【月詠の窯】と一杯の白湯。最強軍医の疲労を吹き飛ばす、規格外の癒やしスキル
【月詠の窯】と一杯の白湯。最強軍医の疲労を吹き飛ばす、規格外の癒やしスキル
小鳥のさえずりと、窓から差し込む柔らかな朝の光で、輝夜は目を覚ました。
木製の素朴な天井を見つめながら、数秒だけ「ここはどこだろう」と呆然とし――昨夜の出来事が鮮明に蘇ってくる。
霞が関での過労、異世界の森への転移、恐ろしい魔獣の襲撃。
そして、圧倒的な強さで自分を救い出し、泣きじゃくる自分に温かいカレーを振る舞ってくれた、あの不愛想で優しい軍医官の背中。
「……夢じゃ、なかったんだ」
身を起こすと、不思議なほど体が軽かった。
東京にいた頃は、朝起きるたびに全身に鉛が入っているような倦怠感があったというのに。十分な睡眠と、昨夜のカレーのおかげだろうか。
輝夜はベッドから降り、乱れた衣服を整える。
(優太さんに、ちゃんとお礼をしなくちゃ……)
ただ守られ、泣いてすがるだけの人間にはなりたくない。
霞が関の激務を生き抜いてきた輝夜の根底には、誰かの役に立ちたいという確かな芯があった。
とはいえ、ここは異世界。手持ちの武器も、大金もない自分に何ができるのか。
考えながら宿の裏庭の井戸で顔を洗おうとした時、輝夜の視線が足元の『土』に釘付けになった。
「この土……すごく、いい土」
長野の山間で育ち、休日には土をこねて備前焼を焼くのが趣味だった輝夜には、土の良し悪しが直感で分かった。
きめ細かく、しっとりとした粘り気。ポポロ村の土壌には、かつての神々の大戦から続く豊かな魔力が宿っているのだが、輝夜は純粋に「陶芸」の材料として心を惹かれていた。
(優太さん、疲れた顔をしてた。……せめて、温かいお茶でも淹れてあげられたら)
無意識のうちに、輝夜はしゃがみ込み、両手でふわりと土をすくい上げた。
彼が戦場で泥を被っているのなら、私はこの土で、彼の心を休める器を作りたい。
そんな祈りにも似た感情を込めて、土をそっとこねる。
――その瞬間だった。
輝夜の両手が、淡い銀色の光に包まれた。
「えっ……!?」
驚く間もなく、手の中の土が意思を持ったように形を変え始める。
ろくろも回さず、窯で焼くこともなく。ほんの数秒の間に、土は滑らかな曲線を描き、高温で焼き締められたような深みのある赤茶色の『ぐい呑み(湯呑み)』へと変貌を遂げたのだ。
「これ……私が、作ったの?」
掌に残る、微かな熱。
それは、輝夜の想いに呼応して発現したユニークスキル【月詠の窯】の力だった。
土をこねて思い描くことで、魔力を帯びた神聖な陶器をノーモーションで創り出す、規格外の創造スキル。
異世界の魔法というものを目の当たりにして少し呆然としたが、出来上がった器のあまりの美しさに、輝夜の頬はパッと明るくほころんだ。
「これなら、優太さんに……!」
輝夜は宿の女将にお願いして、かまどで沸かしたお湯をもらい、その器に注いだ。
茶葉はない。ただの白湯だ。けれど、器に注がれたお湯は、朝日を反射してキラキラと不思議な光を帯びていた。
*
宿の正面に回ると、優太は愛車であるアフリカツインの傍らにしゃがみ込み、手際よくメンテナンスを行っていた。
朝の光の下で見る彼は、昨夜の暗闇で見た時よりもさらに精悍に見えた。
グレーのパーカーの袖を肘までまくり上げ、前髪を無造作に掻き上げながら、口元には水色のタバコ――アメスピを咥えている。
作業を終えたのか、彼がふぅ、と紫煙を吐き出したタイミングで、輝夜は恐る恐る声をかけた。
「あの、優太さん。おはようございます」
「……ん? ああ、おはよう。よく眠れたか?」
優太は振り返り、輝夜の顔色を見て少しだけ安堵したように目を細めた。
昨夜の泣きはらした顔から一転、血色の良くなった輝夜の頬を見て、軍医としての安心を覚えたのだろう。
「はい、おかげさまで。……あの、昨夜は本当にありがとうございました。私、何もお返しできるものがないんですけど……せめて、温かいものでもと思って」
輝夜は両手で包み込むようにして、湯気の立つ備前焼風の湯呑みを優太に差し出した。
