表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ユニベルの右手 -忌まわしき女神の使命-  作者: 蓮見ななこ
アレス島再び
PR
105/207

105.究極自己犠牲魔法

「セレス……。」


 オリバはベッドに横たわったまま、セレスの頬に手を当てる。


「私は……もう長くないんだろう?」


 セレスは、頬に添えられたオリバの手を握りしめ、首を横に振った。

 彼女の目に溜まっていた涙が、丸みを帯びた手を濡らす。

 自分の身体を蝕む毒は、確実に生命力を削っている。

 セレスが何と答えようとも、それは他の誰でもない、オリバ自身が分かっていた。

 そして、オリバはゆっくりと手を伸ばし、彼女の涙を優しく拭った。


「村はもう駄目になっちまったけど……あんたたちだけでも無事で、ほんっとに良かった……。」


 オリバはそう言うと、笑みを浮かべたまま目を閉じた。

 セレスは最悪の事態が起きたのかと一瞬思ったが、胸元が上下している事を確認すると、ほっとした。

 その時、地鳴りのような音が外から聞こえてきた。


「な、何!?」


 セレスは急いで外に出た。

 そこには、空を見ながら戦闘態勢をとる、四人の姿があった。


 ありえない。

 こうも不幸は続くのかと。


 四人が睨み付けるその先には、ゼロの姿があった。

 ゼロは容赦なく、無数の黒い魔力の球を上空から放っている。

 森を挟んでポートベリーがある方向から、夜空に橙色の光と煙がゆらゆらと見える。

 それが何を意味しているのか、レンジ達は悟った。


「やめろ!!」


 レンジはハープの技をイメージして、二つの炎の球を作り出す。

 そしてそれを、上空にいるゼロに投げつけた。

 うち一つがゼロの頭に命中したことにより、こちらに顔は向けられた。

 長い前髪で、いつもの如く鼻から上の様子は分からないでいるが、確かに顔はこちらを向いていた。

 そして、ゼロは静かに空から舞い降りた。

 あまりの不気味さに、レンジ達の身体はまるで蛇に睨まれた蛙の様に動けないでいた。

 ゼロがゆっくりと手を上にかざすと、そこには風の谷で見た時と同様、赤黒い魔力の球体が現れた。

 あの技の威力がいかに恐ろしいかを彼らは知っている。

 たとえ避けることが出来たとしても、真後ろのオリバが眠っている家が消滅するのは確実であった。

 どうすれば防ぐことが出来るのか、答えが見つからないまま、ゼロの手から赤黒い球体は放たれた。

 

「一か八かだ……。

 天絶防御アブソリュート!」


 ロイドの技で、レンジ達の目の前には強力な風のバリアが張られた。

 赤黒い球体は、木々や瓦礫をなぎ倒し、地面をえぐりながらこちらに迫ってくる。

 目の前まで距離が詰められた時、ロイドの張った風のバリアによって、迫りくる速度が鈍くなった。

 押しつぶされそうになるのを、ロイドは魔力を込めて堪えようとするが、分散させるのがやっとのことであった。

 魔力が尽きたロイドも、バリアに守られていたレンジ達も、叫び声を上げる間もなく後ろへと吹き飛ばされた。

 バリアのおかげで何とか一命を取り留めたレンジ達だが、皆、立っているのがやっとの事だった。

 ロイドに至っては、瀕死の状態であり、既に気を失っていた。


「くそ……!」


 無情にもとどめをさそうとゼロが歩み寄ってくる、その時であった。


「その子らに……寄るんじゃないよ!」


 衝撃によって屋根のほとんどを吹き飛ばされた家の扉から、病床に臥せていたはずのオリバが現れた。


「お、おばさん……!」


 セレスの呼ぶ声に反応することなく、オリバはよろけながらも五人の真ん前でゼロに立ちはだかる。

 まるで、レンジ達を守るかのように。


「カイン……リラ……。

 これが最後だよ……。

 私に力を貸しておくれ……。」


 オリバはそう呟くと、ゼロのいる方向に両手をかざした。

 ゼロは変わった様子もなく、ひたすらこちらに向かって前進してくる。

 そして彼女は、目を閉じて何かを呟き始めた。

 それは、ラクベールの民であるハープですら、今まで聞いたことのない魔法の詠唱であった。

 詠唱が続けられるうちに、彼女の身体から白い光が湧き出てくる。

 今まさに彼女が唱えようとしている魔法は、カインが習得していた、あの禁断の魔法であった。

 術者の命と全魔力を引き換えに、相手を葬り去るという禁断の魔法を、彼女もまた、人知れず習得していたのだ。

 

「レンジ……セレス、シアード……。

 ……愛してるよ。」


 オリバは、擦れた声で家族の名前を呼び、優しく微笑んだ。


「私の大切な子供達を殺させはしないよ!!」


 そしてゼロに向かって、唱える。

 己のすべてを賭けて。


究極自己犠牲魔法ラビオラ───。」


 その瞬間、レンジ達の目の前に眩い光が放たれた。

 爆風が巻き起こり、彼らの身体を風が煽る。

 視界が悪い中、シアードは転がるロイドを咄嗟に抱え、五人で身を固めて吹き飛ばされそうになるのを堪えた。


「おばさーーーん!!」


「嫌……いやぁーーー!!」


 レンジの呼ぶ声は、爆風によってかき消された。

 セレスの泣き叫ぶ声も、届かない。

 

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