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蘇術少女のリヴォルト  作者: 天木蘭
3章.人々に望まれたもの
56/60

3-13

更新までしばらく掛かってしまい申し訳ありません。今日から通常通りの更新になればいいなと思っています。

また空くようであれば、一度忘れていただき、思い出した頃に読むとちょうど良いかもしれません。この物語は長く、すぐに完結する予定はありませんので。

章の単位で見ると、三章が終了すると全体の25%という予定です。

 アヴァの反応が希薄になってから、数日が経過した。陽は高くに昇り、停滞したように穏やかな陽気を地上に溢れ落としている。

 ブラムはため息を吐いて、剣を研ぎ始めた。アヴァがこうなってから、彼は訓練や外出を控え、常にアヴァと一緒に室内にいる。ただ、盛り上がるような会話の話題も見つけられず、押し込められたような閉塞感と共に日々を過ごしていた。


 外は、どうなっているのだろうか。アヴァの蘇生が使えなくなり、期待を胸にこの地へ訪れた人々は、さぞかし気を落としていることだろう。しかし、蘇生の力があったとしても、最近は気を落とす人が増えていた。


 噂が広まるにつれて、腐った死体や袋詰めの灰など、蘇生できない死体を持ってくる人間も増えて来たからだ。未練を背負ってここまで来ては、それを引きずって帰っていく。そんな光景を、幾度となく目にした。その度に、アヴァが苦しそうな表情をするのも。


 ブラムが、そんな顔をする必要はない。なにも悪くない。そう言っても、アヴァは微笑むばかりで、彼には意図を介されながらもそんな反応をしてくる妹を、見ていることが辛かった。人の枠を超えた力は、こんな少女に与えられるべきではなかったのだと、心の中で何度も思っていた。


 そんな願いが、届いてしまったのだろうか。などと、なんでもそこへ結びつけてしまう。

 変化のない部屋の中があまりにも退屈で、考えることしかできないからだろう。ブラムは、今のアヴァに見られながらでは、素振りでさえままならない気がしていた。そうしてようやく、剣でも研ごうかと思い至った。


 何もせずにいるのは、無駄でしかない。しかし、アヴァと話す気にもなれない。いっそ、話さないでいい理由が欲しい。そこで、この作業はちょうど良いものだった。

 本当は、話すべきなのだろう。それは、ブラムもなんとはなしに理解していた。ただ、彼女の口から出てくる冷たい言葉が、守る意味を見失わせそうで、アヴァをアヴァと認識できなくなる前に、彼は会話を放棄することにした。


 アヴァも、それを気にした様子がない。なにを考えているのかもわからない。水を透き通らせたような瞳からは、なにも読み取れない。時折、長く目を閉じてみるときは何か考えているのだろうし、何らかの教えを請いに外へ行くことだってある。

 しかし、ブラムはそこに関わりは持たず、護衛やお付きの女性よりも距離を取っている。ついては行くが、部屋の外だったり、廊下の隅だったり、見通しの良い場所に立って待つのだ。自然なようだが、今までなら間違いなく同じ空間にいたであろう。

 だが、アヴァは何も言ってこない。それもまた、ブラムにわずかながらの恐怖を与えていた。死すらも厭わないだろう今の彼にとって、そこまでの恐怖を与える存在はそう多くないだろう。


「入るぞ」


 ブラムが、ガルトの剣を研ぎ終わった頃、プラットが来た。足音の数から、他にも一人いるのが感じ取れた。


「頼まれた奴だが、とりあえず、問題は無さそうだ。まあ、お前の紹介だから大して調べてもいないんだが、枢機卿との接触はないとの報告が来たからな」


 プラットが引き連れて来たのは、オッドだった。騎士の格好はしておらず、糸がほつれた白いシャツに、丈の合わないダボダボのパンツといった装いだ。プラットが警戒して、武装はさせなかったのだろう。


