102.精霊のくせに、泣いてんじゃねぇよ
レンジは今まで、「強さ」についてずっと考えてきた。
今まで精霊の加護を授かった三人には、それぞれに強く特別な思いがあった。
仲間が加護を授かる様子を見るたびに、自分には彼らの様に強い気持ちがあるのだろうかと、落ち込んだり頭を悩ませていた。
今まではずっと、精霊に認められて力が欲しいという気持ちから考え込み、時には先走っていた。
だが、今、自分の心の奥にあるこの強い気持ちは、そんな馬鹿らしいものではない。
純粋に、ただひたすら純粋に想い続けてきたこの気持ちは、きっと誰にも負けない。
「俺は……みんなみてぇに大それたモンじゃねえけどよ、俺にとっては一番大切な気持ちなんだ。」
レンジはくっ、と顔をあげ、正直な気持ちを口にした。
「ハープを守りたいという気持ちは、誰にも負けねぇ。
ユニベルの平和のためにとかそんなんじゃねぇけど、でも、俺にはこれしかねぇんだ。
俺はこの気持ちだけで今まで戦ってこれたんだ。
そして、これからもな。」
火の精霊に真剣な眼差しを向けて、誓うように話すレンジに対して火の精霊は笑った。
火の精霊は少年のそう話す姿から、昔、己の命を賭けてまで自分と闘おうとした少年の父親を見た。
十五年前には見ることが出来なかった、誰かを守りたいという人間の強さに賭けてみたいと、そう思ったのだ。
オリバは言っていた。
人間は、守るべき存在があれば強くなれるのだと。
「何がおかしい!?」
「いや……そういう人間臭い気持ちに賭けてみるのも悪くねぇ、と思ってな。
誰かを、いや、女神を守りたいという心の強さ、どれ程のものか見せてみな。
お前に加護を授けてやるよ。」
火の精霊は、天に手をかざしたまま目を閉じて念じると、レンジの元に一粒の光が舞い降りてくる。
そして、光がぱっ、と弾けると、レンジの身体を赤色のオーラが包み込んだ。
自分の身体が、燃える様に熱くなるのを感じる。
そして身体中の血液が、音を立てて巡るような感覚に陥り、耐えきれなくなった彼は思わず膝を地面についた。
「情けないな。
……まぁ、無理もないか。
生身の人間が、俺の力を制御しきれるはずがないからな。
お前にこれをやろう。」
火の精霊がレンジに向かって指を指すと、彼の両手首には、赤い宝石の付いたバングルが装着された。
「こ、これは?」
「紅蓮のバングルだ。
俺の火の力が込められてて、火を制御することができる。
素手で闘ってきたお前に、今更武器なんか必要ないだろ。
それより、ちょっと火をイメージしてみな。」
「火?」
「いいから、とっととやってみろ。」
レンジは、言われた通り握り拳を作ったまま火を思い浮かべた。
すると、レンジの握り拳に突如、炎が現れた。
「うわっ!!
熱っ……くない……。
何だコレ、すげぇ!!」
「お前が今まで素手で闘ってきた拳や蹴りに、俺の炎の力が加わる事で威力も大幅に増すだろう。
触れられないはずの敵にも、炎を纏っていれば触れられるようになるはずだ。
俺はバングルの名から紅蓮拳と呼んでいるが、好きに呼べばいい。」
「ありがとう、えぇと名前……。」
「お前、この島の名前も知らねぇのかよ。」
「……アレス!」
こうして、レンジは火の精霊の加護を授かった。
火・水・大地・風の精霊の四つの力が遂にそろったのだ。
シアードとセレスは、レンジが無事に加護を授かったことに安堵し、ハープはレンジに声を掛ける。
その最中、ロイドだけが、悲しげな眼差しをハープに向けていた。
「レンジ、良かった。
私、ずっと信じてたよ。」
「あぁ……ありがとうハープ。」
意外な反応が返ってきた。
いつものレンジなら、もっと喜びを態度で示すはずだ。
レンジは自分の右手を眺めた後、カインとリラの眠る墓の前へと歩く。
「……父さん、母さん。
俺、火の精霊の加護を授かったよ。
必ず自分のものにしてみせるから、だから……安心して眠っててくれよな。」
「チビ……お前の両親は俺が───。」
「知ってるよ、オリバおばさんから聞いた。」
火の精霊は黙り込んだ。
だが、レンジはくるっと向きを変え、火の精霊に対して笑顔で言った。
目を潤ませ、今にも泣き出してしまいそうな、まるで子供のような笑顔で───。
「俺、父さんと母さんの顔も覚えてねぇんだ!
今更両親って言われても、俺にはオリバおばさんやシアード達がいるから、だから、だいじょうぶ……。」
火の精霊は、レンジの肩に手を置いて、深く頭を下げる。
どうしたんだよ、と声を掛けようとしたレンジだが、ぽたぽたと地面に落ちる水滴が目に入ると、言葉を飲み込んだ。
「……すまない……本当にすまない。
俺を、許してくれ……!」
「……精霊のくせに、泣いてんじゃねぇよ。」
レンジはそう言うと、そっとアレスを抱きしめた。
そして少年も、アレスに顔を埋め、人知れず涙を流した。




