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蘇術少女のリヴォルト  作者: 天木蘭
道程1.三兄弟の話
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1-2

 アヴァが目を覚ますと、ブラムは深い眠りについていた。ただ、珍しく表情は穏やかで、なんとなく安心する。


 陽光に木々が煌めく。燃え尽くした薪(たきぎ)は炭と化し、風にさらわれ軽く宙に舞っていた。

 アヴァは喉を潤そうと、川へ向かっていくことにした。フィンもブラムの近くで気持ちよさそうに寝ていたため、二人は置いていくことにした。


 川のせせらぐ音がする。水面に光が反射して、とても輝かしい光景が広がっていた。夜にはただの水場としか思わないのに、こうして見ると自然の素晴らしさを感じられる。

 両手で冷たい水を掬(すく)い、顔に浴びせる。小さく悲鳴があがるが、アヴァの眼はスッキリした。そのまま、水も口に含む。清潔な水とは思えないが、喉の渇きを抑えるためには仕方ない。


 そこへ、足音が聞こえた。ブラム達がいる背後ではなく、向かい側からだった。

 アヴァが顔をあげると、壮健そうな老人が立っていた。水を汲みに来たのか、桶を手にしている。


「よう。あー、初めましてだな。嬢ちゃんは、旅の人かい?」

「えっと、はい。兄と二人で、旅をしています」

「そうか。装備に不安はないか?」

「装備ですか?」


 木の葉が落ちて、波紋ができる。

 アヴァの体は僅かに震えていた。老人は脅すような雰囲気はなく、むしろ快活で気安い雰囲気を醸し出していた。それなのに、アヴァには彼が怖く感じられた。

 早く、ブラムのところに戻りたかった。ただ、逃げることも怖くて、それもできない。


「ああ。俺はこの近くで武器屋をやっててな。この辺はなにもない。旅人相手に武器を売ってるんだが、最近は人通りも少なくなっちまってな。歓迎するぜ」


 老人は若々しかった。腰の帯剣を指差して、話しながらそれを引き抜き振り回す。足取りはしっかりとしていて、それを落としてしまわないか不安になることもなかった。


 川に落ちた木の葉は、流れて見えなくなった。穏やかな川に揉まれ、ボロボロにもならなかっただろう。


「わかりました。あの、どこにあるのでしょうか?」

「ふむ。まあ、俺が来たのと反対側だな。来てみればすぐにわかるさ。嬢ちゃんの兄さんが興味を持てば、連れて来てくれや」


 老人はサッと水を汲むと、そのまま手を振りながら離れていく。どこまでも大きさが変わらないように思えた背中も、やがて見えなくなった。

 また木の葉が落ちたが、それは先よりも素早く流れていく。

 アヴァの震えも止み、涼しい空気を取り入れてその場を後にした。


 * * *


 ブラムが目覚める頃には日が高く昇り、時間はわからないものの1日の中程になったことは感じられた。

 その間、アヴァは昨夜の時点で焼いておいた肉を焼き直して食べたり、周囲に気を配りつつ果実や木の実を集めていた。

 この辺りで見かける生物や食物の一部は、ブラムに教えてもらったことでアヴァの知識にもある。ここまでの移動距離では、まだ生態系は変わらないようだった。


「アヴァ、いろいろありがとな。今日は休みにしようと思うんだ。急ぎたいなら、無理のない範囲で許すが」

「お兄様がそう言うなら、わたしは大丈夫。エフィーの家には行きたいけど、急ぐ理由はないし」

「そうか。なら、ゆっくりするか。俺が寝ている間、なにか困ったことはなかったか?」


 ブラムは果実に噛み付く。実は固く、そんなに甘いわけでもない。噛む力が弱まらないようにと、彼は鍛錬のような気持ちで食べていた。


「あのね、川の方でおじいさんに会ったの。装備屋さんをやっているらしくて、装備に不安があったら来ないかって」

「そうか。俺は戦闘で困ることはないが、もしも衣服があるならもらった方がいいか」


 荷物になると思い、ブラムはそこまで考えなかったし、ディルもそこまで気が回らなかったようだが、衛生上と肌を守るという点から、最近になって必要性を感じていた。

 アヴァの靴はボロボロで、あまり長く歩かせたくはない。持ったきたもののうち、金銭になりそうなものが、ここまでで最も使い道がなかった。


「そうだな。一度、その装備屋に行ってみよう。もしかしたら、俺たちに同情して泊めてくれるかもしれないしな」

「あまり良くないけど、仕方ないよね」

「危険そうならやめとくけどな。飯を食べたら向かってみるか」


 ひと段落つくと、アヴァはフィンをポケットに入れ、ブラムと一緒に老人が去っていった方へ向かう。兄がいると、周囲の気配や音は全く気にならなかった。

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