「よろしくお願いします、でいいのかな」


 オッドは頭を下げた後、アヴァの方に視線を流す。その両目に、アヴァの姿がどう映ったのかは、これから話すことになるだろう。ブラムは少しばかり気が重くなった。


「じゃあ、あとは任せた。俺もいろいろ忙しくなったからな。アヴァ様さえ回復すれば解決するから、頼んだぞ」


 これまでは見えなかった焦りを見せて、プラットは扉を出る間際にもう一度「頼んだからな!」と、念押しするように言うと出て行った。ブラムは、自分の思っているよりも、事は深刻なのかもしれないと考える。するとやはり、ここを出て行った方がいいのではないかと思ってしまう。アヴァの幸不幸に拘らず、ここにいれば何らかの害を受ける気がした。


「ブラムさん、なにかあったんですか? 僕がここに呼ばれるのも不思議ですが、アヴァの様子もおかしいような気がします」

「ああ。ちょっとばかし、俺の話を聞いてくれ」


 ブラムは、苦笑しながらオッドに話し出した。彼が苦笑といえど笑みを表すのも、アヴァを除けばオッドのみだった。それをブラムは、固まっていた表情筋から感じ取る。心も軽くなったような気がした。


「そんなことが起きていたんですね。でも、そんなことを僕に話して良かったんですか?」

「どうしてそう思うんだ?」

「僕は、この中ではそんな重要な話を聞くべき立場ではないですから」

「気にするなよ。俺たちは同じ村の出身で、幼馴染なんだから。あの小さな村でも、遠く離れたこの大きな組織の中でも、変わりはないさ」


 ブラムは、彼自身が思っている以上に、オッドに対して心を開いていた。それは、最も会話を楽しめる相手だからに他ならない。

 同じ村の記憶を共有し、アヴァと違って同性の気安さもある。アヴァを不安がらせないために、全てを抱え込んで来たブラムだが、それもオッドになら話してもいいと思えた。オッドなら話したところで関係はないし、時には助言も貰えるからだ。敵でないとわかっている存在は、ブラムにとって稀有だ。だからこそ、今のブラムにとっては、年下の幼馴染であるオッドが、親友といってもいい存在になっていた。


「はは。ブラムさんと話す度に、だんだん、昔に戻っているような気がしますね」

「ならその、さん、ってのもやめろよ。あの村に、そんな言葉遣いは無かっただろ?」

「まあ、そうなんですけど、これは僕にとって、大切なことですから。……ブラムさんには、言っておこうかと思います。ここでの話は、外には聞こえませんよね?」

「それは、どうだろうな」


 ブラムは今まで、それを考えたことはなかった。アヴァと秘密の話をすることはなかったし、むしろ聞こえているのならば、逃げるつもりはないだろうと考えた護衛の警戒心を減らすこともできる、ぐらいにしか考えていなかったからだ。


「なら、この声で話させてもらいます。アヴァに聞こえても、どうなるかわかりませんし」


 声量を抑えて、オッドは話しかけてくる。ブラムは、オッドが来てから初めてアヴァの方を向いてみるが、彼女はこちらの方をずっと見続けているだけだ。会話は聞いていたのだろうが、なにか思うところはあったのだろうか。そもそも、オッドがオッドだと、認識しているのだろうか。それとも、認識した上でこの無反応なのだろうか。ブラムには、わからない。聞くこともできない。


「わかった。それだけ、重要な話なんだな」

「ええ。驚かないで、聞いてくださいね」


 ブラムは、これだけの前置きをするのだから、さぞかし衝撃的な話なのだろうと、内容を検討してみる。が、彼が驚くような話、それもこの場面で、なにも思い当たることはなかった。それは、オッドに対する信頼への裏返しでもある。最も警戒すべき思考を、真っ先に選択肢から外したのだから。

 しかし、オッドの言葉は、それを伝える。


「僕は、枢機卿との内通者です」


 ブラムは咄嗟に手を剣の柄に伸ばそうとした。慣れた動作というよりは、身に付いた反射的な動作だ。しかし、手は掴みあぐね空を切る。さっきまで研いでいたために、手元に剣は無かった。


