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蘇術少女のリヴォルト  作者: 天木蘭
2章.心の支え
28/60

2-2

GW中に毎日更新できずすみません。用事が入って途絶えてしまいました。

あとで、4回分の更新は不定期で取り戻そうと思います。

また、文章が本当にだんだんひどくなっているので、作っていくうちに以前を思い出し、戻せるように気をつけていこうと思います。

「お兄様。わたしが離れている間、村が襲われた話をしていたの?」

「ああ」


 ブラムとしては、アヴァにあの出来事をあまり思い出そうとして欲しくはなかった。そのため、彼女が離れたことは都合がいいと考えたのだ。


「それで、これからエフィーの家を探すのか?」

「そのつもりだけど、その前にこの子、ジーンに孤児院の場所を教えてもらうの」


 アヴァがジーンを紹介すると、彼女は人見知りのようで、アヴァの後ろに隠れてしまう。


「わかった。知り合いの一人もいないんじゃ、心許ないしな。その子も頼りないが」

「すみません……」

「お兄様、そんなこと言わないであげて。ジーンは良い子に違いないもの。ジーンも、あまり気にしないでね」

「はい……」


 ジーンは、アヴァのスカートにしがみつきながら頷く。片手を離して、右の方向を指差す。


「孤児院はこっちにあります」


 アヴァはジーンと手をつないで、引かれるままに先を行く。ブラムも、手を頭の後ろにやりながら付き添う。

 道は石で舗装されており、これまで歩いてきた道よりは歩きやすかった。すれ違う人はいるものの、活気は感じられない。家は石造りで頑丈そうだ。ベランダはなく、窓も締め切られ、閉じこもっているように感じられた。


「この町はいつもこんな感じなのか?」

「こんな感じって、どういうことですか?」

「静かな町。そう感じたんだ」

「……そうですね。宮殿に近いとわかりませんが、この辺りは静かだと思います」


 ジーンはブラムに害意がないというのがわかったのか、話すことはできるようになったようだ。ただ、後ろのブラムの方は向かず、前だけを見ている。


「宮殿っていうのは、どんな感じなんだ?」

「教皇さまが住んでいて、偉い人しか近づけません。でも、遠くから見たら、すごいです」

「凄いのか」

「はい」


 どう凄いのか、それをジーンに説明させるのは、些か難しいだろう。そう考えて、ブラムは簡素な返事をした。


「着きました。ここが孤児院です」


 ジーンが指差した先には、周りに比べて大きな建物があった。この町で見てきた一軒家、それはおそらく、日本の二階建ての建物くらいの大きさだ。それに対して、孤児院は学校が所有する体育館ほどの大きさがあった。


「随分と大きいんだな」

「はい。昔は劇場だったものを使っているんですよ、って、先生が言ってました」

「劇場って?」

「劇をしたり、歌を歌ったり、そういうのに使われていたみたいです。観たことないです」


 アヴァとブラムは、そもそも劇場という存在すら知らなかったため、世の中にはそういうものもあるのかと、素直に受け取った。


「先生に会いますか?」

「お兄様、どうしましょう?」

「エフィーの家を知っている可能性もあるし、会ってもいいと思うが」

「そっか。なら、会いましょう」


 ジーンはやんわりとした笑顔を見せて、二人を連れて扉を開けた。その瞬間、外では感じられなかったざわめきが広がる。

 はしゃぎ回る子供たちの声だ。二人にとっては懐かしい、平和な頃を思い出させる声。


「ジーン、おかえりなさい。そちらの二人は?」


 子供たちに混じって男性が一人、こちらに気づいて近づいてきた。青地でローブのようなゆったりとした服を着ていて、人を包み込むような笑顔を浮かべている。


「先生、この人たちは旅人さんなんです。話を聞かせてもらいたくて、そのときにここに来て欲しくて」

「そうでしたか。初めまして。私はこの孤児院の院長をしている、キーファです。お二人は若いようですが、そう見えるだけでしょうかね?」

「いえ。村が襲撃され、その後両親を失い、旅をしていたので」


 話すのにも慣れてきたな、とブラムは少し嫌な気持ちになった。その出来事に、慣れてしまいたくはない。その出来事がかさぶたとなり治ることよりも、傷のままであることを望んでいた。

