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装備屋を営んではいるものの、客があまり来ないというのもあり、ガルトは基本、自給自足の生活をしているようだった。
「そういえば、ここには長く住んでるんですか?」
「まあ、それなりにな」
「ガルトさんは、どうして、こんなところに住むことにしたんですか?」
「お嬢ちゃんには難しいかもしれないが、嬢ちゃんたちが向かってる町じゃ、モノを売るってのが難しかったんだ。それと━━いや、なんでもない」
なにかに思いとどまったようだが、ブラムもアヴァもその話題を突き詰めることはしなかった。言いたくない過去を持っている二人にとって、自ら口に出す言葉以外に踏み込めるはずがなかった。人を蘇らせる力のことだって、当然話していない。
「そうだ。お客さんは全然来ないみたいだけど、売れたのはなんでした?」
「よく売れたのは馬だが、お前らを襲ったやつらに奪われたのかもしれん」
ガルトが遠い目になる。愛着もあっただろう馬たちが、信頼した客に売り渡したというのに、そんな使われ方をしては報われないだろう。
「でしょうね。ここが襲われなかったのは幸いです」
「そういや、どうして襲われなかったんだ?」
ブラムは、どのような仕組みであの集団が動いていたか、多少は知っていたために答える。
「町に行くのが、ほぼリーダーだけだったからだと思います。あそこじゃ、金なんてあっても意味がないし、リーダーはどうやら離れられない事情があったみたいだし、それが一番安全だったんでしょう。そう考えた奴がいるはずです」
ブラムには思い当たる人物がいた。ディルが恨んでいた男だ。人聞きでしかないが、おそらくその男は、そう考えてもおかしくない人間だと思った。
「なるほど。そいつはきっと、リーダーが万が一逃げれば、その後釜を狙うつもりだったのかもな。壊滅して本当に良かったぜ」
ガルトがアヴァ達の頭を撫でる。グシャグシャとされるのが気持ちいいわけでもないし、ブラムからするとそんなに子ども扱いして欲しくもないのだが、ガルトは気に入っているようだった。
正確な日数はわからないが、二人が村からここへ至るまでに、一年以上は経過していた。アヴァは13歳、ブラムは16歳だが、二人はもう年齢のことなど忘れていた。
「ガルトさんには、子どもはいないんですか?」
頭を撫でるのが不慣れな手に、ブラムはそんな質問を浮かべた。
「おう、俺は独り身よ。独り身でなきゃ、こんなところに来やしないさ。だから、お前達はかわいくってな」
「お世話になっているのに、わたしたちを子どものように思ってくれるなら、嬉しいです」
「それはいいが、俺の子どもらしくしろとは言ってないからな。世話になることに申し訳なさを感じて、変にぎこちなくなるのは嫌だからな」
「もちろんですよ。俺たちには、ちゃんと……親がいますから」
陽が雲に隠れる。部屋に影が差し、心なし温度が下がったような心地がした。
「うん。わたしたちには、ちゃんとお母様とお父様がいるものね」
それも一瞬のことで、少しすると陽はまた地上を照らし始めた。
「そうだな。二人には、ちゃんと親がいる。いつでも見守っているだろう」
アヴァもブラムも、それを信じたかった。人が蘇るのだから、たとえ死んでしまったとしても、どこかにその人はいるのだ。だから━━。
空の光が瞬いたような気がした。
「そうだ。二人は俺たちを見守っているんだ。だから、アヴァ」
「お兄様、どうかした?」
「武器を持ちたいって、ガルトさんに言ったんだよな。そんな危ないことやめるんだ。俺がちゃんと守ってやるから」
「それは、嬉しいけど、わたしだって、お兄様に守られてばかりじゃいけないと思うの」
アヴァは、ナイフを手に取ったときを思い返していた。あのとき、わたしはやろうと思えばやれたはずだ。やりたくはないけど、それをできてしまうことがわかってしまったのだ。それなら、お兄様にばかり負担を掛けさせてはいけない。
そう、彼女は考えていた。
「お前が手を汚す必要はない。見守ってる二人だって、そんなこと望んじゃいないはずさ。俺が守りきれるか不安なのか?」
「そんなことはないけど……。だけど……」
アヴァには理由が言えなかった。できることがわかっているから。それを伝えるには、あの経験も言わなければいけない。だが、そんなことは言えなかった。兄の目が変わるんじゃないかと、恐ろしくて。
そこへ、ガルトが助け舟を出す。
「ブラム、責めるようなのはやめてやれ。アヴァだって、お前の負担を軽くしたかったんだろう。それにだ、ブラム、想像してみろ」
「なにをですか?」