「落ち着いてくださいよ」

「いや、落ち着いてる。ただ、ついな」


 ブラムは弁解に多くを語りはしなかった。オッドには既に、それが伝わっているようだ。彼の声に、震えた様子も怯えた様子もない。


「つまり、裏切り者ということか?」

「まあ、そういうことにはなりますね。でも、ブラムさん達の味方にはなろうと思っています」

「どういうことか、説明してくれ」

「もちろん」


 ブラムは、もう一度アヴァの方を窺う。自分の様子に違和感を覚えていないかを確かめるためだったが、相変わらず瞳になにを写しているのかわからない。


「まず、僕がこの町に来たのは、騎士に連れられてのことでした。村が襲われた後、アヴァ達が出て行った後のことです。騎士がやってきて、あいつらを追い払いました」

「それは、都合が良すぎないか? そんな兆候は無かったはずだ」

「ええ、その通りです。でも、その時の僕らは、そんなこと気にしませんでした。助けられたことが、重要でしたから。その後、騎士は数日ほど滞在し、僕は彼らについていくことにしました」

「騎士の謎は、放置か?」

「ブラムさんの気にすることではありません。きっともう、あの村に戻ることもないでしょう?」

「……まあ、そうだろうな。あそこに今更戻ったところで、なにも帰ってこないのはわかりきってる」


 父の死体くらいはあるだろうかとも思うが、それだって腐っているか灰になっているかだ。村の人にも嫌われているだろうし、幸せになどなりようがない。


「なら、放っておいて大丈夫です。で、僕は騎士になるため、訓練生になり、その間に枢機卿の元に招かれました。外からの人間を、囲っておきたかったのでしょう。思惑があるみたいですから」

「その思惑に、心当たりはあるのか?」

「枢機卿は、教祖の立場を無くし、自分らがこの町を治めようとしています。周りより秀でているがばかりに、今の立場では心が収まらなかったのでしょう」

「そういうものなのか。それで、この組織にもオッドが送り込まれたんだな。なら、枢機卿はこの組織の存在を知っているのか?」


 そうだとしたら、これまで全く裏切り者を見つけられなかったということになるし、枢機卿側が動いていないのも不気味だが。


「いえ、僕がここにいるのは偶然です。外部の人間だったから、初期に誘われただけで」

「それでも、枢機卿と通じているのなら、情報は出しているんじゃないのか?」

「そうですね。ただ、僕は枢機卿らが好きではないので、嘘ばかり伝えていました」

「どういうことだ?」

「枢機卿たちへの対抗勢力がいます。それはかなりの規模です。自分が内部から崩してきます、なんて言ってかなり経っていますね。それを口実に、しばらく接触も絶っていました」


 ということは、この組織は大した数じゃなかった頃から、既に大きな存在として伝わっていたというわけだ。ならば、枢機卿がオッドに一任したというのも、理解はできる。

 仮に、その大きな対抗勢力と正面から衝突した場合、枢機卿らの仲間になる人間が、そう多くない場合があるからだ。それは、対抗勢力が大規模になっているという前提から、想定できる。それなら、犠牲も少なく、表に出ないまま崩れてしまえばいいと、そう考えるのは自然だ。


「オッドが内通者を勧誘せよ、とは言われなかったのか? いくら都合がいいとはいえ、お前一人にそこまで信用を寄せるとも思えないが」

「どちらでも良かったんでしょう。僕が既に、対抗勢力に引き込まれている可能性だってある。それを確かめる術はありませんがね。だから、どう動くかを見て、それを見極めるつもりだったのかと」


 憶測でしか話すことはできないが、ブラムはその話を飲み込むことにした。疑い続けるべきではあるが、まずはオッドが内通者であることを明かした理由を知ろうと考えた。


「それで、一旦は納得しておく。なら、内通者だと告白したのはどうしてなんだ?」

「僕は、枢機卿でも組織でもなく、アヴァの味方です。それは、あのとき、あんな別れ方をしてしまったときから、決めていたんです」


 オッドは、噛みしめるように呟いた。そうして、アヴァの方に顔を向けると、軽く微笑む。ブラムもアヴァの方を向いてみるが、目が丸くなっているように見えた。それは、最近のアヴァにしては珍しく、人間らしい反応であった。


「アヴァ」

「なに? お兄様」

「その、なにか、驚くようなことでもあったのか?」

「……その男の人は、オッド、なの?」


 声が震えているようだった。それどころか、雰囲気が変わってしまった、いや、戻ったような。ブラムは、その変化を喜べばいいのか、また恐れなくてはいけないのか、戸惑った。


