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ユニベルの右手 -忌まわしき女神の使命-  作者: 蓮見ななこ
アレス島再び
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102/207

102.精霊のくせに、泣いてんじゃねぇよ

 レンジは今まで、「強さ」についてずっと考えてきた。


 今まで精霊の加護を授かった三人には、それぞれに強く特別な思いがあった。

 仲間が加護を授かる様子を見るたびに、自分には彼らの様に強い気持ちがあるのだろうかと、落ち込んだり頭を悩ませていた。

 今まではずっと、精霊に認められて力が欲しいという気持ちから考え込み、時には先走っていた。

 だが、今、自分の心の奥にあるこの強い気持ちは、そんな馬鹿らしいものではない。

 純粋に、ただひたすら純粋に想い続けてきたこの気持ちは、きっと誰にも負けない。


「俺は……みんなみてぇに大それたモンじゃねえけどよ、俺にとっては一番大切な気持ちなんだ。」


 レンジはくっ、と顔をあげ、正直な気持ちを口にした。


「ハープを守りたいという気持ちは、誰にも負けねぇ。

 ユニベルの平和のためにとかそんなんじゃねぇけど、でも、俺にはこれしかねぇんだ。

 俺はこの気持ちだけで今まで戦ってこれたんだ。

 そして、これからもな。」


 火の精霊に真剣な眼差しを向けて、誓うように話すレンジに対して火の精霊は笑った。

 火の精霊は少年のそう話す姿から、昔、己の命を賭けてまで自分と闘おうとした少年の父親を見た。

 十五年前には見ることが出来なかった、誰かを守りたいという人間の強さに賭けてみたいと、そう思ったのだ。

 オリバは言っていた。


 人間は、守るべき存在があれば強くなれるのだと。


「何がおかしい!?」


「いや……そういう人間臭い気持ちに賭けてみるのも悪くねぇ、と思ってな。

 誰かを、いや、女神を守りたいという心の強さ、どれ程のものか見せてみな。

 お前に加護を授けてやるよ。」


 火の精霊は、天に手をかざしたまま目を閉じて念じると、レンジの元に一粒の光が舞い降りてくる。

 そして、光がぱっ、と弾けると、レンジの身体を赤色のオーラが包み込んだ。

 自分の身体が、燃える様に熱くなるのを感じる。

 そして身体中の血液が、音を立てて巡るような感覚に陥り、耐えきれなくなった彼は思わず膝を地面についた。


「情けないな。

 ……まぁ、無理もないか。

 生身の人間が、俺の力を制御しきれるはずがないからな。

 お前にこれをやろう。」


 火の精霊がレンジに向かって指を指すと、彼の両手首には、赤い宝石の付いたバングルが装着された。


「こ、これは?」


「紅蓮のバングルだ。

 俺の火の力が込められてて、火を制御することができる。

 素手で闘ってきたお前に、今更武器なんか必要ないだろ。

 それより、ちょっと火をイメージしてみな。」


「火?」


「いいから、とっととやってみろ。」


 レンジは、言われた通り握り拳を作ったまま火を思い浮かべた。

 すると、レンジの握り拳に突如、炎が現れた。


「うわっ!!

 熱っ……くない……。

 何だコレ、すげぇ!!」


「お前が今まで素手で闘ってきた拳や蹴りに、俺の炎の力が加わる事で威力も大幅に増すだろう。

 触れられないはずの敵にも、炎を纏っていれば触れられるようになるはずだ。

 俺はバングルの名から紅蓮拳と呼んでいるが、好きに呼べばいい。」


「ありがとう、えぇと名前……。」


「お前、この島の名前も知らねぇのかよ。」


「……アレス!」


 こうして、レンジは火の精霊の加護を授かった。

 火・水・大地・風の精霊の四つの力が遂にそろったのだ。

 シアードとセレスは、レンジが無事に加護を授かったことに安堵し、ハープはレンジに声を掛ける。

 その最中、ロイドだけが、悲しげな眼差しをハープに向けていた。


「レンジ、良かった。

 私、ずっと信じてたよ。」


「あぁ……ありがとうハープ。」


 意外な反応が返ってきた。

 いつものレンジなら、もっと喜びを態度で示すはずだ。

 レンジは自分の右手を眺めた後、カインとリラの眠る墓の前へと歩く。


「……父さん、母さん。

 俺、火の精霊の加護を授かったよ。

 必ず自分のものにしてみせるから、だから……安心して眠っててくれよな。」


「チビ……お前の両親は俺が───。」


「知ってるよ、オリバおばさんから聞いた。」


 火の精霊は黙り込んだ。

 だが、レンジはくるっと向きを変え、火の精霊に対して笑顔で言った。

 目を潤ませ、今にも泣き出してしまいそうな、まるで子供のような笑顔で───。


「俺、父さんと母さんの顔も覚えてねぇんだ!

 今更両親って言われても、俺にはオリバおばさんやシアード達がいるから、だから、だいじょうぶ……。」


 火の精霊は、レンジの肩に手を置いて、深く頭を下げる。

 どうしたんだよ、と声を掛けようとしたレンジだが、ぽたぽたと地面に落ちる水滴が目に入ると、言葉を飲み込んだ。


「……すまない……本当にすまない。

 俺を、許してくれ……!」


「……精霊のくせに、泣いてんじゃねぇよ。」


 レンジはそう言うと、そっとアレスを抱きしめた。

 そして少年も、アレスに顔を埋め、人知れず涙を流した。

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