08.言葉の重さ
幌馬車の中は薄暗かった。
外からは騎士たちの話し声や、武器を手入れするような金属音、物を運ぶ足音が聞こえてくる。
ミナトは荷物が降ろされて広くなった荷台で、毛布に包まって横になっていた。
――迷惑をかけたな。
頭痛はだいぶ落ち着いた。だが、身体にはまだ力が入らない。起き上がろうと思えば起き上がれる。けれど、そうするとまた気分が悪くなりそうだった。
ぼんやりと布の壁を見ながら考える。魔法を使うなと言われた騎士たちは、どうしているだろう。自分のせいで、余計な手間をかけているのではないか。
そんなことを考えていると、馬車の外に足音が近づいてきた。
「開けるぞ」
返事を待たずに幌がめくられる。
現れたのはアルヴェインだった。
「あ……」
思わず身体を起こそうとする。
「そのままでいい」
短く制される。ミナトはゆっくりと元の体勢に戻った。
アルヴェインは中へは入らず、入口に立ったままミナトを見る。
「具合はどうだ」
「だいぶ良くなりました」
「そうか」
小さく頷く。それだけだった。わざわざ確認をしに来てくれたのだろうか。ミナトはアルヴェインの反応を見つめる。
「今日はもう休め」
アルヴェインは無表情のままそう言って幌から手を離し、踵を返そうとする。
「あの」
気づけば呼び止めていた。アルヴェインが振り返り、また幌を掴んで覗き込んでくる。
「何だ」
「すみませんでした」
言葉にすると、思っていた以上に申し訳なさが込み上げてきた。
「皆さんに迷惑をかけてしまって」
アルヴェインはミナトを見つめたまま、すぐには口を開かなかった。
少しの沈黙のあと、アルヴェインはため息のように息を吐いた。
「隊の運用は私が決める」
先ほどと同じ言葉だった。
「必要と判断したから、そうした。それだけだ」
「でも」
「お前はわざと倒れたのか」
「違います……」
「それなら謝る必要はない。今後、体調の変化があれば隠さず報告しろ。それだけでいい」
命令だった。だが不思議と、冷たくは聞こえなかった。
「分かりました」
頷くと、アルヴェインも一つ頷いた。
「明日も早い。よく眠ることだ」
それだけ言い残して幌が閉じられる。足音が遠ざかっていく。
ミナトは毛布を口元まで引き上げて丸くなった。
この訪問が、アルヴェインの優しさなのか、義務なのかは分からない。警戒心がないとも思えない。
それでも、彼の言葉を思い返すと、胸の奥の重さが少しだけ薄れた。
ミナトは毛布を握りしめ、静かに目を閉じた。