「やあ、アヴァ。久しぶりだね。会うことは、ないかと思っていたんだけど。そうじゃないと、あのやり取りも恥ずかしいだけでさ」


 ブラムは、アヴァがオッドの親を蘇生しようとし、失敗したときのことを思い返した。オッドはあの時、もう二度とアヴァに会う気はなかったのだろう。そうでないのなら、その場で自分の正体を明かしてしまえば良かったのだ。

 アヴァも、察してはいたはずだ。逆に、オッドがあの場で自ら明かすようなことをしなかったから、慎重な点を評価したブラムの信用度は上がったとも言えるが。


「やっぱり、あれはオッドだったのね。わたし、その、怖かったの。ずっと、恨まれているんじゃないかって。あんな酷いことがあって、それで、蘇生もできなくて、なにも、できてない……」


 アヴァは、元に戻ったようだった。それを、どう解釈すればいいのか、ブラムは思考に耽る。

 何らかの病が、この瞬間に、偶然にも回復した。あるいは、超常的な力により起こったこの現象は、しばらく待てば治るようなものだった。と、いくつか考えてはみるが、原因が明らかにならなければ、やはり解決法もわかりはしない。


「いいんだ。アヴァは悪くない。ただ、僕が子供だったから、目の前のことしか見ていられない子供だった、それだけだよ」

「違うわ。わたしに受け継がれた力が原因。だから、わたし達が悪い。それは変わらないの。……でも、オッドだけでも許してくれるなら、それは嬉しいことだと思う」


 アヴァが、どこかぎこちなくも、口元を緩める。ただ、まだ違和感を覚えるような仕草であっても、その笑おうとした行為自体が、ブラムにとっては特別なものに思えてくる。


「アヴァ、全部治ったのか?」

「治った、のかな。確かにおかしかったとは思うけど、わたしはそれが自然なことに思えていたから。だから、わたし自身が変わっていた、みたいな感じで、うまくは言えないのだけど」

「いや、いい。無事なら、それでいいんだ」

「無事? ……いえ、わたし、ひどいことを考えて、言葉にして、たくさん傷つけて……」


 平然としていたアヴァの様子が豹変する。顔からは血の気が引き、口元にやった両手は吐き出しそうな何かを抑えきれないように震えている。


「気にするな。フィンだって、あの場にいたらそう言うさ」

「関係ない! わたしは、あんなことを考えたわたしが嫌なの。それに、それに、フィンだけじゃないわ。お兄様のことだった、ひどいことを考えてた!」


 ブラムは、聞きたくないと、そうすぐに思った。アヴァは、今にもその考えていたことを言い放つだろう。そこまで察していてもなお、耳を塞ぐことは出来ず、止めようと手を伸ばすくらいしかできなかった。


「お兄様は利用できるって。わたしが最後の家族だから、何があっても守ってくれるって。幸せになるために、どんなことをしたって、お兄様は許してくれるって。お兄様は、それを望んでいるから、なんでもやっていいんだって! そんなことあるはずない! そもそも、友達や家族を、利用するなんて、道具みたいに思っていいわけない!」

「……アヴァ、俺は、気にしないから」


 ブラムには、そう言うことしかできなかった。それは、単にアヴァの発言にショックを受けたわけではなく、どちらかといえばアヴァの思いが心に刺さったのだった。

 利用する、それは、ブラムにとって当然のことだった。生きるため、アヴァを幸せにするため、そんな言い訳を盾にするわけでもなく、ごく自然なことだと考えていた。彼にとって、重要なのはアヴァだけなのだから、それも仕方ないことではある。ディルに騙されたことも、拍車を掛けていたのだろう。信頼できる人間などいないという、猜疑心から生じたものだと言える。


 だが、それをその妹に糾弾されてしまった。これまで、ブラムは幾度も心を痛めてきた。山賊たちと過ごした日々のトラウマ、人殺しのような顔になったとオッドに言われたこと、守るべき存在が、その存在を揺らがせたこと、そして、守るべき存在に、自分の行いを糾弾されたこと。


 彼は、決して心が強いわけではないだろう。鍛えるような機会があったわけではないし、普通の少年のように成長することもできなかった。ただ、翻弄されなく状況の中、妹のために耐えるしかなかっただけだ。