「もしも多人数に襲われたら、お前一人で対処できなかったら、どうする?」
「アヴァを逃がします」
「もちろん、そうするだろう。だがな、アヴァが捕まったらどうする。捕まって、人質にされたらどうする?」
ブラムが、そこで考え込む。薄々、考えてはいた。そういう状況が、起こり得ることもあるだろうと。
そこで、自分が相手より圧倒的に強くなって解決する、というのは言うに容易い。実際、あの開けた地形で男たちに囲まれたときを思い返しては、他の考えも思い浮かばなかった。
「そうならないために、俺は鍛錬してるんじゃないですか」
「鍛錬を積んだとしても、相手だってそこらの山賊じゃなく、訓練を積んだ人間だったらどうする。どうもできないだろう。アヴァを守りたいなら、アヴァが逃げるための手段を増やすのは、悪くはない」
つまりガルトは、アヴァに戦闘手段ではなく自衛手段を持たせろと、そう言っているのだ。
「わかりました。なら、軽くて刃が丈夫な短剣があれば、それを」
「ああ、そうだな。鍛治で理想的なものが作れれば良かったが、生憎なことに俺はただの商人だ。アヴァは、それでいいか?」
「はい。……ありがとうございます」
不満はなにもなかった。ただ、もしもガルトが手伝ってくれなかったら、兄を説き伏せることはできなかった。
それは、良いことだけど、悪いことでもある。お兄様はわたしを大事にしてくれてるけど、大事にし過ぎている。そして、ガルトさんの意見で、お兄様の意見は変わってしまった。必ずしもお兄様の意見が正しいわけではないということも、気づいてしまった。
やっぱり、わたしはわたしでしっかりしないといけないんだ。
アヴァは、昼食の最後の一口を、決意と一緒に飲み下した。
* * *
「なあ、もしも、お前たちが町に行くまでに余裕があるなら、店を探して欲しい」
「店、ですか!」
二人がガルトの世話になり、二週間ほどが経っていた。アヴァは基礎的な算術とレシピを習得し、ブラムはガルトと、技術なしで打ち合えるくらいの力を身につけた。若さ故の差であり、技術さえ盗めばガルトを越えるだろう。
それも当然のことで、ガルトはただの装備屋だ。自衛用の剣術を習得しているだけである。今もブラムが両手持ちで打ち付けた木剣に、ガルトの盾が押し負けそうになっている。
「力はいいなっ!」
ガルトは腰を落として、ブラムの力が存分に腕へ加わったことを見計らい、盾と体をずらした。ブラムは前のめりになったが、転ばずに持ち堪えた。
「よし。そう、店だ。長年ここにいて客に聞いたんだが、町からここへの間に他にも店があったと聞いてな。そしてその店主の顔が、俺に似ていたって言うんだ」
「……兄弟、ですか?」
「ああ、そうだ。まあ、その話は食べながらでもするか」
ガルトが顎でブラムの左側を指す。そちらへ視線を送ると、アヴァが歩いて来るところだった。
「わかりました。では、行きましょうか」
「ああ。最近、アヴァの料理は味がよくなってきてるし、時間が来ると勝手に腹が減っちまう」
二人がアヴァの方へ向かい始めると、アヴァは気づいて家の中に戻っていった。
「戻っちまったな」
「準備が終わってなかったんでしょうね」
「まあ、呼ぶ前に来るとは思わないか。特に肉は冷めたら不味いしな」
そうして、二人も家の中に入った。食卓には料理が並んでいる。今日はフィンも起きているようで、食卓に並んでいた。
「フィンめ、ついに俺たちの生活時間を合わせてきたな」
ガルトが言うが、そこに悪感情はなく、賞賛のようだった。
「夜に俺と一緒に警戒する必要がなかったからでしょうね。最近、大人しいと思っていたら、寝る時間をずらしていたのか」
「ガルトさんもお兄様も、フィンのこと忘れてたでしょ。仕方ないかもしれないけど、動物の見張り頑張ってくれてたんだから」
「悪い悪い。フィンよ、ありがとな。最近、あいつらも楽しそうな感じはしたんだ。もしかしたら、お前のおかげかもな。俺には命をもらうことに感謝しかできねえから、助かるぜ」
ガルトが伝えると、フィンは声高に一つ鳴く。
「やっぱり、理解してるよな。二人とも、大事にしろよ。コイツは高く売れるかもしれないからな。なんなら、俺が買いたいくらいだ」
「そんなことしませんよ!」
「……まあ、金に困れば」
「お兄様?」
「冗談だよ。フィンも間に受けないでくれよ。さあ、食べよう」
フィンは気にした風でもなく大人しく卓に座っており、ブラムの一声で席についた三人が食べ始めると、ようやく食べ始めた。
「さてと、じゃあ、ちょいとばかし俺の話をしようか。お前らと同じく、俺にも兄弟がいてな━━」
前置きをして、ガルトは自らの兄弟について語り出した。




