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蘇術少女のリヴォルト  作者: 天木蘭
2章.心の支え
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2-4

「なるほど。承りました。では、ブラムさんが騎士になったときは、一部の収入をこちらへ寄付してくださるということですね」

「はい。アヴァをお願いします」

「わかりました。丁重にお預かりします」


 アヴァとブラムは、キーファのいる孤児院に戻ってきた。アヴァが一緒に住むと知って、ジーンはすぐさまアヴァにすり寄ってきた。


「では、俺はこれで失礼します。もし、時間に余裕があれば、アヴァの顔を見に来ます」

「最初は訓練、次は騎士としての仕事で、なかなか余裕はないかもしれませんね。寄付については、あちら側からできるでしょう。中には、悪徳な者もいると伝え聞いています。そうした輩には気をつけてください」

「そうします。アヴァ、じゃあ、しばらくかどうかはわからないけど、お別れだ。大丈夫だよな?」


 アヴァは、素直には頷くことができない。これまで、あの地下で、エフィーも連れて行かれて、それでもフィンという友人がいたから、独りにはならなかった。決して短くはない期間だ。

 だが、それが平気だったはずもない。もう一度会えるはずだという、希望を持っていたから耐えられたのだ。


 そうして脱出したあとは、いつもブラムがいた。守ってくれる存在がいた。望んで、再び家族と離れ離れになりたいなどと思うはずもない。少なくとも、それは彼女にとっての幸せではない。


 だが、受け入れるしかないということもわかっていた。生活するのに必要だという、お金。その知識はエフィーから得ていた。

 そう考えると、やはりガルトとの生活が、最も幸せだったのではないかと彼女は思う。しかし、兄に従ったのもまた彼女の意思だ。だからこそ、やはりこの現状を受け入れて、彼女のもう一つの思い、兄の枷にならないという願いを叶えるしかない。


 今はまだ、枷にしかならない。だけど、それを外して、兄も幸せになれるような、そんな暮らしを得るために。でなければ、今の兄は、今のわたしから離れることを、むしろ望んでいるかもしれない。


「大丈夫。フィンもいるから、心配しないで、お兄様」

「……そうか。うん。そうだな。フィンもいるし、大丈夫だ。じゃあな」


 ブラムは、アヴァの頭を撫でる。ガルトの店にあった高価なものを手入れするときよりも、優しい手つきだ。

 そして、ひとしきり撫で終わると、外へ出て行った。一度も振り返ろうとはしなかった。


「では、アヴァさん。部屋に案内しましょう。個室に余裕がないので、誰かと相部屋になるかと思いますが……ジーンがいる部屋がいいですかね」

「先生、わたしもアヴァさんに来て欲しいです」

「とのことですが、よろしいですか?」

「はい。ジーン、よろしくね」


 アヴァがジーンに微笑むと、ジーンもアヴァに微笑み返す。キーファもその光景に、どこか満足そうだ。

 これから夕食の準備があるということで、ひとまずアヴァはジーンに部屋を案内してもらうことになった。


「一人か二人の部屋が多いです。ときどき、とっても小っちゃい子は、院長先生じゃない先生が担当したりします」

「他にも先生がいるの?」

「はい。でも、そうした子どもは、他のところで育てられてからここに来るので、見たことないです。だから、ここには院長先生しかいません」


 だから先生と呼ばれているのか、とアヴァは納得する。他にも先生がいれば、きっと名前も呼んでいるはずだ。


 他にジーンの説明として、ここにいる子ども達のことだったり、アヴァくらいの歳の子は少ないということだったり、いろいろな話を聞いた。

 そして、二人の部屋に入る。


 窓があり、ベッドを五つほど置けば床が見えなくなりそうな部屋だ。あまり物はないが、棚と机は置いてある。ベッドは二つあるが、使われているのは片方だけのようで、もう片方は布団を敷くための台しかない。


「たぶん余っているので、あとで布団は持って来ましょう。棚の中は服が入るので、入れてくださいね。もしも貴重なものがあったら、ちゃんと持っていてください」

「わかったわ。じゃあ、服だけ置いておこうかしら」


 荷物のうち、服は重さこそないが邪魔だったため、袋から出して折り畳み棚の中に収納する。金属や装飾品は、袋に入れて腰にくくりつける。

 服を収納し終わったタイミングで、フィンがポケットから飛び降りた。


「あら、どうしたの?」


 孤児院に戻って来てすぐに、キーファに住みたいという意思を伝えるとともに、フィンの存在も説明した。そのときには起きて大人しくしていたのだが、今更になって動き始めた。

