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蘇術少女のリヴォルト  作者: 天木蘭
道程1.三兄弟の話
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1-6

 馬が駆けても酔うことはなく、二人の進行速度はかなり早まっていた。休憩するときは見晴らしが良い場所を選び、騎乗により体が鈍らないようにと、ブラムは走り込みや素振りをしていた。

 その間、アヴァは周辺で食べられるものを収集し、具材さえ揃えば調理も行なった。ガルトのところからナマモノは持ってかれなかったため、食料としてわけてもらったのは主に干し肉だ。


 そうして翌日には、またもや開けた場所にぽつんと(たたず)む建物が見つけられた。ガルトのところと違って、家畜などがいるようには見えず、少し大きな建物があるだけだ。

 一通り周りを見て、馬を留めるための場所はないようだった。つなぐことは諦め、ブラムは手綱(たづな)を引いて扉を叩く。


「はいはい、誰かね」


 扉を開けたのは、落ち着いた雰囲気の老人だった。一見、ガルトより老けて見えたが、肌を見ればガルトよりも皺が少ない印象を覚える。


「む。子供たちが二人、こんなところでどうしたのかね」

「あの、あなたはハンクさん、ですか?」


 アヴァが訊ねると、老人の眉が動いた。そのまま、鋭い視線をアヴァに寄越す。


「どこで、私の名前を知ったのかね」

「ガルトさんに聞きました」


 本人だということが確認できたため、ブラムが代わりに返した。反応を伺ってみると、怪しむような表情は浮かべているものの、雰囲気は穏やかなままだった。


「兄さんとは、どこで?」

「ガルトさんは、向こうの方に住んでいます。この馬はガルトさんから借りたもので、あなたへ渡すようにと、これを預かっています」


 ブラムは便箋を取り出し、ハンクに渡す。受け取った老人は、目を丸くさせて便箋を広げる。上から下へ、視線を流していくと、だんだん頬が緩んでいった。

 最後まで読み通すと、一つ(まばた)きをし、息を吐いて便箋を丸め直す。


「届けてくれてありがとう。君たちを客人として迎えよう。どうぞ、中へ入ってくれ。……ああ、馬はそこに繋いでくれ」


 ブラムが指を指された方をよく見てみる。すると、建物の壁から、金属製の輪が半分突き出ているのに気づいた。

 ブラムは馬を繋ぎとめ、アヴァが降りるのを手伝い、二人揃って建物の中へ入っていった。


「そこの椅子に座ってくれ」


 建物の中には棚が立ち並び、草を挿した瓶や空瓶が置かれている。


「さて、兄の様子はどうだったかね」

「ガルトさんのことですよね。元気そうでしたよ」

「そうか。それは良かった」


 ハンクは二人に、柔和な笑みを見せる。アヴァはガルトの話から、それが気になった。


「ハンクさんは、ガルトさんのことが嫌いじゃないんですか?」

「兄を? まさか、嫌われこそすれど、嫌うなんてことはない。家を出て行ったときは、いつの間にか消えていたから、家族に嫌気が差したのかと思っていたよ」

「じゃあ、ガルトさんの勘違いだったんですね」

「ああ。兄がそう言っていたなら、そうなるな。ただ、弟はどうかわからないが」


 ハンクは便箋を折り畳み、両手を組み合わせた。顔をうつむかせ、声は低くなる。


「私は、あの町にいるのが嫌になってしまったんだ。いなくなった兄のことを、人々は蔑み、異教徒に違いないと罵った。本人もいないのに、そんな声を、何度も聞いた。兄のことを何も知らないくせに、そう思ったよ」

「ガルトさんと、仲が良かったんですね」

「ああ。兄は、とても良くしてくれた。しかし、弟はどう思ったかわからない。私もいなくなってしまい、町ではまた悪しき声を聞くことになっただろう。そんな声を聞かされては、兄のことも私のことも恨むようになっているかもしれない」


