ヤンキー聖獣、乱入!? 最強の悪友たちと至福の月見酒
ヤンキー聖獣、乱入!? 最強の悪友たちと至福の月見酒
朝の出来事から少し時間が経ち、輝夜は優太に連れられてポポロ村の中を案内されていた。
「すごい……なんだか、不思議な村ですね」
「まあな。ここは周辺国の『緩衝地帯』だから、いろんな種族が入り乱れてる。それに、俺みたいな地球からの転移者が過去にも何人かいたらしくてな」
優太の言葉通り、村の光景はファンタジーと現代日本がごちゃ混ぜになったようなカオスなものだった。
木組みの素朴な家々の間に、見慣れた青と白のストライプの看板を掲げた『タローソン』というコンビニがあり、遠くには『ルナキン』と書かれた二十四時間営業のファミレスまで見える。
道を行き交うのは、人間の他にも、獣の耳や尻尾を持った獣人族、そして屈強な体つきの魔族の兵士たち。本来なら敵対しているはずの彼らが、ここでは武器を置き、タローソンで買った肉まんをかじりながら談笑しているのだ。
「霞が関みたいにギスギスしてない。みんな、すごくリラックスしてる……」
「前線で泥被ってる分、ここでくらい息を抜かねぇと狂っちまうからな。……さて、そろそろ昼飯にするか」
優太がタローソンの前で立ち止まり、アメスピに火をつけようとした、その時だった。
――バリバリバリッ!!!
突如、虚空に紫銀色の雷が走り、空間そのものがガラスのようにパチンと割れた。
「ひゃっ!?」
驚いて優太の背中にしがみつく輝夜。
しかし優太は全く動じることなく、咥えていたタバコを指に挟み、「またか」と深い溜息をついた。
『オゥオゥオゥ! 優太ぁ! 腹減ったわ、飯食おうぜ!』
割れた空間――次元の裂け目から現れたのは、目を疑うような出立ちの男だった。
誰もが振り返るほどの超絶美形な顔立ち。しかし、その頭はガチガチに固められた黄金の『リーゼント』。背中には『第6聖獣 麒麟降臨』と刺繍されたド派手な金色のヤンキージャージを羽織り、足元はなぜか履き古した便所サンダルという、完璧な昭和の不良スタイルだった。
「……えっと、昭和のヤンキー、さん……?」
「誰がヤンキーや! ワイは誇り高き聖獣やぞ!」
コテコテの関西弁でツッコミを入れた男は、優太の背中に隠れる輝夜を見てピタリと動きを止めた。
「おっ? 優太、誰やこのべっぴんさん。お前、ついに春が来たんか!?」
「馬鹿言え。昨日、森で拾って保護したんだ。輝夜、こいつは陸奥騎麟……通称、リキ。こう見えても一応、次元を超越する『聖獣』らしい」
「らしい、とはなんや! ワイはリキ兄貴や! 街のモンからは『リキの頭』って呼ばれとるんやで!」
ギャーギャーと騒がしいリキだが、その瞳には悪意の欠片もなく、むしろ気のいい近所の兄ちゃんのような親しみやすさがあった。
得体の知れないヤンキー聖獣の登場に戸惑う輝夜だったが、優太が「こいつは俺の悪友だ。口と柄は悪いが、絶対にあんたを傷つけねぇよ」と穏やかに言ったことで、スッと肩の力が抜けた。
*
その夜。
宿屋『月見亭』の裏庭には、小さな縁台が持ち出され、三人のささやかな宴会が開かれていた。
「いやー、優太の奢りやと酒が美味いわ!」
リキが豪快に笑いながら、焼き鳥の串をかじる。
縁台の上には、優太が【地球ショッピング】の善行ポイントで取り寄せた長野の地酒と、ポポロ村特産の『イモッカ(芋焼酎)』、そして宿の主人が作ってくれた月見大根のおでんが並んでいた。
輝夜は昼間のうちに【月詠の窯】で創り出しておいた、三つのお揃いのぐい呑みを並べ、そこに冷えた日本酒を注いだ。
「リキさん、どうぞ。私の地元のお酒です」
「おっ、すまんなぁ。どれどれ……」
リキが輝夜の創った備前焼風のぐい呑みを手に取り、クイッと煽る。
次の瞬間。
「――――ッッ!!??」
リキの目が見開き、金色のリーゼントがビリビリと逆立った。
「な、なんやこれえええええ!!? 魂が、細胞が震えるッ! 酒が美味いのはもちろんなんやけど、この器……! ワイの聖なるオーラが爆上がりしとるやんけ!!」