 俯きかけたが、顔をあげてよく見てみると、男性は沈痛そうな表情を浮かべていた。


「それは、さぞ辛かったでしょう。もしも泊まるところがなければ、ここを提供しますが」

「頼る先がなくなったときは、お願いします。そこでお聞きしたいが、エフィーという女性の名前に、心当たりはありませんか? 商人の家系で、家族が行方不明になっているはずなんですが」

「エフィー、ですか。いえ、私には聞き覚えがありません。商人の家系というなら、門の先にあるやもしれません。入れるのは騎士志願者と、信心深さを評価されている方々に限られます」


 アヴァとブラムは、顔を見合わせる。まさか、そこに辿り着くのにも、条件があるとは思わなかった。


「一応お聞きしますが、エフィーさんとやらの判名(はんな)はご存知ですか?」

「判名? それは一体、なんですか?」

「判名というのは、万が一他の方と名前が被ったときのために用意しておく名前です。たとえば、私の名はキーファ。判名はアスカム。他にキーファがいた場合、アスカムで私だと判別するわけです」


 アヴァとブラムは、そんなもの聞いたことがなかった。ただ、ブラムはその理由だと思われるものに気づいた。

 判名は、他人と名前が被ったときに使うものだという。ならば、住人の少ないあの村であれば、判名を作るまでもない。


「俺たちには、そういうものはありません。あった方がいいですか?」

「ええ。旅をしている最中、あった方が便利でしょう。考えておくといいですね」

「わかりました。アヴァ、考えておこう。それで、どうする。騎士志願者の俺はあっちへ行けるが、アヴァには難しそうだ」

「わたしも行きたいけど……」


 エフィーに言われたことの一つだ。だからこそ、アヴァは自らが行きたかった。実際のところ、その家がどうなっているのかはわからない。頼りにもならないような状況かもしれない。それでも。


「一度、行ってみてはどうでしょう。来たばかりの旅人となれば、事情も鑑みてくれるかもしれません。ただ、知っているかもしれませんが、この町では女性の地位が低く見られていますから、希望は薄いです」

「アヴァ、行ってみるか? って、聞くまでもないか」

「うん。もちろん行くわ」


 アヴァは、首飾りをギュッと握る。温かさが手に伝わってくる。勇気が湧くような、そんな気がした。


「困ったことがあれば、また来てください。ここは孤児院ですから、お二人の力にもなりましょう」


 キーファは細めていた目を開く。瞼から覗く瞳は、どこか知的な雰囲気がした。敵意は感じられず、その善意に気が引けそうなくらいだった。

 二人は、無償の善意を警戒してしまうようになっていた。だからこそ、ガルトのところでも、家事を手伝うことで共生できていたのだ。

 ただ、ブラムはまだ、その善意を利用しようという心意気を持っていた。


「お願いします。そのときは、俺が騎士になってお金をこちらへ送ります」

「それは助かります。最近、国からの支援が細々となってきてまして。では、探し物が見つかることを願っています」


 頭を下げたキーファと、手を振るジーンに見送られ、二人は扉の外へ出て行く。その間際、子どもたちがキーファに寄っていくのが見えた。旅人が物珍しかったのだろう。それだけじゃない。キーファは、子ども達にとても慕われているようだ。


「アヴァ、エフィーの家が見つからなかったらどうする?」

「探し続ければ、いつか見つかるわ。無くなっていたら、そのときはそのときよ」

「まあ、そのつもりだよな。今日中に、俺は騎士に志願するつもりだ。見つからないときは、早めに諦めて、キーファさんに世話になろう」

「うん」


 二人は石畳の道を歩き進め、入り口を越えてもう一つ、町の境へ向かっていく。

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