襲撃と、無双禁止のハイブリッド・メディック
襲撃と、無双禁止のハイブリッド・メディック
ギギギギギギッ……!!
夕日に染まるポポロ村の畑に、硬質な金属が軋む不快な音が響き渡る。
ネクロミミックの右腕から伸びた巨大な蟷螂の刃。
それを、優太は愛用の『ワスプ薙刀』の柄で完璧に受け止めていた。
地球の最新合金と魔法鍛冶技術が融合した薙刀は、死蟲機の凶刃をミリ単位たりとも押し込ませない。
「優太、さん……っ!」
「輝夜、俺の背中から絶対に離れるな。いいな」
優太は振り返ることなく、低く落ち着いた声で命じた。
その声には、霞が関でどんな上司から命令されるよりも強い『絶対の安心感』があった。輝夜は震える足に力を込め、優太の広い背中にしがみつくようにしてコクリと頷いた。
『ギ、ギギッ……! 邪魔ヲ、スルナッ!』
ネクロミミックが合成音声を荒らげ、左腕もまた鋭い刃へと変形させる。
左右からの挟み撃ち。重い駆動音と共に、目にも留まらぬ速さで二つの刃が優太の首を刈り取りにくる。
「……シッ!」
短い呼気。
優太の身体が、まるで風に揺れる柳のようにフッと脱力した。
ロシアの軍隊格闘術『システマ』の呼吸法。極限の状況下でも筋肉の緊張を解き、敵の攻撃のベクトルを完璧に見切る技術だ。
迫り来る刃を、優太は最小限の動き――半歩の身のこなしだけで躱す。
空を切ったネクロミミックの刃が地面に突き刺さった瞬間、優太の反撃が始まった。
「ハッ!」
踏み込みは、中国武術の八極拳。
大地の力を足の裏から吸い上げ、腰の回転に乗せて、ワスプ薙刀の石突き(柄の底)をネクロミミックの胸部装甲に叩き込む!
ガァァンッ!! という衝撃音と共に、ネクロミミックの巨体が大きく後方へ弾き飛ばされた。
『ガ、ピィィッ!? アリエナイ……人間ノ、腕力デ……!?』
「ただの力任せじゃねぇよ。てめぇの重心の隙を突いただけだ」
体勢を崩したネクロミミックに対し、優太は流れるようにワスプ薙刀の刃を振るう。
戸田派武甲流の理合いを用いた、絡め取りの刃。刃先がネクロミミックの左腕の関節部――装甲の隙間にピタリと滑り込んだ。
「吹き飛べ」
カチッ、と優太が手元のスイッチを押し込む。
その瞬間、ワスプ薙刀の刃先から『超高圧の圧縮ガス』が対象の内部に向けて一気に放出された。
元々は大型魔獣の肉体内部を破壊するためのインジェクター機構だが、機械兵器に対してもその威力は絶大だ。
バチュンッ!! という破裂音と共に、ネクロミミックの左腕の関節部から黒いオイルが噴き出し、カマキリの刃がボトリと地面に落ちた。
『ギギィィィィッ!? 腕ガ……ワガ腕ガッ!』
「機械人形のくせに、いっちょ前に痛覚センサーでも積んでるのか。悪趣味な設計だな」
優太は薙刀をくるりと回し、油断なく正眼に構え直す。
圧倒的だった。
力任せの魔法でもなく、ステータスに任せた暴力でもない。極限まで研ぎ澄まされた武術と戦術のハイブリッド。
輝夜は優太の背中を見つめながら、そのあまりの頼もしさに、先程までの死の恐怖が嘘のように消え去っていくのを感じていた。
だが。
優太の黒曜石の瞳は、決して慢心していなかった。
(こいつ、腕を一本飛ばされても出力が落ちてねぇ……。装甲の下には魔法障壁も張られてるな)
優太は一目で、敵の強靭さを正確にトリアージ(評価)していた。
一対一で時間をかければ、勝てない相手ではない。だが、優太の背後には絶対に守らなければならない『輝夜』がいる。
戦闘が長引けば、流れ弾や予測不能な自爆攻撃などで彼女を巻き込むリスクが高まる。
『兵士や医官ってのはな、一人で無双して英雄になるのが仕事じゃねぇ。死なずに、仲間を生かすのが仕事だ』
脳裏に蘇る、教官の言葉。
優太は『俺TUEEE』をひけらかして悦に入るような三流の戦闘狂ではない。
目的はただ一つ。輝夜を無傷で守り抜き、このポンコツを最も安全かつ確実な方法でスクラップにすることだ。
「一人で無双は禁止。……一番賢くて確実な手でいくぞ」
優太は懐から魔導通信石を取り出し、スイッチを入れた。
「おい、大型犬。飯食ってる途中悪いが、村の裏手の畑にちょっと厄介な粗大ゴミが出た。……俺の女が危ねぇ。すぐ来い」
通信石の向こうから、ガシャァン! と椅子を蹴り倒す音と、凄まじい怒声が響いた。
『あァ!? ワイの姐さんに手ぇ出す命知らずのゴミがおるんか!? 今すぐ行くわ、三十秒耐えろ!!』
通信を切ると同時、ネクロミミックが残った右腕の刃を振りかぶり、不気味なオイルを滴らせながら突進してきた。
『増援ヲ呼ンデモ、無駄ダッ! 貴様ヲ殺シ、ソノ女ヲ喰ラウッ!』
「三十秒か。上等だ、凌いでやるよ」
優太は輝夜を背後で庇いながら、CQC(近接格闘術)の間合いでネクロミミックの猛攻を捌き続ける。
激しい金属音と火花が散る中、輝夜はただ震えて守られているだけの自分に、強く唇を噛んだ。
(駄目、私だって……優太さんに守られるだけじゃなくて、優太さんを助けたい!)
