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蘇術少女のリヴォルト  作者: 天木蘭
2章.心の支え
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2-1

 町の前には、武器を装備した男性が四人ほど構えていた。銀色の兜、胴を覆う鎧、グリーブ、腰には帯剣。中に着ているのは白系の服らしく、全体的に眩しい。全員が同じような格好であるため、身分の差は感じられない。

 彼らは厳密に言えば関所ではないし、門があるわけでもないため、門番というわけでもない。ただ、役割としてはその両者を備えたもののようだった。


「旅人か?」


 二人の姿を認め、男性の一人が声を掛けてきた。威圧感を出しているつもりはないのだろうが、その体格から自然と、アヴァは怖くなった。ブラムはアヴァと目を合わせ、その様子に気づいて返した。


「はい」

「若く見えるが、親はどうした」


 ブラムは、どこまで正直に話すか迷ったが、面倒を避けたかったため、まずは簡単に済みそうな話でやり過ごすことにした。


「戦に巻き込まれた際、俺たちを逃がして……。そこで、安住の地を探し求めたところ、ここへ辿り着いたのです」

「戦か。それは、気の毒に。だが、最近そんなものあったかな。情報は来ていないが、敵が誰かはわかるか?」


 村を襲った者たちに恨みはあるが、ブラム達にその正体はわからない。クレシダは彼女自身を狙ってきたのだろうと言ったが、相手の正体までは彼らに教えてくれなかった。

 ただ、あの様子から、ブラムにも考えられる候補はあった。あの男たちは、どこかの国に所属しているようには見えなかった。どちらかといえば、逃げた先で襲ってきた、山賊に近い。

 父を殺された、そして追い出された、その記憶が強過ぎて、些細な言葉などが思い出せなかった。アヴァもそうだ。


「いいえ、わかりません。もしかしたら、皆さんが知らないどこかの蛮族かもしれませんし、あるいは山賊の類だったのかもしれません」

「ということは、襲撃の可能性もあるか。わかった。その調書を取りたいから、少し話を聞かせてくれ。関所を通った様子がないから、起きた場所はそう遠くないんだろう。ならば、対処しなければいけない」

「わかりました。絶対に、対処してください」


 疑われるかもしれないと思ったが、どうやらそうはならないようだ。相手が子どもだからだろうか。そうブラムが考えていると、一人の男性が尋ねてくる。


「ただ、その割には身なりが整っていないか? 襲われて逃げ出したのなら、もう少し汚れていてもおかしくない。それに、荷物も確かめたいところだ」

「おいおい。まさか、疑っているのか? まだまだ子どもだろ」

「侵略のために育てた子たちだとしたら、おかしくはない。で、どうなんだ。理由を説明できるか?」


 ブラムがどう答えようか考え始めると、アヴァが代わりに答える。彼女は、できるだけ正直に話そうと思っていた。自分が騙される側になってきたからこそ、できるなら騙したくはなかった。


「実は、わたしたちは遠くの村で襲われて、故郷は皆さんが思っているほど近くないのです。ここに来るまで、いろいろと恐ろしい目に遭ったり、いろいろな人に助けられたり、そうしてようやくここまで来られました。

 だけども、その話を全てするのは、とても長く大変で、だから兄は簡単にしてしまおうと思ったんだと思います」

「……なるほど。では、荷物と武器だけ(あらた)めせてもらいたい。敵対国のものが混じっていれば、少し怪しい。

 いや、もちろん旅人から受け取ったものだという言い訳は認める。ただ、危険なものや、独自のやり取りができそうなものはね」


 他の男たちは、そこまでしなくても、と考えたようで、首を振ったり手を掛けたりしたが、疚しいことのないブラム達は頷く。


「わかりました。ただ、妹は女性に改めていただきたいです」

「ああ、もちろん。とりあえず、荷物は出しておいてくれ。女性は、その辺からでいいか」


 疑っている様子の男は、口数の少ない他の男に中へ向かわせた。あまりこの仕事が好きではないのか、やる気のなさそうな足取りだ。


「それと、もしも中に入ったら、妹さんはあまり出歩かない方がいい」

「どうしてですか?」


 他の誰にも聞いたことのない助言だった。

 違う男性が、ため息を吐きながらその理由を説明する。


「この国は、女性に厳しいのさ。聞いているかもしれないが、この国は一つの宗教を信じることで、国民をまとめ上げようとしている。そして、神話の流れによって、女性は疎まれる存在になっている」

