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ユニベルの右手 -忌まわしき女神の使命-  作者: 蓮見ななこ
魔法都市ラクベール~大海原を越えて
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114/207

114.カモメ

「待たせたな。」


 ハープとロイドは、レンジ達が待つ港へと戻った。

 そこには、口を尖らせたレンジと、いつもと様子の変わらないシアードとセレスがいた。


「ほらぁ、そんな顔しないの。」


 決して良くない表情を見せるレンジに対して、セレスがちくりと注意をする。

 レンジはぷいっ、と拗ねた。


「レンジ、どうしたの?」


 ハープの言葉に、レンジは何でもねぇ、と顔を背けて答えるだけだった。


「どうやらあの船がセルナード大陸行きらしい。」


 シアードは、船着場にある大きな船を指す。

 船乗りが、あらかじめ港に用意されていた荷物を段取りよく載せていく。

 また、船に乗り込む客は今までの客とは違って、正装をしている者が多く見られた。

 乗客の表情は、今か今かと船の出港を待っているようだった。

 不思議に思ったセレスが、船乗りの一人に尋ねた。


「やけにみんなおしゃれしてるけど……セルナード大陸には何があるの?」


「皆、王都ベガスに行きたいんだろうな。

 セルナード大陸の王都ベガスにはな、カジノも闘技場もあるんだぜ。

 あそこはユニベル屈指の経済大国だ、金回りも良くてなぁ。

 俺達船乗りも、セルナード大陸に行く船旅はいつも楽しみにしてるんだ!」


 船乗りの声は自然と弾んでいる。

 賭け事とは縁もゆかりもないまま育ってきたセレスは、いまいちピンと来ないでいた。

 そんな中、船は汽笛を一回鳴らして港を離れたが、レンジ達は妙に浮いていた。

 レンジ達は、アカデミーの組織に行くためにセルナード大陸を目指すのだが、ここにいる乗客の多くは、まだ見ぬ場所に心を躍らせている。

 中には船に乗ってすぐ、酒を水の様に飲んで気分を高揚させる男達の姿もみられた。

 ドレスを身に纏った淑女たちも、品の良い見た目とは裏腹に、金の話ばかりしている。

 十六、七の少女ですら、美しいドレスに身を纏っている。

 上品な少女らはこちらを一瞥すると、くすくす笑いながら何処かへと消えていった。


「何か……場違いだね、私達……。」


 ハープとセレスは思わず苦笑した。

 そして、自分の着ている服に目を落とす。

 乗客にいる同い年の女の子達に比べて、ほとんど着飾っていないことに引け目を感じていた。


「遊びに行くんじゃないんだ。

 俺達は俺達で、目的を見失わなければいい。」


 相変わらず冷静なシアードがそう言うと、セレスは何処となくほっとした顔をした。

 シアードは海を眺めながら、いつもと変わらない様子で煙草を吹かしている。

 その自然体の姿は、どんなに着飾った他の男性よりも、誰よりも素敵だと、セレスは思った。

 だが、そう思うのはどうやら自分だけではないようで、辺りを見回すと、シアードを遠目から眺めている女性が幾人もいる。

 いつもの事なのだが、セレスは何故か面白くなかった。

 ハープはあんたのモノじゃないんだから、とレンジに言ったものの、自分は彼を独り占めしたくてたまらない。

 誰にも渡したくなかった。

 もちろん、彼が見ず知らずの女性になびくはずがないのだが。


「ねぇ、シアード。

 あっち行ってみようよ!」


 セレスはシアードの返事を聞くことなく、いつも通りを装いつつも半ば強引に彼を誘った。

 シアードの腕を引っ張る彼女の表情は、少し気が張っていて、どこか儚げで、そしてとても愛らしい。

 その様子を見ていたハープは、あるセレスの言葉が頭をよぎっていた。



 好きっていうのはね


 ずーっとその人が頭の中から離れなくて


 ずーっと一緒にいたくて


 その人の事を考えただけでもドキドキするの。


 誰にも取られたくないとも思っちゃうかな。



「セレス……シアードを誰にも取られたくないんだ。」


 私は……どうなのかな。


 確かに今、レンジが自分の心の殆どを占めている。

 それが恋なのかどうなのか、仲間としての好意なのか、それとも、セレスがシアードに抱いている想いと同じものなのか。

 未だ、はっきりと分からないでいた。

 

「あ……。」


 ハープはゆらゆらと動く影に、ふと、上空を見上げた。

 そこには、つがいのカモメが並んで飛んでいた。

 言葉を持たない鳥ですら、相手を想う。

 それなのに、どうして自分には分からないのだろう。


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