 だからこそ、今この場で崩れ落ちてしまわないためにも、吐き出したい思いを胸中に留めるためにも、最低限のことしか口には出せない。


「お兄様が気にしていなくても、許してくれても、わたしにとっては、そんなことを考えたってことが嫌なの! だって、そんな、人間を道具みたいに思うなんて、あの人たちと変わらないもの!」


 ブラムには、あの人たちというのがすぐにわかった。あそこにいたのが心なき人間だったのではなく、ほとんどは仕組みを考えた人間の影響であったことを、ブラムは知っている。ディルがどれだけの感情を込めて殴ったか、それは知らなくとも、巨悪であったことだけは知っている。


 だが、それが仇となっていた。そんな人間と変わらないと、ブラムの行いがそういうものであると、アヴァはそう言っているのだ。


「アヴァ、そんなことない。そんなことないんだ。仕方ないことなんだよ」


 ブラムの言葉も、否定というよりは擁護に近いものになっていた。根拠があるわけでもなく、拒絶で示すことしかできないが、ただ、その言葉はどうしても否定したかった。その強烈な思いは、アヴァを気遣う気持ちと重なって、心の中で燻ってしまうが。


「さっきも言ったわ。関係ないの。わたしが嫌だから、それだけだから。お兄様も、幻滅したでしょう? わたしのことなんて、放っておいていいのよ?」

「そんなこと、できるわけないだろ。俺は、お前の兄なんだぞ」


 ブラムは、妹なのだから、そう考えている。だが、仮に今ブラムがアヴァから離れたのならば、生きる目的を失ったブラムは、いつしか死んでしまうだろう。あるいは、それを無意識に自覚して、ブラムは縋りつこうとしているのかもしれない。


「家族だって、関係ない。わたしは、こんなわたしを嫌いになったんだから、きっとわたしがお兄様だったなら、こんな子は置いていくわ。……怖いもの」


 怖い、というアヴァの示した感情に、ブラムは反応できなかった。ただ、否定したくて、一緒にいられる理由が必要で、繫ぎ止めるための言葉を発しようとした。


「アヴァは、自身のことが怖いんだな」


 しかし、ブラムから言葉が発せられることはなかった。目の前を遮る手が現れたからだ。代わりに口を開いたのは、これまでブラムの視界から消えていたオッドだった。気づけば彼は、さっきよりもブラムの元に近づいている。そして次は、アヴァの方に歩み寄る。


「だって、わたしには、あんな考えできないはずなのに……。あんなこと、考えたことなかったのに……。それにね、それが正しいことのように思えていたのが、とても怖いの。わたしが、本当はあんな人間なんじゃないかって、ひどいことをする人たちと同じような人間なんじゃないかって」

「そんなことないよ。それはきっと、病に違いないよ。君は、たくさんの人を蘇生してきた。そんな風に、病んでしまうほどにね。自分の身を削ってまで人のために生きるなんて、君の言う人間には出来ないんじゃないかな?」


 オッドは、ブラムから聞いた話を基に、アヴァの言っている人間がどのような人間なのか、想像できていた。それは、実際に体験していないのと、ブラムからの話があったために、アヴァの考えている者より残忍な姿であったが、それが影響することはなかった。


「……確かに、そうかもしれない」

「でしょ? それに、もしかしたら蘇生を行ったことが病の原因だったとしても、アヴァはまた蘇生をするんじゃないかって、そんな気がするけど」

「それは、もちろん。だって、困っている人がいたら、助けてあげたいから」

「ね? 君は優しい人だ。大丈夫、いくら病んだとしても、僕やブラムさん、それにフィンって子も、本当のアヴァを知っている。だから、不安になっても心配しないでいい。僕らは、わかっているからね」


 オッドはそう言って、アヴァの頭を撫でる。すると、アヴァは咽び泣き始めた。オッドは丸まった背中を撫でてやり、そのまましばらくそうしていた。


 ブラムはそれを見て、いろいろ思うことはあったものの、全ての感情を出すまいとした。

 そして、もしも、アヴァを他人の手に委ねるなら、オッドに委ねようと、一つの決意を固めた。

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