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城下町の役場へ行くと、さきほどの初老の役人が待っていて一応の書類を見せてくる。だがどの書類も妙に数字が合わないというか、不自然に低い収穫量や税収が書かれており、ちぐはぐだ。
「いえ、今年は不作で……そ、それに災害が多くてですね……」と役人は言い訳を並べるが、アメリアは市場での光景を思い出し、ぴしゃりと切り込む。
「不作なら仕方ないわ。でも市場では、ほとんどの作物が他所に流れているって話を聞いたんだけど。……あなたのところに税が集まってるんでしょう? その行き先は?」
「え? それは、その……まあ、半分は王都へ輸送してるというか……」
「王都へ? そんな輸送記録はさっき見せられた資料に載ってなかったけれど?」
役人の額には汗がにじむ。アメリアがじっと見据えると、彼は目を逸らして「ああ、記録は不備がありまして。後日整えて……」としどろもどろだ。
「後日、ね。……いいわ。じゃあ私が直接、倉庫や保管施設を見て回って確認するから。ついてきてちょうだい」
にこやかに言うアメリアに、役人は「え……?」と固まる。ふだん公爵家の人間がこんな突っ込んだ視察をすることはなかったのだ。
「公爵家直々の視察ですよ? 断る気? まあ、私を王太子妃候補の頃のように丸め込むなんて無理ですけどね」
その言葉がチクリと刺さるのか、役人は観念した顔で「は、はい、わかりました……」と重い足取り。
(さて、ここからが本番ね。)
夕方、アメリアは役人や使用人とともに町の倉庫を巡回する。その結果、帳簿には載っていない大量の穀物や特産品が隠され、どこかへ転売されようとしている事実をつかんだ。
「……あらあら。こんなに物があるなら、不作なんて言い訳は通用しませんよね?」
悪代官的な存在が慌てて「こ、これは余剰分でして、地元の利益になるように……」など苦しい言い訳をするが、アメリアは鼻で笑う。
「あなた個人の懐を肥やすためじゃない? どうやって誤魔化そうと、もう手遅れよ。すぐに私が父様に報告するし、ここに保管されてる品々は農民に正当な分配をさせてもらうわ。――異論ある?」
まさかこんな若いお嬢様から強気で言われるとは思ってなかったのか、悪代官も「くっ……」と唇を噛む。
「申し訳ありません、つい出来心で……」と白旗を上げるが、アメリアは容赦しない。「私が来なかったら、ずっと農民を苦しめたままだったでしょ。後日、父様が正式に処分を決めるまで、あなたは一歩も外へ出られないわよ」
こうしてアメリアの初陣の“領地断罪”が鮮やかに決まった。町の人々にこの事実が知れ渡れば、悪代官が失脚し、税の問題はかなり解決へ向かうはずだ。何より住民が取り戻すべき収穫を少しでも手元に残せるようになる。
視察を終えて夜になり、アメリアは宿泊先の領主館(簡易の小さな館)に戻る。
マリーが興奮気味に「すごかったです、アメリア様! こんなに鮮やかに悪事を暴くなんて!」と目を輝かせる。
アメリアは疲労混じりに笑う。「まあ、思ったより雑な隠し方だったから楽だった。王太子が口うるさかったころなら、私にもこんな行動力はなかったかも……」
「王都だけじゃなく領地でも、アメリア様は強気を貫けるんですね」
「そうね。どこに行っても私は私。……気楽な遊びだけじゃなくて、こういう形で誰かの役に立てるなら悪くないわ」
自分でも思いがけない満足感があった。前は“理想の后”なんて役目を押し付けられて窒息しそうだったが、今は心からやりたいことをやれる。政治に関わるなら自分流で構わない。
こうして、アメリアの領地滞在は始まったばかり。悪代官をひとまず押さえ込んだとはいえ、他にも村のインフラや税務書類の整備など課題は山積みだ。
それでも彼女は王太子のしがらみから解放され、自由なスタンスで臨める。もちろん“遊ぶ”余地もしっかり確保するつもりだ。
(王太子との関係を一掃して、こんなにも世界が広がるなんてね。私って案外、こういう政治ごとも嫌いじゃないかも)
アメリアは夜の窓を見上げながらそう思う。
明日は農村部へ足を伸ばして、実際に住民たちと話してみよう——きっとまた何か面白い発見があるに違いない。




