと迫られる可能性もある。

 レンジはチェーンを握りしめ、


「やっぱなんでもねぇよっ」


 と言い放った。

 お世辞にもいい格好をしているとはいえないレンジの持ち物など、世界の大富豪は興味の欠片もない。

 少年の子どもっぽい行動に、ガハガハと天を仰いで笑う。

 金は使えば減るが、情報は与えたところで減るものではない。

 そのことを十分に解っている商人は、何にでも本気で向かう少年に情報を分けてやろうと思った。


「もう一回地図を見てみな。

 私達は今ここ、トリノにいる。

 ここから道なりに西へ進むと、この国を統治するリューベルクという王都がある。

 関所はここの王様が管理してるはずだから、まずはここに向かうといい。」


「関所かぁ、開けてくれるかな?」


「それはお前さん次第さ。

 それじゃあな、いい夢を。」


 ドン・チェルニはそう告げるとその場を後にした。

 レンジが地図でリューベルクの位置を確かめていると、二階の吹き抜けから一言飛んできた。


「あ、そうそう。

 リューベルクの姫様はすっごい美人だよ!」


 男なら確実に喜ぶ情報だろう。

 だが、すでに惚れ抜いた少女がいる少年にとっては、水に流してもいいような内容だった。

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