「教えは信じても、そこだけは守らない者もいるが、中には本気で女性を疎むようなのもいる。実際、それを恐れて、女性が家督を引き継ぐことはないしな」


 前はここまで厳格ではなかった、とか、いいや、前からそうだったのに、気づかなかっただけだ、とかいう、男性たちの会話を流し聞きしながら、兄妹は荷物を取り出す。

 果物や干し肉などの食料、水の入った皮袋、紐で効果を書いた紙を縛り付けられた薬の入った瓶、そして衣服や金目のもの、彼女らの荷物は旅には十分なものだ。


「珍しいな。薬と宝石やら装飾品やら、わざわざ買ったのか?」


 男性たちが荷物を検めると、興味は価値あるものにいったようだ。むしろ、それ以外に、怪しむべきものはない。


「いえ、ここに来る途中でもらったものです。優しい方が多くて助かりました」

「それは本当に優しい人たちだ。しかし、こんな不幸な子ども達になら、神の救いがあってもおかしくはない」

「だな。強欲な商人に足元見られたり、誰かに盗まれたりしないよう気をつけるんだぞ」

「気をつけます」


 一応、ガルトに鑑定はしてもらっていた。専門ではないからわからないとのことだったが、大体の価値を言ってもらったため、それより低くは売らないつもりだった。


「まあ、そんなに怪しむところはないな。その剣はどうだ?」

「なかなかいいものだ。俺たちのよりは、上質な剣だ。刃こぼれもなさそうだし、いいものだな」

「ありがとうございます。二つとも、別の人からもらったものです」

「そうか。片方は多少値が張るものの、この町でも手に入りそうだが、もう片方は見たことがない金属だ。遠くの旅人のものかもしれないな。形状が違えばわかりやすいが差はないし、紋に見覚えもない」


 ディルから受け取った剣の方だ。ブラムにもどこのものかわからないため、なにも言うことができない。


「まあ、おかしなところはなさそうだ。これで全てか?」

「あ、わたしも短剣を持ってます」


 ロングスカートをめくり上げ、刀身の短い短剣を鞘から抜く。そのまま、男性たちに手渡した。いざ使おうと思ったら、布が邪魔だなと、アヴァは思った。


「護身用なんですけど」

「そうか。それならいいんだが、暗殺者じゃないよな?」

「妹は戦えません! いつも、俺が守っているんです。その短剣だって、身につけてから抜いたのは初めてです」

「そうか。まあ、血の匂いもしない。これはこの町でも売っていそうだ。紋に見覚えがある」

「渡したのは、この剣と同じ人物か?」

「はい、そうです」

「なるほど」


 どちらもガルトにもらったものなので、この町のものだとしてもおかしくはない。ブラムは、もしかしたら、旅人から買い取ったものなのかとも思っていたが。


「特に、怪しくはなさそうだ。二人はこれからどうするつもりだ?」

「俺は、騎士になろうと考えています。妹を養うのに、お金が必要なので」

「そうか。いいと思うぞ。騎士になれば、宿舎もある。だが、妹は入れないぞ」

「疎まれているなら、そうですよね。なんとか探してみます」

「頑張れよ。と、あいつが戻ってきたみたいだ」


 町の方から、女性を探しに行った男性がこちら側へ来る。しかし、一緒に連れているのは、あまりにも背が低いように見えた。


「おいおい」


 こっちへきた男性が近づくなり、連れて来るのを頼んだ男性が声をかける。


「子どもじゃないか」

「誰でもいいだろ。一番近くにいたんだ」


 女の子は、怯えているように見えた。彼女の様子に気づいて、アヴァが目線を合わせて問う。


「大丈夫、怖くないわ。なにをすればいいかはわかる?」

「な、なにもわかんない……」

「お前、理由も言わなかったのか。怖がらせちゃ可哀想だろ」

「知らん」


 その返答に、男性はため息をついて、アヴァと同じように屈み込む。


「お嬢さん。君には、この女の子がなにか変なものを持っていないか、調べて欲しいんだ。できるかい?」

「で、できます……」

「そうか。なら、よろしく頼むよ」


 女の子が頷いた。

 アヴァは女の子と一緒に、離れた場所へ行く。男性たちの目に入らないようにするためだ。これをあっさり許してくれたのは、それなりに信頼度があることの証明にも思えた。


「あなた、名前はなんていうの?」

「ジーンです……」


 ジーンはアヴァよりも背が低く、まだ10歳にもいってないかそれくらいだと思われた。


「突然呼ばれて、びっくりしたよね。大丈夫だった?」

「大丈夫です。……怖かったですけど」


 アヴァは服を脱いで、ジーンに身体を見てもらう。上から下まで眺めて、ジーンはなにもないですね、呟いた。


「うん。ありがとう。お疲れ様」

「はい。あの、あなたは、旅人さんですか?」

「そうよ。えっと……両親がいなくなっちゃって、それでね」


 アヴァは話してしまうか迷ったが、死んだというのはやめた。もう、死んだことは受け入れたが、それを目の前にいる女の子に話す理由はない。

 アヴァは困らせてしまっただろうかと、服を着ながらジーンの様子を伺う。すると、ジーンは目を見開いていて、たどたどしい口調で返答し始めた。


「……あの、実は、わたしも両親に捨てられて。今は孤児院にいるんです。もしも、大丈夫だったら、話を聞きたいです」

「うん。大丈夫よ。なら、あとで教えてくれるかしら」

「はい」


 服を着なおして、二人は男性たちの元に戻る。ブラムの検査も終わったらしく、荷物を返してもらえた。


「じゃあ、よい日々を。望むべくは、この町から出て行くなんてことのなきよう」

「それは、まだわかりませんが」

「だろうな。まあ、気ままに暮らしてくれや」


 一人はどうでもよさそうに俯いており、三人の男性に見送られ、アヴァたちは町の中に入っていった。



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