霞が関で培った、どんな状況でも自分の役割を見つけ出す思考力。
輝夜の視線が、自分の足元にある『上質な土』と、優太が以前「疲れた時に食え」とくれたポケットの中の『高カカオチョコレート』を捉えた。
「――っ!」
輝夜はその場にしゃがみ込み、両手で土を掴んだ。
頭の中に思い描くのは、優太と、これから駆けつけてくれる頼もしい悪友が、最大限の力を発揮できるような『器』。
淡い銀色の光が輝夜の手を包み込み、【月詠の窯】が発動する。
数秒で完成したのは、無骨でありながらも神聖な気を放つ、二つの黒いマグカップだった。
輝夜は水筒に入っていた清らかな浄化水をマグカップに注ぎ、そこに優太からもらった高カカオチョコレートを割り入れた。
【月詠の窯】が創り出した器の中では、水も食材も瞬時に極上の霊薬へと変質する。
あっという間に完成したそれは、強烈な糖分とカカオの覚醒作用、そして器の極大バフが融合した『特製エナジードリンク』だ。
「優太さんっ!!」
輝夜が声を上げたのと、ネクロミミックが優太の防御を崩そうと大技を放ったのは同時だった。
『死ネェェェッ!』
「……時間切れだ、ポンコツ」
優太がニヤリと笑った瞬間。
――バリバリバリバリッッッ!!!
夕暮れの空が、紫銀色の落雷と共にガラスのようにひび割れた。
次元の裂け目から、凄まじい神気とヤンキーオーラを纏った男が飛び出してくる。
「オラァァァッ!! 誰がワイの姐さんに手ぇ出しとんじゃ、この鉄屑がああああッ!!」
金ジャージに便所サンダル、頭には黄金のリーゼント。
第6聖獣・麒麟の『リキ兄貴』が、右手に数億ボルトの『聖雷』を纏わせて、次元跳躍からの強烈なドロップキックをネクロミミックの顔面に叩き込んだ。
『グガァァァァッ!?』
ドゴォォォンッ!! という爆音と共に、ネクロミミックが畑の奥まで何十メートルも吹き飛ばされ、土煙を上げる。
「遅ぇぞ、大型犬」
「うるさいわ! これでも最速で飛んできたんやで! 大丈夫か優太、姐さんに怪我はないやろな!」
「ああ。だが、あいつはまだ生きてるぞ」
土煙の中から、バチバチと火花を散らしながらも、ネクロミミックがゆっくりと立ち上がってくる。
しかし、優太とリキの顔に焦りはなかった。
背後から、輝夜が二つのマグカップを持って駆け寄ってきたからだ。
「優太さん、リキさん! これ、飲んでください!」
「おっ、輝夜ちゃん! なにこれ、めっちゃええ匂いするやん!」
「チョコレートドリンクです。私の器で作ったから、きっと力が湧くはずです!」
優太とリキは顔を見合わせ、ニヤリと笑ってマグカップを受け取った。
「サンキュ、輝夜。……こいつは効きそうだ」
「姐さんのお手製ドリンクやとぉ!? うおおおっ、テンションぶち上がりやで!!」
二人が一気にドリンクを飲み干す。
次の瞬間、ボワァァァッ! と二人の身体から、目に見えるほどの凄まじい闘気と聖なるオーラが立ち昇った。
疲労回復どころではない、全ステータスが限界突破する極大バフ。
「……さて。準備運動は終わりだ」
優太がワスプ薙刀を構え直す。
リキが両拳を打ち合わせ、紫銀色の雷をバチバチと迸らせる。
「優太、ワイがぶち抜くで。合わせろや」
「へま打つなよ、リキ。……行くぞ」
最強のスパダリ軍医と、ヤンキー聖獣。
ヒロインの愛妻(?)ドリンクで超絶バフのかかった二人の悪友が、鉄屑を完全スクラップにするための蹂躙戦を開始した。
ここまでお読みいただき、本当にありがとうございます!
輝夜のピンチに、優太の『無双禁止』のハイブリッド・メディック戦術が光りました!
俺TUEEEで一人で勝つのではなく、一番確実で安全な「増援(最強のヤンキー聖獣)を呼ぶ」という判断が、リアリストな優太らしくて最高にかっこいいですね!
そして、ただ守られるだけじゃなく、その場でチートバフドリンクを作り出す輝夜の機転!
バフのかかった優太とリキのコンビネーション……ネクロミミックに同情したくなるレベルのオーバーキルが次回展開されます!(笑)
「優太の『俺の女』発言からの連携、最高!」
「リキ兄貴、ドロップキックで登場とかヒーローすぎるw」
「輝夜ちゃんのチョコドリンク、最強のバフアイテム!」
と少しでも胸を熱くしていただけましたら、
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皆様からの「星(評価)」と「ブックマーク」が、優太とリキの次回の火力をさらに限界突破させる最強のバフになります!
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次回『第12話:聖雷喧嘩殺法と、極上のバフ飯コンボ』
怒れる男たちの超絶コンビネーションが炸裂します! 明日も更新しますので、絶対にお見逃しなく!




