4.遊牧民の襲来
国の方針が決まったということで、国の歴史や文化を綴った文献の作成作業が開始された。しかし、これは秘密裡に行う必要がある。
そこで、急遽奴隷が購入され、その奴隷に秘密保持の命令を下し、マリーが直接指示するようにした。そして、千年以上も耐える必要から紙ではなく、粘土板に彫られることになった。
そして出来た粘土板は、マリーが1人で国内を旅行すると言って埋めていった。これで、この文献を埋めた場所はマリー以外知らない。しかし、その騎馬民族がいつ襲ってくるのか分からない、しかし途中までの記録があり、それ以降の記録が無ければ王国がその年に滅んだことが分かる。
マリーは自分でも日記をつけた。そうすれば日々の記録が残る。その日記には保存の魔法をかけた。そうすればたとえ紙に書いた記録でも千年以上残る。マリーはこれを王国が亡ぶ日に埋めるつもりである。
一方鐙の生産は順調にいった。鐙を装着した馬は最強であった。これまでの鐙を装着しない馬に乗った兵士と戦わせてみると、その強さは一目瞭然であった。鐙を装着した馬に乗った兵士が自由自在に馬を走らせ長い槍を巧みに操るのに対して、鐙のない馬に乗った兵士は馬にしがみつくのがやっとで槍を振り回すことなど到底出来ない。鐙をつけた兵士の槍が当たるとすぐに馬から振り落とされる。この鐙はすぐに王国中に普及した。
次に拠点の建設であるが、これは遅々として進まなかった。遊牧民が攻めてくるかもしれないと言っても、拠点の建設にはお金がかかる。鐙の装着で騎兵が強くなったのだから、それでいいのではないかという訳である。
貴族たちが乗り気ではないので、王家だけでもと国王と宰相は率先して拠点の建設を進めた。しかし、拠点といっても、どのような物を作ればいいのか、その案さえないのである。
とにかくその遊牧民を見たこともないのである。ましてどのような戦い方をするか。そしてそれにはどのような対処が必要か。全く分からないのである。「見たことも聞いたこともない敵に対処しろ」と言っても無理があるのである。
その敵は突然現れた。何の前触れもなく。ある日、王国の南の国境に近い貴族の村に見慣れない人々がいるという報告がその地方を治める貴族に寄せられた。
その人々は、獣の皮をまとい、顔には入れ墨をして、頭には鳥の羽をつけている。そしてその風貌が異様なほど恐ろしいというのである。その人々を見た村人は一目散に逃げ帰って貴族に報告した。
その貴族はすぐに騎兵を出して追い払おうとした。騎兵で追って行くと、その遊牧民はすぐに逃げ出した。国王からは「遊牧民には注意するように。むやみに追撃したりせずに、すぐに王宮に連絡するように」という通達が出ていることは知っていたが、遊牧民があまりにもすぐに逃げだしたので、貴族は気が大きくなってその遊牧民を追撃した。
その遊牧民は一定の距離を取って逃げていく、追いつけそうで追いつけない。1日が経過したとき、その貴族は引き返そうとしたが、そうしたら、その遊牧民がすぐ近くで野営しているのが見えた。「蛮族のくせに馬鹿にしおって」とその貴族は次の日もその遊牧民を追って行った。
しかし、追撃を始めてしばらくする、その貴族は雨のように降る矢に見舞われた。周りを囲まれて、周囲から一斉に矢を射かけられたのである。自分の体に降って来る矢は盾で防いだが馬に降る矢は防げなかった、馬に矢が当たり、馬が跳ねた時にその貴族は馬から振り落とされた。そして死んだ。部下の騎兵も同様であった。
その後その貴族の領地はその遊牧民によって蹂躙された。もう、この領地を守る貴族も騎兵もいないのである。歩兵では歯が立たなかった。歩兵が集団で向って行くと、その遊牧民は周りを囲んで、雨のように矢を射かける。歩兵ではその遊牧民の軽騎兵とは剣を交えることもできないのである。
このようにして、王国の貴族がまた1また1つと消えていった。王宮は国軍を派遣してこの遊牧民を全力で叩くことにした。
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