11.『総団長様』
三日目。
背の低い木々が並ぶ道を抜けると、景色がゆるやかに開けていく。
道の左右には畑が広がり、低い石垣が区画を分けていた。風が吹くたび、実り始めた穂が波のように揺れる。
ところどころに牛を囲っている柵が見え、のどかな鳴き声が風に乗って届いてくる。
空は高く、雲の影が畑の上をゆっくりと流れていく。
その先には集落があった。森を抜けた後に通った農村地帯よりも広く大きく、規模としては町と呼べるだろう。
町に入ると、一行はペースを落とした。
家々は切り出した石と木材で造られており、緩やかな勾配がついた屋根には濃い色の板が並んでいる。通り沿いには鍛冶屋や雑貨屋らしき店もあり、人の往来は活発だ。
町に入ってから、魔法による文字の流れ込みもあった。けれど、うっすらと感じる程度だ。複数の重なりで視界が少しチラつき、軽い頭痛もするが吐き気を伴うものではない。
人々は騎士たちの姿を見ると、横に避けて道を譲る。一行の中にアルヴェインの姿を見つけると、声を上げる者もいた。
「アルヴェイン様!」
「総団長様ー!」
その声が、さらに人を呼ぶ。脇道からも人々が顔を出し、若い女性たちは黄色い声を上げる。子どもたちも元気よく飛び跳ねて、興奮した様子だ。
彼らの声で、アルヴェインがこの国の騎士団の総団長であることがはっきりした。そして、かなりの人気者らしい。
魔物の討伐に感謝を伝える声、こっちを向いてとせがむ声、様々な声が飛び交う中でも、当の本人は眉一つ動かさずに進行方向の様子を見ている。
ミナトは荷物の間で膝を抱えて、人々の声を聞いていた。
一行は、歓迎ムードの中をゆったりとしたペースを守りながら進んだ。
石造りの立派な建物が目立つ。周囲は背丈よりも高い丸太の柵で囲われ、等間隔に立つ櫓の上では衛兵が目を光らせていた。
一行が駐屯地の門前にやってくると、見張りの兵士がのけぞり気味に背筋を正して声を上げた。
「お務めご苦労さまです!」
アルヴェインは頷く。
「今夜はここで休ませてもらう」
「伺っております。どうぞお通りください」
兵士が門を開放して脇に避ける。
すると、中からイースが歩いて出てきた。伝令としての役割を果たしてきたようだ。
「こちらです」
イースが腕を上げて先導する。一行はゆっくりとその後ろについて、中に入る。大きな建物の脇をしばらく進むと、踏み固められた土の広場に出る。
そこは、兵士たちの訓練場らしい。端に何本も立てられた丸太には斬りつけられた跡が無数にあり、円形の的は穴だらけだ。今は誰もいない。
脇には大きな厩が並んでいる。何頭かの馬が見えた。
騎士たちはそのまま厩へ向かい、幌馬車は厩の横に停止した。イースがいつものように荷台に近づいて中を覗き込む。
「具合でも悪いのか?」
荷物の間で縮こまっているミナトを見て、イースは心配そうに声をかける。ミナトはおずおずと姿を現した。
「注目されてたので……」
「皆、アルヴェイン様しか見てないさ」
イースは笑い、ミナトに手を貸す。ミナトは周りを見回してからその手を取り、荷台を降りた。
「人気者なんですね」
「そりゃ、総団長様だしな」
「それだけじゃなくて」
ミナトは腰をさすりながら厩の方を見る。白馬の鼻筋を撫でるアルヴェインの姿があった。
「慕われてる感じがしました」
「ああ。それはもう」
イースは頷く。
「大規模な魔物退治とか野盗退治とか、アルヴェイン様は自分で行くんだよ。だから町の人も感謝しやすいっていうか」
「だから森に」
初めて会った時のことを思い出す。自ら先頭に立って獣と戦っていた。トップであれば指揮官として手を出さなくてもいいはずだ。そもそも、現場に行く必要もないだろう。現に、今は本隊を別の人に任せて離れている。
代わりはいても、それでも自分で行く。だから人に信頼されて慕われる。そういうことだろう。
「それより喜べ。今日はベッドで寝れるぞ」
「えっ。ベッドで寝てもいいんですか」
「いいに決まってるだろ。囚人でもないのに。まあ、俺と同室だけど」
「ああ、いえ、嬉しいです」
腰の痛みを思えば、ベッドで眠れるだけで十分すぎるほどありがたかった。




