表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

4/10

03.王都へ

 翌朝、まだ陽も昇りきらない早い時間。

 天幕を出ると、薄暗がりの中、他にも複数の天幕が並んでいるのが見えた。

「こっちだ」

 そう言って先導してくれるのは、長身の若い騎士だった。

 他の騎士たちよりも軽装で、脚の装具を着けていない。代わりに、と言うのか、足首をしっかり保護する分厚いショートブーツを履いていた。

 彼は今しがた、天幕にやってきてイースと名乗った。ミナトの世話役を務めるという。昨日のアルヴェインとの会話から察するに、監視役でもあるのだろう。

 威圧感がなく、親しみやすい雰囲気があった。笑顔を絶やさず、明るく話しかけてくれる。

 昨日の怒涛の出来事経て、ミナトは初めて安心感を覚えていた。アルヴェインはどこかピリピリして見えるし、話しやすくはない。他の騎士たちとなると、話しかけるきっかけすら思いつかない。トイレの場所を聞くだけでも勇気が要った。

 それを思えば、イースの存在はとても心強かった。

 先導されて天幕の間を抜け、馬や馬車が集められている場所へやってくる。

 数名の騎士や軽装の者たちがせわしなく動き、馬の世話をしたり馬車に荷物を載せたりしていた。

 そのうちの一台の幌馬車(ほろばしゃ)に案内される。骨組みに布を張った、屋根がついた大型の荷馬車だ。四頭の馬が横二列に並び、出発の時を待っていた。

「こまめに姿勢を変えろよ。体が固まるとしんどいからな」

 そう言いながら、イースがその辺にあった背の低い木箱を、荷台の後方に置いて階段状にしてくれる。それでも台板までは高さがあるので、膝をついて上がった。

 荷台の中央には人が通れるだけの空間が確保され、その両脇に大量の木箱や食料袋が積まれている。進んだ先の荷物の間に厚手の布が敷かれていた。

「そこな」

 イースが腕を伸ばして示した。どうやら、この狭い空間が自分の定位置らしい。

 人一人が座るには十分で、通路側に足を延ばすこともできる。しかし、厚手の布程度ではクッション性も期待できず、長時間揺られれば腰も尻も痛くなりそうだ。イースの忠告の意味もよく分かる。

 ミナトは振り返り、イースに「ありがとうございます」と礼を言った。するとイースは驚いたように眉を上げる。

「なんで?」

「え?」

「俺たちはあんたを自由にしてるわけじゃない。縛ってないだけで、拘束してる側なんだぞ。分かってる?」

 何を言われているのか、一瞬分からなかった。確かに自由の身ではないし、これから行く場所だって自分では決められない。

 けれど、それとこれとは話が別だ。

「拘束されていたら、お礼を言ってはいけないんですか」

「うーん……そういうことじゃないんだよなぁ」

 イースは複雑そうな表情のまま、ぽりぽりと頬をかく。どうやら話が嚙み合っていないらしい。

「まあ、いいか。どーいたしまして」

 イースは少し照れたように笑うと、この話は終わりだとでも言うように、手をヒラヒラと振った。

「それじゃあ、今後の道程を説明するぞ」

「お願いします」

 ミナトはその場に正座をして、話を聞く体勢をとる。その姿勢にもイースは少し顔をしかめたが、何も言わずに話を続けた。


 イースが説明してくれたところによると、目的地は王都。この森を抜けて平原を行き、山を越えて六日ほどで辿り着くらしい。

 そして王都に到着後、ミナトは魔導監査局という機関に引き渡されるという。

 ここまで聞いて、改めて自分の立場を整理する。

 逃げるつもりはないが、行き先を決める権利もない。少なくとも今は、彼らの判断に従うしかない立場だ。

 それでも、体を縛られているわけでも、牢屋に閉じ込められているわけでもない。こうして話をしてくれるし、食事も居場所も用意されている。

 イースは拘束している側と言っていたが、保護されているようにも感じられる不思議な状況だった。

 右も左も分からない世界で、どこに行けるというのか。昨日のように恐ろしい獣に襲われて終わるのが関の山だろう。

 そう考えると、今は余計なことを考えるよりも、これから向かう場所について知っておくべきだった。

「魔道監査局とは、何をするところですか?」

「知らないのか?」

「んん……ちょっと記憶が曖昧で」

 イースの疑問を適当に誤魔化す。

 自分の状況を説明するには、理解が足りないことが多すぎた。

 違う世界に来たことは、なんとなく分かっている。だが、それを口にしたところで理解してもらえる保証はない。余計な混乱を招くだけかもしれない。

 監査局については、アルヴェインが『魔法の管理と研究をする場所』だと言っていた。しかし、それだけでは実態がよく分からなかった。

 もう少し詳しく聞こうとしたところで、別の騎士が馬を連れて現れる。

「イース!」

「あ、悪い。また後でな」

 イースはそう言うと、軽く手を上げて馬の方へ駆けていった。

 イースが離れると、すぐに別の馬の蹄の音が聞こえてくる。姿を現したのは、アルヴェインだった。

 白馬に跨り、銀色に輝く鎧を身にまとい、青い外套をなびかせている。朝の淡い光を受けて、その姿だけが現実離れして見えた。イースやほかの騎士たちとは違う存在感がある。

「おはようございます」

 気づけば、反射的に挨拶をしていた。アルヴェインは眉をひそめただけだった。

「体調はどうだ」

「お陰様で、大丈夫です」

「では出発だ」

 淡々としたやり取り。体調を心配してくれているとは思うが、それが個人を思いやってなのか、単に義務的に聞いているのかは分からない。

 ミナトは荷物の間の定位置に移動し、膝を抱えて座る。

 それを確認したアルヴェインが、前方に向かって「出立する!」と声を上げる。周りから「は!」という返事や「お気をつけて!」という声が上がった。

 がたり、と大きく荷台が揺れる。そのまま揺れが続き、後ろの景色が遠ざかっていく。

 アルヴェインは幌馬車の斜め後方についた。涼しい顔で馬を乗りこなしている。

 ミナトが後方を見やれば、いつでもそこにいた。監視しているのだろう。一定の距離を保ちながら、決して視界から外れない場所にいる。

 しかし、不思議と嫌な気はしなかった。

 昨日、あの恐ろしい獣から助けてくれた相手だ。何を考えているのかは分からないし、少し怖い。

 それでも、近くにいてくれるだけで守られているような気がした。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