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ユニベルの右手 -忌まわしき女神の使命-  作者: 蓮見ななこ
魔法都市ラクベール~大海原を越えて
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115/207

115.酒

 一方でレンジは、酒の席に迷い込んでいた。

 そこでは気分やテンションを上げるための酒が、無料で配られている。


 船が港を離れてからしばらくが経つ。

 日はすっかり落ち、空を橙色に染める。

 波が穏やかになったところで、船乗りが酒を飲んで一息ついていた。


「おいっ、坊主!

 お前もこっちきて飲め飲め!」


 腕の太い船乗りが、物凄いテンションでレンジを捕まえた。


「ぶわっ!!

 オッサン酒臭ぇ!!

 俺はまだ酒飲めねぇよ!」


「固い事は言いっこなしだ!

 ほらほら!」


 レンジの返事も聞かないまま、船乗りは少年の口元に酒を運んだ。

 くん、と嗅いでみると、葡萄酒とは違った、柑橘系のいい香りが広がった。

 スクリュードライバーというカクテルらしい。

 レンジは、船乗りの残りをグッと飲み干した。

 酸っぱくも甘い、すっきりとした味が口いっぱいに広がった。


「……うめぇ!」


 レンジの飲みっぷりに、やんややんやと周りから声が上がる。

 調子に乗ったレンジは、テーブルの上にあったグラスに手を伸ばす。

 ライムの香りがするそれは、モスコミュールというカクテルらしい。

 今度はそれを飲み干すとまたもや歓声が上がり、場は大いに盛り上がった。


「これは?」


 レンジは、自分の隣にいる紳士のグラスに目をやった。


「これはウォッカと言ってね。

 先程のカクテルにも使用されていた物だよ。

 だがこれを直に飲むのは、君にはまだ早すぎるよ。」


「いいよ、ちょうだい。」


「あっ!」


 レンジは、紳士の言葉を待たずして、くっ、とウォッカを飲み干した。


「これ……何も味しねぇ。」


 ウォッカはカクテルとは異なり、無味無臭のものが一般的だった。

 初めて飲む者は、そのきついアルコール度数に大半がむせる。

 レンジはむせるよりも先に、視界がぐるんぐるんと回り出した。

 そして、その場に倒れ込んだ。

 がやがやと騒ぐ声がだんだんと遠くなっていく。

 レンジはそのまま、視界が真っ暗になった。


「じゃあ、目が覚めたらまた教えて下さい。」


「はい……すみません。」


「いやぁ、セルナード大陸に行く船旅では日常茶飯事ですよ。

 では、失礼します。」


 ドアが閉まる音が聞こえた時、レンジは意識を取り戻したことを認識した。

 目を開くと、そこにはシアードとセレスの姿があった。


「あれ、ここは?

 ……っ!!

 いてぇー、何だコレ……。」


 上体を起こすと、額に置かれた濡れタオルが落ちる。

 しばらくすると、初めて味わう頭痛に襲われた。


「目が覚めたか、ほら。

 飲んだら多少は楽になる。」


 シアードはレンジに、一杯の水を手渡した。

 最後に飲んだ酒と何ら変わらない透明の液体を、レンジはまじまじと眺め、勘ぐっていた。


「ただの水だよ。」


 シアードの言葉に、レンジは水を全て飲み干して一息ついた。

 喉がカラカラであった少年は、水が体に浸透していく感覚を覚えた。


「二日酔いって、アンタ、何でお酒なんか飲んでんのよ。

 おかげでこっちは大変だったんだからね!

 ……まぁいいわ。

 こっちはこっちで、おもしろいものが見れたわ。」


 それは、セレスがシアードと船の上を歩いている時のことであった。

 バー席の方で騒ぎが起こり、そこに駆けつけると、レンジがけらけら笑いながら地面に大の字になって寝転んでいた。

 折角の(半ば強引な)デートを邪魔されたセレスは、仕方ないな、という表情を浮かべていた。


「あれ、ハープとロイドは?」


 レンジはきょろきょろと辺りを見回した。

 そこには二人の姿はなく、レンジは港での出来事を思い出した。

 もしかして、また二人っきりに……と考えた時、腕を組んでいるセレスがため息をついた。


「アンタって本当、寝ても覚めてもハープの事ばかりね。

 アンタが思ってるような事は起きてないわよ。

 だって、ハープはずっとアンタに付きっきりだったんだから。」


「え?」


 セレスの話によると、ハープはずっと自分の看病をしていてくれたらしい。

 レンジは、心底自分を恥ずかしく思った。

 周りの雰囲気に飲まれた挙句、仲間に迷惑をかけてしまった。

 その時、部屋の扉がそっと開いた。

 そこには、銀製の器を抱えたハープの姿があった。


「レンジ!

 良かった、目が覚めたんだね。」


 彼女はそう言うと、ベッドの傍のテーブルに器を置いた。

 そこには水と氷が並々と入っていた。


「お水、変えてきたんだよ。

 でも、元気そうで良かった。」


 ハープは、ほっとしたのだろう。

 柔らかい笑顔でそう言った。


「ハープ……。」


 自分に向けられた優しい笑顔に、思わず抱き寄せたくなった。

 だが、レンジの周りに漂う臭いが、それを阻止した。


「俺、もしかして酒臭い?」


「……ちょっと、ね。」


 一部始終を見ていたシアードとセレスが思わず吹き出した。

 調子に乗って酒なんか飲むんじゃなかったと、レンジは後悔せざるを得ない。

 自分を恥じていたその時だった。


「うわっ!!」


 船が左右に大きく揺れた。

 身体の動きを止めて様子を伺っているとき、ロイドが血相を変えて部屋に飛び込んできた。


「まずい、魔物だ!!」


「何だと!?」


 レンジ達は、急いで甲板へと向かった。

 真っ暗闇の中、そこには一際大きな物体が見える。

 その物体は青白く、足を何本もうねらせている。

 魔物の正体は、船ほどもあるクラーケンだった。

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