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64話 プロポーズ


 イーギス様が寮まで運んでくれる。だけど塀に私を座らせて、イーギス様は両腕で私を挟んだ。


「イーギス様?」

「泣き止んだ?」


 私の腫れた目に優しく触れて、イーギス様が言う。


「はい、もう大丈夫です」

「そっか」


 それを聞くために下ろしたのだろうか。寮まですぐそこだと言うのに。イーギス様は私に顔を近づける。鼻先が触れて、私は仰け反った。


「ねぇナターシャ、俺がフローラといて何も感じなかった?」


 イーギス様の問いに口を閉ざす。その言葉に嘘はつけなかった。イーギス様が私の手に触れて、手の甲を優しく撫でる。


「俺はナターシャと話さなかった時間が辛かった。やっぱり俺にはナターシャしかいないんだよ」

「イーギス様……」


 イーギス様に見つめられて、ドクドクと鼓動を感じる。この距離だと聞こえてしまいそう。


「それでも、ナターシャは俺を他の子とくっつけたい?婚約破棄したい?」


 婚約破棄……。その言葉に私は首を横に振った。婚約破棄したら、侍女でいられる保証はどこにもなくて私もすぐに違う誰かと婚約させられてしまうだろう。イーギス様の幸せが1番の幸せで、その上で私はイーギス様のそばに居たかった。


「俺もやだ」


 こっち向いて、とイーギス様が私の顎を掴んで振り向かせる。


「だって、俺はナターシャと結婚したいから」

「……」


 まっすぐで愛のこもった言葉に、私はぽろぽろと涙をこぼす。イーギス様がちゅっと頬にキスをして、涙を舐めた。


「イーギス様、」

「ナターシャもやだよね?ナターシャは俺のこと好きだもんね」


 確信したようにイーギス様は笑って私の頭を自分の肩に押し付ける。


「そんなんじゃ、」

「推しってそういう意味でしょ?ナターシャは俺から離れられない。俺もナターシャとは離れたくない。ならそれでいいじゃん」


 力強く言われて、今まで私が変えようとしてきたものは何だったんだろうと思う。でも、イーギス様の言葉を否定は出来なかった。


「ナターシャ、今も俺への感情じゃ恋じゃない?」


 ぎゅっと私の頭の後ろで手を握って、イーギス様が尋ねる。何て答えたらイーギス様が幸せになるか、私が幸せかもうわかっていた。今の私に誤魔化す余裕はなくて、イーギス様の背中に手を回す。


「恋、です」


 大好きな大好きなイーギス様。前世も今も私の光で希望で、愛する人。私の言葉にイーギス様は私を抱きしめて、引き寄せる。


「わっ」


 私はイーギス様に乗っかる形になって、慌てて足をイーギス様の体に絡めた。


「やっと聞けた」


 イーギス様の肩が震えてる。泣いてるのだろうか……。


「だってナターシャ最近俺のこと意識してるのわかってるのに、認めないんだもん。長かった」

「イーギス様……」


 私も誤魔化せてるなんて思ってなかったけど、最初から勝負は決まってたみたいだ。ちゅっとイーギス様は私の唇にキスをする。


「愛してるよ」


 離れた瞬間、イーギス様はそう言って笑った。

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