「お茶っ葉がなくて、ただの白湯なんですけど……」
「白湯? わざわざ淹れてくれたのか。悪かったな、気を使わせて」
優太はタバコを携帯灰皿に消すと、立ち上がって輝夜の手から器を受け取った。
その瞬間、優太の太い指先と輝夜の指が微かに触れ合い、輝夜の胸がトクンと小さく跳ねた。
優太は器の造形を見て、ほう、と感嘆の息を漏らした。
「……いい器だな。手に馴染む。どこで買ったんだ?」
「えっと、その……さっき、裏庭の土で、私が作ったんです」
「は? 今朝? 土で?」
訝しげに眉をひそめる優太だったが、まあいいかと、器に口をつけた。
コクッ、と喉仏が動き、ただの白湯が彼の喉を通っていく。
――ドクン。
その瞬間、優太の全身を『衝撃』が突き抜けた。
「…………ッ!?」
優太の黒曜石のような瞳が、驚愕に見開かれた。
なんだ、これは。
最前線で兵士の命を繋ぐ軍医官という職業柄、優太の体には慢性的な疲労と、死線をくぐるストレスによる見えないダメージがヘドロのように蓄積されていた。
それが今、白湯が食道を通った瞬間――まるで澄み切った朝の風に吹き飛ばされるように、細胞レベルから完全に浄化され、消え去ってしまったのだ。
関節のきしみも、脳の奥にへばりついていた重い霧も、すべてが嘘のように軽い。
最高級のポーションを何十本も一気飲みしたような、規格外の回復効果。
「優太さん……? あの、熱かったですか?」
目を見開いたまま固まっている優太を心配し、輝夜が首をかしげて覗き込んでくる。
その純粋な瞳を見て、優太は理解した。
(こいつ……自分が何を作ったのか、全く分かってねぇな)
ただの土から数分で器を創り出す能力。
そして、ただの白湯を『万能の霊薬』に変えてしまう、規格外の浄化・付与スキル。
もしこんな力が各国の軍上層部や悪党に知れれば、この真っ直ぐで無防備な女は、間違いなく争いの火種として利用され、すり潰される。
「……いや。驚くほど美味かっただけだ」
優太は、湧き上がる戦慄と、目の前の女に対する強烈な『保護欲』を隠すように、ふっ、と短く笑った。
「あんた、すごいな」
「えっ?」
ポンッ、と。
優太の大きな手が、輝夜の頭に乗せられた。
霞が関でどれだけ完璧な仕事をしても、誰も褒めてはくれなかった。ただ「次もよろしく」と仕事を積まれるだけだった。
それなのに、異世界で出会ったばかりのこの不愛想な男は、ただお湯を淹れただけの輝夜の頭を、とても優しい手つきで撫でてくれたのだ。
「今まで飲んだ水の中で、一番美味かった。……サンキュ」
優太の少し照れたような、けれど心底からの感謝がこもった笑顔。
その破壊力に、輝夜は顔を真っ赤にしてうつむくことしかできなかった。
(ああ……)
空になった器を見つめながら、優太は心の中で密かに決意を固めていた。
(この馬鹿みたいに優しくて規格外な女は、俺が絶対に守り抜く)
ただの『保護対象』から、絶対に手放せない『特別な存在』へ。
泥臭い軍医官の心に、甘く温かい火が灯った瞬間だった。
ここまでお読みいただき、本当にありがとうございます!
輝夜のチートスキル【月詠の窯】が発現しました!
本人は「ちょっと温かいお茶を淹れただけ」のつもりですが、最前線で命を削る優太にとっては、文字通り『魂を救われるほどの一杯』でした。
普段は感情を見せないクールな優太が、輝夜の無自覚な優しさに触れて、思わず「頭ポンポン」してしまうギャップ萌え……いかがだったでしょうか!?
ここから優太の「絶対保護(溺愛)モード」が徐々に加速していきます!
「輝夜ちゃん、無自覚チート可愛い!」
「優太の頭ポンポン、最高にキュンとした!」
「二人のこれからがもっと読みたい!」
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次回『ヤンキー聖獣乱入!? 最高の悪友と至福の月見酒』
ついにあの「リキ兄貴」がド派手に登場します! 輝夜が最強の男二人に徹底的に全肯定される癒やし回です。お楽しみに!