 服を収納するために屈んでいたからだろうか。


「わっ。どこに行くんですか?」


 フィンはそのまま、ジーンの足元をすり抜けてどこかへ行ってしまった。


「探検かしら。新しい場所に来たから、周りが気になるのかも」

「大丈夫なんですか?」

「きっと大丈夫よ。もしかしたら、あの子はわたしよりも賢いかもしれないわ」


 ジーンは当然ながら信じられないようで、不審そうな表情を浮かべるが、アヴァは本気でそう思ってもいた。きっと、フィンは兄とは違う方法で守ってくれるだろう。


「今日の夜が楽しみね」

「どうしてですか?」

「いっぱいお話しましょう?」


 ジーンはキョトンとしたが、すぐに気づいて目を輝かせながら頷いた。


「布団を持って来ましたが、よろしかったですか?」

「え、あ、ありがとうございます」


 ジーンの背後に、キーファともう一人女の子が現れた。キーファが布団を、女の子が枕を持っている。


「先生はやっぱり優しいですね」

「まあ、孤児院にいる子は、全員我が子のように思っていますからね。そうだ。アヴァさん、この子はレイラです」

「よろしくお願いします」


 レイラは大人しそうに見えたが、人見知りなだけなのかもしれない。髪はショートで、アヴァよりも淡い金髪。背はアヴァよりも低い。


「こちらこそ、よろしくお願いします。とりあえず、布団と枕は受け取りますね」


 キーファの両手に抱えられた布団を、台の上に置く。次にレイラから受け取り、同様に置いた。あとで整えるつもりだった。


「アヴァさんは料理はできますか? ここでは協力して生活してもらうことになっているので、なにかしら手伝ってもらいたいのですが」

「できます。教えてもらったので。味が皆に合うかはわかりませんが」

「なるほど。では、味付けの程度もわかりますし、早速手伝ってもらいましょうか」


 キーファの方へ近づくと、レイラが睨んで来たような気がした。気のせいだろうと思いながら、四人で調理場へ向かう。


 その後、料理に挑戦してみたが、味覚はそれほど差はないようだった。作られた料理も知っているもので、ガルトがこの国出身だったからというのもあるだろう。

 できた料理は全員に配り、大きな卓を囲んで、皆と夕食を共にした。来たばかりのアヴァに、尻込みする子もいれば、物珍しげに話し掛けてくる子もいた。


 旅の話を訊かれたが、アヴァからはあまり話せることはなかった。あの過酷な地下の話はできないし、他に楽しい出来事があったわけでもない。

 ただ、動物の解体方法や、ガルトとハンクから得た知識については需要があったようで、キーファが興味を持った。


 どうやら、普段はキーファが知識を教えているらしい。さながら、学校のようなものだ。アヴァのいた村にはそういった文化がなかったため、彼女は少し楽しみにしていた。

 また、教わるだけでなく、キーファからの勧めで彼女の知識も伝達することにした。


 ここの子達が将来、なにになりたいかを見つけるため、また、それをできるように、様々な知識をつけたいとのことだ。

 キーファだけでは補えない範囲についての授業、そして簡単な算術を学ばせる手伝い、しばらくはそれらがアヴァの役目になりそうだった。


 彼女は馴染めるか不安だったが、子ども達とは強制的に関わることになるようで、今のところあまりしんぱいにはならなかった。


「アヴァさんの話は、初めて知ることばかりでした」


 暗い部屋の中、アヴァとジーンはそれぞれベッドに寝転がっていた。明かりはなく、互いにどんな体勢なのかもわからない。


「あまり、楽しいものではなかったし、話せることもないと思っていたんだけどね」


 アヴァは、もぞもぞとジーンが身動きするのがわかった。声の向きで、仰向けからこっちを向いたのだと気づく。


「それは、思いました。だって、旅の話は少なかったから。でも、外に出るのもいいかな、ってちょっと思いました。この冷たい町で頑張るよりも」


 孤児院の中しか知らないアヴァには、ジーンがどこに冷たいという感情を抱いたのかわからなかった。アヴァなりに考えるならば、石造りの静かな町は、確かに冷たいと感じるのだが、それがジーンと同じ冷たさなのかがわからない。

 ただ、それを自ら訊こうとは思わなかった。踏み込むのが少し怖い。話してくれるのを待ちたい。


「わたしには、なんとも言えないわ。まだ、この町のこともよく知らないから。これから、知っていこうと思う」

「わたしは、好きじゃないです。アヴァさんがどう思うかわからないですけど。……これ、聞かれたらまずいですね。忘れてください、おやすみなさい」

「うん。おやすみなさい」


 しばらくして、ジーンの寝息が聞こえてくる。フィンの足音も聞こえて来た。


「おかえりなさい。おやすみ、フィン」


 呟いて、アヴァも眠りにつこうとする。外からは騒音もなく、まるで森の中にいるようで、引き摺られるようにして野宿した日々を思い出す。その中に、一つだけモヤのかかったものがある。

 掻き分けても掻き分けても、先が見えない。それどころか、だんだん頭痛が酷くなってくる。

 だめだ。なんだか、触れちゃいけない気がする。

 アヴァはなんとか気を紛らわせながら、眠りについた。

不定期更新、最低週一以上、になるかもしれません。

今後は毎週金曜、ではなくなると思います。

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