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アヴァが目を覚ますと、ブラムは深い眠りについていた。ただ、珍しく表情は穏やかで、なんとなく安心する。
陽光に木々が煌めく。燃え尽くした薪は炭と化し、風にさらわれ軽く宙に舞っていた。
アヴァは喉を潤そうと、川へ向かっていくことにした。フィンもブラムの近くで気持ちよさそうに寝ていたため、二人は置いていくことにした。
川のせせらぐ音がする。水面に光が反射して、とても輝かしい光景が広がっていた。夜にはただの水場としか思わないのに、こうして見ると自然の素晴らしさを感じられる。
両手で冷たい水を掬い、顔に浴びせる。小さく悲鳴があがるが、アヴァの眼はスッキリした。そのまま、水も口に含む。清潔な水とは思えないが、喉の渇きを抑えるためには仕方ない。
そこへ、足音が聞こえた。ブラム達がいる背後ではなく、向かい側からだった。
アヴァが顔をあげると、壮健そうな老人が立っていた。水を汲みに来たのか、桶を手にしている。
「よう。あー、初めましてだな。嬢ちゃんは、旅の人かい?」
「えっと、はい。兄と二人で、旅をしています」
「そうか。装備に不安はないか?」
「装備ですか?」
木の葉が落ちて、波紋ができる。
アヴァの体は僅かに震えていた。老人は脅すような雰囲気はなく、むしろ快活で気安い雰囲気を醸し出していた。それなのに、アヴァには彼が怖く感じられた。
早く、ブラムのところに戻りたかった。ただ、逃げることも怖くて、それもできない。
「ああ。俺はこの近くで武器屋をやっててな。この辺はなにもない。旅人相手に武器を売ってるんだが、最近は人通りも少なくなっちまってな。歓迎するぜ」
老人は若々しかった。腰の帯剣を指差して、話しながらそれを引き抜き振り回す。足取りはしっかりとしていて、それを落としてしまわないか不安になることもなかった。
川に落ちた木の葉は、流れて見えなくなった。穏やかな川に揉まれ、ボロボロにもならなかっただろう。
「わかりました。あの、どこにあるのでしょうか?」
「ふむ。まあ、俺が来たのと反対側だな。来てみればすぐにわかるさ。嬢ちゃんの兄さんが興味を持てば、連れて来てくれや」
老人はサッと水を汲むと、そのまま手を振りながら離れていく。どこまでも大きさが変わらないように思えた背中も、やがて見えなくなった。
また木の葉が落ちたが、それは先よりも素早く流れていく。
アヴァの震えも止み、涼しい空気を取り入れてその場を後にした。
* * *
ブラムが目覚める頃には日が高く昇り、時間はわからないものの1日の中程になったことは感じられた。
その間、アヴァは昨夜の時点で焼いておいた肉を焼き直して食べたり、周囲に気を配りつつ果実や木の実を集めていた。
この辺りで見かける生物や食物の一部は、ブラムに教えてもらったことでアヴァの知識にもある。ここまでの移動距離では、まだ生態系は変わらないようだった。
「アヴァ、いろいろありがとな。今日は休みにしようと思うんだ。急ぎたいなら、無理のない範囲で許すが」
「お兄様がそう言うなら、わたしは大丈夫。エフィーの家には行きたいけど、急ぐ理由はないし」
「そうか。なら、ゆっくりするか。俺が寝ている間、なにか困ったことはなかったか?」
ブラムは果実に噛み付く。実は固く、そんなに甘いわけでもない。噛む力が弱まらないようにと、彼は鍛錬のような気持ちで食べていた。
「あのね、川の方でおじいさんに会ったの。装備屋さんをやっているらしくて、装備に不安があったら来ないかって」
「そうか。俺は戦闘で困ることはないが、もしも衣服があるならもらった方がいいか」
荷物になると思い、ブラムはそこまで考えなかったし、ディルもそこまで気が回らなかったようだが、衛生上と肌を守るという点から、最近になって必要性を感じていた。
アヴァの靴はボロボロで、あまり長く歩かせたくはない。持ったきたもののうち、金銭になりそうなものが、ここまでで最も使い道がなかった。
「そうだな。一度、その装備屋に行ってみよう。もしかしたら、俺たちに同情して泊めてくれるかもしれないしな」
「あまり良くないけど、仕方ないよね」
「危険そうならやめとくけどな。飯を食べたら向かってみるか」
ひと段落つくと、アヴァはフィンをポケットに入れ、ブラムと一緒に老人が去っていった方へ向かう。兄がいると、周囲の気配や音は全く気にならなかった。