「うるせぇよ、リキ。近所迷惑だろ」
「アホ! お前分かっとらんのか! この器、ただの器ちゃうぞ! 超極大の浄化とバフがかかっとる! 輝夜ちゃん、これお前が作ったんか!?」
興奮して詰め寄るリキに、輝夜はオロオロと頷いた。
「は、はい。土をこねたら、なんだかできちゃって……」
「マジか……! 優太、お前とんでもない宝を見つけてきよったな!」
リキはガシッと輝夜の両手を握り(優太が即座にその手をぺしんと払いのけたが)、感動に打ち震えるような顔をした。
「優太のダチで、こんだけ美味い酒を飲ませてくれるなら、もう他人やない! 今日からお前はワイの『姐さん』や! 姐さんに手ぇ出す奴がいたら、ワイが聖雷で全員消し炭にしたるからな!!」
「えっ!? ね、姐さん……!?」
突然の舎弟入り宣言に輝夜が目を白黒させていると、優太が隣でクスッと低く笑った。
彼が笑う姿を初めて見て、輝夜はドキリとする。
「良かったな、輝夜。これでも一応、最強クラスの護衛だ。こいつが味方なら、この世界で俺がいない時でも安心できる」
優太は自分のぐい呑みを手にとり、月に向かって軽く掲げた。
「いい夜だ。……乾杯しようぜ」
「おう! 姐さんの門出に、乾杯や!」
チンッ、と澄んだ音が夜空に響く。
輝夜も自分の器に口をつける。冷たくて澄んだお酒が、胸の奥をじんわりと温めていく。
夜空には、東京で見ていたのと同じ、美しい満月が浮かんでいた。
「……綺麗ですね」
ぽつりと、輝夜が呟いた。
「私、東京で働いていた時、ずっと夢見てたんです。皆がそれぞれ頑張って、夜になったらこうして月を見ながら……笑って、美味しくお酒を飲める場所を作りたいなって」
「……」
「でも、私がいた場所はすごく冷たくて、暗くて。……だから、今こうして、優太さんとリキさんと一緒に笑ってお酒を飲めていることが、なんだかすごく奇跡みたいで」
輝夜は器を両手で包み込み、満面の笑みで二人を見た。
「ありがとうございます。私、今、すごく幸せです」
その真っ直ぐで、月の光よりも眩しい笑顔に。
タバコを咥えようとしていた優太の手が、ピタリと止まった。
優太は軍医として、これまで無数の命を救い、様々な人間を見てきた。だが、こんなにも澄み切った、見返りを求めない純粋な美しさを持つ女に出会ったのは初めてだった。
胸の奥で、カチリと何かが音を立ててはまる感覚。
「……甘い理想だな」
優太はタバコを箱に戻し、代わりにぐい呑みを傾けた。
そして、輝夜の顔を真っ直ぐに見つめ返し、静かに、けれど熱を帯びた声で告げた。
「だが、お前が言うなら……悪くない」
優太の黒曜石の瞳に浮かんだ、隠しきれない優しさと独占欲。
その視線に射抜かれ、輝夜の心臓が今度はトクンと大きく跳ねた。
「ヒュー! 優太のやつ、完全に惚れとるなぁ!」
「うるせぇリキ! お前はさっさと酒飲んで黙ってろ!」
茶化すリキの頭を、優太が照れ隠しに小突く。
ヤンキー聖獣と、泥臭くて最高に頼りになるスパダリ軍医。
最強の男二人に徹底的に全肯定され、守られる。輝夜にとって、このポポロ村の月見亭が、世界で一番温かくて安心できる『居場所』になった夜だった。
ここまでお読みいただき、本当にありがとうございます!
ついにヤンキー聖獣『リキ兄貴』が乱入してきました!
見た目は昭和の不良ですが、中身はめちゃくちゃ良い奴で最強の聖獣です。
そして、輝夜のチートバフ器に感動し、まさかの「姐さん」扱いに(笑)。
最強の男二人に挟まれ、徹底的に甘やかされ、全肯定される月見酒の宴。
優太の「お前が言うなら、悪くない」というデレの兆候……いかがだったでしょうか!?
「リキ兄貴、いいキャラしてる!」
「優太の目線にキュンとした!」
「私もこの月見酒に混ざりたい!」
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次回『官僚の血と、泥沼夫婦のメロロン騒動』
平和な村に起きているトラブルに、輝夜の「元エリート官僚」の血が騒ぎます! 内政チートで村をお助け!? お楽しみに!