 ハンクは、より一層顔に影を落とす。

 アヴァとブラムには、咄嗟に掛けられるような言葉がなかった。兄弟の関係が実際にどのようなものだったかもわからないからだ。

 しかし、ガルトに聞いた話と、ハンクの様子からは、希望があるようにも思えた。


「すまないな。とりあえず、兄からの頼みは聞くつもりだ。馬の貸し出し業、それに、君たちに使えそうな知識を与えて欲しいと。私が持っているのは、薬に使えそうな植物くらいだが」

「植物が薬になるんですか?」

「ああ。ただ、簡単な病なら、自分の身で効果があるか試せたが、重度の病については自信がない。旅人から聞いたものの、本当なのかはわからないものだってある」

「大丈夫です。是非とも教えてください」


 ブラムが即答する。

 アヴァの力は強力だが、あまり使わせないように、クレシダからの手紙にそうあった。それに、アヴァの目の前で、最後の家族を失わせたくはなかった。たとえ、蘇られるとしても。


「わかった。だが、まずは昼食にでもしようか」


 ハンクの食事は、主に果実と根菜のようだった。薬草を飲みやすくするため、普段から食事は苦味が強いらしい。

 食用の果実と根菜については、森の中で自生しているものと、自分で育てたものもあるという。盗まれるのが嫌で、森の中に作ったそうだが、野生動物からの被害もあり、そう多くはないという。


 それから、二人はハンクの世話になった。

 ブラムは食い荒らしに来るらしい獣を狩ったり、魚を釣ったり、最低限アヴァの分は食事の材料を手に入れる日々を送った。あとは鍛錬だ。

 そのようになったせいで、ハンクの知識を多く受け継いだのは、主にアヴァとなった。ブラムは効果が見込まれる薬草だけ学び、アヴァは効果が未確定なものまで学んでいた。


「ハンクさんは、ガルトさんのことをかなり心配していたんですね」

「ん? なんのことかね?」

「だって、手紙を読んで嬉しそうにしたり、ガルトさんの様子を聞いてきたりしたから」


 アヴァは薬を作ろうとしていた。二種類の植物を混ぜあわせるために、力を入れてすり潰しながら問う。


「そういうことか。確かに心配していたが、当然のことだ。血を分けた兄弟なんだからね。二人だってそうじゃないかい?」


 アヴァは言い淀む。

 確かにそのつもりではあったが、ガルト達のそれとは違う気がしたからだ。


「違うのかね?」

「いえ。でも、ガルトさん達は、お互いに嫌い合っていると思っていながらも通じ合っているなって。わたしとお兄様は、どちらも一方通行みたいな気がして」

「そうは見えなかったが。でも、アヴァが言うのならそうなのかもしれない。どうしてそう思うんだい?」


 アヴァは、その質問には、うまく答えられそうになかった。ゴリゴリと、すり潰す音ばかりが響く。

 ハンクは何も言わず、ただ薬が出来上がるのを待っていた。そして、そのまま一言も交わされぬまま、薬は完成してしまった。


「効果を試すのはできないが、困ったら使ってみるといい。毒にはならないはずだ。不安なら、あのネズミに毒味させればいい」

「あの子は友達です。そんなことできません」

「悪かった。確かに、可愛がった動物には、そんなことできんな」


 そうして、数種類の薬を作り、瓶に入れ持つようにした。数週間が経ち、ハンクは教えられることがなくなったと二人に告げてきた。


「あとは、弟のイゴールに会ってくれ。あいつは私と兄を憎んでいるかもしれないが、そのときは仕方ない」

「なんだか、わたしは大丈夫そうな気もします」

「まあ、そうだといいが。もしもそうなれば、何年かぶりに、いや、何十年振りに、兄弟で揃うことができるかもしれないな」

「それは楽しみですね」


 ハンクは懐かしさを覚えたような表情で、未来へ思いを馳せていた。アヴァはそれを見て、三兄弟には絶対に仲良くなって欲しいと思った。


「ああ、楽しみだ。二人とも、よろしく頼む」


 アヴァとブラムは、ハンクに別れを告げ、町へ向かうことにした。荷物はまた少し重くなったが、進む速度は心なし速くなっているようだった。

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