表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

13/20

13

大舞踏会で王太子をきっぱり拒絶して数日。

アメリアは、以前にも増して伸びやかに暮らしていた。朝早く起きる日もあれば、お昼までふかふかのベッドで寝ている日もある。

気分によって服を選び、出かけたいときに街へ行き、買いたいものを好き勝手に買う。誰からも口出しされない解放感が心地よかった。


そんなある朝、執事アデルが遠慮がちにやってきた。

「お嬢様……旦那様がお呼びです。今すぐ執務室へお越しくださいとのこと」

「また父様? なんだろう、今度は……」

少し面倒そうに呟きながらも、アメリアはパルミエーレ公爵――父の執務室へ向かう。最近、父が何かと話をしようと呼び出すことが増えたが、彼の態度は前より柔らかいと感じていた。


執務室に入ると、父は机の上に地図や書類を広げ、深刻そうな顔をしている。

「よく来たな、アメリア。急に呼んですまんが……少し困ったことが起きてな」

「領地の話かしら? なにやらそんな空気」

アメリアが地図を覗き込むと、それはパルミエーレ家の所領を示す詳細な地図。広大な農村地帯を抱えながら、最近は生産量が落ちているとか、賊が出没するとか、あまり良くない噂が絶えなかった。


「そうだ。お前も知っているだろうが、このところ領地で色々と問題が多くてな……」

父が言葉を選ぶように続ける。「いかんせん、王太子と縁談があった頃は‘お前は将来王妃になる身’ということで、領地の細かいことからは遠ざけていた。しかし今はどうだ……自分で動きたいと言うなら、むしろ少しは領地を見てきてほしいんだが」


アメリアは目を瞬かせる。

(父様が私に領地を見るよう頼むなんて、珍しいこと。前なら「お前は王宮で暮らすんだ」と逆に抑えられてたのに)

「いいわよ。私もいま自由に生きているし、領地もあまり行ってなかったから興味あるわ。旅行みたいなものでしょう?」

父は苦笑する。「旅行気分でも構わんが、実際問題、領内の役人や代官が勝手をして住民に負担を強いているという噂がある。おまえの目で確かめてくれないか?」


「それ、面白そうね。私、昔なら偉そうに言うだけで何もできなかったけど、今ならスパッと物を言えるし……行ってみる価値ありそう」

こうしてアメリアはとんとん拍子に領地行きが決まる。父は「数日後に出発だ。馬車で三日ほどかかるが……頼んだぞ」とやや不安げだが、アメリアはまるでピクニック気分。


執務室を出て、待ち構えていたマリーに状況を説明すると、彼女は目を輝かせて「領地ですか! 私もお供しますね。アメリア様と一緒に地方を回るなんて楽しみ!」と張り切る。

(“自由に生きる”のは王都だけに限らない。それなら領地でも同じように振る舞ってみせよう)


数日後、アメリアは父から貸し与えられた大きめの旅用馬車に乗り、マリーや数人の使用人と共に領地へと出発した。父自身は仕事の都合であとから合流する予定。

「久々にこんな長旅……大丈夫かしら?」

マリーが心配そうにするが、アメリアはワクワクしている。「今まで殿下の顔色を窺って遠出なんてできなかったから、なんだか新鮮だわ」


王都を離れると、なだらかな田園風景が広がる。途中の村や宿場町で馬車を休めながら進むうち、夕方になると宿屋へ泊まる。

「おお、公爵家の令嬢がこんな辺鄙な宿に……?!」と宿屋の主人が驚き、取り巻きの使用人が「失礼があってはならない!」と大騒ぎになったりするが、アメリアは笑い飛ばす。


「いいのよ、過剰に緊張しないで。私はただの旅人みたいに食事して眠れれば十分」

そんな飾らない態度が村人や宿屋の主人に好感を持たれ、あちこちで「パルミエーレ令嬢は意外と気さくだな」と評判になる。

マリーも感心して「アメリア様、前なら“王太子にふさわしい場所かどうか”なんて悩んでましたよね」としみじみ。


二日ほど移動し、見慣れた王都の風景はすっかり遠くなった。

緑の多い田舎道では野生の鳥がさえずり、普段は貴族が寝泊まりしないような簡素な宿にも気負わず泊まるアメリアの姿に、使用人たちは戸惑いつつも「お嬢様の明るさは頼もしい」と思う。

(こんな風に身軽に動けるって楽しい……。殿下に縛られてた頃とは雲泥の差ね)


三日目の午後、パルミエーレ家の所領の中心にある小さな城下町へ到着。そこに“代官”や“領地役人”がいるはずなのだが、城門での出迎えは拍子抜けするほど小規模だった。

「お嬢様! ようこそお越しくださいました!」と慌てて門へ駆け寄るのは、初老の役人。その背後には使用人が数名といった程度。ファンファーレもなく、簡素すぎる歓迎だ。


アメリアは別に派手な歓迎を求めてはいないが、違和感を覚える。

(父様が来るわけじゃないから、そんなに大げさに迎える必要はないかもしれないけど……それにしても、領地の管理者がこんなに少ない?)


役人は一応腰を低くして、「パルミエーレ公爵家のご令嬢がいらっしゃるなんて、今朝聞いたばかりで……準備不足で失礼を……」と平身低頭。

「あら、構いませんよ。私、形式ばったことは苦手だから」アメリアは笑うが、少し警戒を解かずにいる。どうやら何か隠していそうな雰囲気が伝わってくるのだ。


「ではさっそく町役場へご案内いたします。領地の状況をご説明させていただきますので」

そう促され、アメリアは馬車を降りて徒歩で城下町の通りを進む。村人たちがちらちらと彼女を見ているが、多くはあまり近寄ってこない。少し暗い空気すら感じる。


途中で小さな市場通りを通りかかったとき、アメリアはハッとする。店がまばらに閉まっており、開いている露店も品揃えが乏しい。

(なんだか活気がないわね。王都とは違うとはいえ、もっと地方特産品が並んでてもいいはずなのに)


マリーも困惑気味。「誰もあまり売りたがらないように見えます……どうしてでしょう?」

アメリアが近くの露店で果物を売っているおばさんに声をかけると、おばさんは一瞬警戒するが、アメリアが愛想よく話すと小声で教えてくれた。

「実はここの代官が収穫の大部分を取り上げて、無理やり他所へ売り飛ばしているんですよ。だから市場にはあんまり残らなくて……商売にならないんです」


「収穫物を勝手に? そんな勝手が許されるの?」

「ええ、あの人は公爵家のお偉いさんだからと言って、村人や商人からどんどん取り上げるんです。税を上乗せして支払わないと商売もできなくなるって……」

おばさんは泣きそうな顔。どうやら相当な重税や搾取が横行しているらしい。アメリアは眉をひそめる。


(父様が懸念していたことは本当だったのね。ここの役人が賄賂を得ているか、領地を私物化している可能性が高いわ)

怒りが胸にこみ上げる。しかし今はまだ状況を把握しきっていないので、アメリアはおばさんに礼を言い、「大丈夫、私が必ずなんとかします」とだけ告げて市場を後にする。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