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ユニベルの右手 -忌まわしき女神の使命-  作者: 蓮見ななこ
アレス島再び
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103/207

103.イラプの村

 火の精霊は、レンジに抱きしめられたまま、何も言わず姿を消した。

 消したというよりも、赤色のオーラとなり天に昇った後、それは森に生えているフレア草に還っていったという方が正しいのかもしれない。


「帰ってオリバおばさんに報告ね。」


「あぁ、そうだな!」


「今日はデミスープかしらね。」


「あぁー、いいな!

 久しぶりに食いてぇな!

 ……なんだ、ありゃ?」


 セレスと会話している時、レンジは目の前に見たことのない人型の化け物の姿を確認する。

 右へ、左へと大きく揺れながらこちらに向かってくる姿は気味が悪い。

 それが一体何なのか確認する間もなく、シアードが化け物の喉を目掛けて剣を振った。


「ウ……ガ……。」


 その化け物とは、かつてカリナーンの城で王妃がアカデミーから買付けた毒屍人ポイズングールそのものであった。

 話には聞いていたが、ポイズングールを実際に見たことがあるのは、セレスとシアードだけであった。


「ちょっと……何でこんな奴がアレス島にいるのよ……!」


 いるはずのない化け物の姿に、セレスは胸騒ぎがした。

 ポイズングールの死臭と共に、何かが焦げた臭いも感じられる。

 そして、イラプの方角に目をやると、濃い灰色の煙が上がっていた。


「皆、急ごう!」


 レンジ達は、イラプへと急いで向かった。

 

「ウソ……だろ?」


 そこには、見るも無残な光景が広がっていた。

 暖かみのある村の姿など、とうに無かった。

 破壊され、炎に包まれ、黒い炭と化した家や木ばかりが目に入る。


「嫌……!」


 燃え尽きて崩れ落ちてきた瓦礫からは、真っ黒に焦げた人間の上半身があった。

 ハープは思わず目を背ける。

 ロイドは後ろからハープの両肩に手を当て、彼女が倒れないように支えるが、自身も気を保つのがやっとのことであった。

 人々の亡骸の一部には、はらわたを食いちぎられたような痕跡がある。

 腕や足が片方だけの状態など、ほとんどの死体が完全な形ではない。

 

「グ……。」


 瓦礫が崩れる音が聞こえ、その方向にばっと目をやると、ポイズングールが男の脇腹を咥えたままこちらを見ている。

 背が伸びた、と自分の帰りを喜んでくれた男は、目の前でポイズングールに食われかけていた。


「レン、ジ……!

 逃げ……!」


 言葉は最後まで発せられることはなかった。

 そのまま、ポイズングールは脇腹を食いちぎり、彼らの目の前で男を貪った。

 じゅるじゅると、内臓を吸いながら貪る音に耳を塞ぎたくなる。


「うわああぁッ!!」


 レンジは、目の前で男を貪るポイズングールに飛び掛かった。

 振り上げた拳には、赤い炎が纏われている。


「グ、ギャアァアッ!!」


 ポイズングールは、燃えながら叫び声を上げる。

 それでもなお、レンジは化け物が燃え尽きて塵になるまで殴り続けた。


「レンジ……。」


 ロイドの声に、レンジは息を荒らげ、震えながら振り向く。

 そこには怒りに震え、赤い涙を流すレンジの姿があった。


「……オリバおばさんは、オリバおばさんは無事なの!?」


 セレスの声にレンジは、はっと現状に意識が戻る。


「そうだ、おばさん、おばさーーーん!!」


 レンジを先頭に、シアードもセレスも自分達の暮らしてきた家がある方へと走る。

 ロイドとハープは、三人の後ろをついていくが追い付けない。

 離れていく彼らの背中から、今までに見たことのない必死さが伝わる。

 そして、そこにはポイズングールと闘うオリバの姿があった。

 オリバは身体中はボロボロで、肩で息をしている。

 一方で、ポイズングールには疲れなどないのだろう。

 じりじりとゆっくりとした不気味な動きで、オリバを仕留めようと間合いを詰めている。


「オリバおばさんっ!」


「あんたたち!

 来ちゃダメだよ!」


 オリバの声よりも先に、三人の身体は動いていた。

 セレスが鞭でポイズングールの動きを止め、レンジとシアードが化け物に攻撃を仕掛ける。

 レンジは拳に纏う炎を、そのままポイズングールの顔面に押し当てた。

 灼熱の炎に、声にならない叫び声をあげているうちに、シアードが喉仏にある急所を仕留めたことで、ポイズングールの身体が砂と化した。


「へぇ、やるじゃないか。」


 男の声にレンジ達三人は反応した。

 そこには、自分達の家の扉にもたれかかる黒髪の男・メビウスの姿があった。

 かつて迷いの森で出会ったシング達と同じく、白衣を身に纏っていることから、アカデミーの組織の人間であると三人は気付く。

 そして、メビウスの手にはフレア草が握られていた。


「この村を襲ったのはてめぇか!?」


「いいや、そいつらポイズングールが勝手にやったことだ。

 まぁ、俺が出したんだけどね。

 それより、お前らみたいな奴がポイズングールの急所を知ってたなんて、そっちの方が驚きだ。」


 メビウスはそう言うと、不敵な笑みを浮かべた。

 まるで村を襲った事など、心底どうでもいいと言わんばかりであった。

 レンジは握り拳を作り、わなわなと体を震わせていた。


「絶対に許さねぇ……ぶっ殺してやる!!」


「おっと、俺は戦いが嫌いな性分でね。」


 拳に炎を纏わせ、レンジはメビウスに殴りかかろうとするが、メビウスは素早く詠唱し、手を振りかざして眠りの魔法を唱えた。

 強力な眠りの魔法に、その場にいたレンジ達は膝から崩れ落ち、眠ってしまった。


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