61話 ざわつく心
「ナターシャ様」
クラスの女子が私の名前を呼ぶ。フローラへのいじめを支持していた女子3人が私に声をかけた。
「どうしたの?」
「私達、ナターシャ様のためにあの子をいじめて来ましたがもう限界ですわ!イーギス様に怪我を負わされたんですよ!」
赤くなった腕を見せて女子達が抗議する。これもイーギス様ルートのイベントの一つだった。
「だから何?十分な金与えてるじゃない」
「ですが!ご自分は手を汚さず私たちだけに命令するって言うのはおかしいですわ!」
吠える女子達に私は席を立って、3人を睨む。
「それが階級ってものじゃない。何を今更」
何があってもお金が欲しいこの3人はナターシャには逆らえない。私は背を向けて教室を出た。今日もイーギス様とフローラを見かける。あの様子からしたら本当に順調に進んでるのかもしれない。
「……痛い」
今までイーギス様に構ってばかりだったから、それがなくなったことで多少は胸が痛む。けどこれは弟離れが寂しいだけだ。きっとそれだけだ。
「ナターシャ様……」
気分転換に散歩をしていると、前からフローラが歩いてくる。私を見てフローラは少し怯えた表情をしたけど、すぐに笑顔を作った。
「お久しぶりです。お元気ですか?」
「あなたが気安く話しかけていいと思ってるの?」
呆れて髪を後ろに払う。フローラがすみませんと謝った。私はフローラが手に持ってる物に目を向ける。
「それ、何?」
「えっと、お菓子です……。いつもお世話になってるお礼に……。ナターシャ様もお一つどうですか?」
3個入ったカップケーキの袋を開けて、フローラが言う。私はフローラから袋を奪い取った。
「これを王子にあげる気ね。勘違いも甚だしいから、私が処分してあげるわ」
「す、すみません……。でも王子じゃなくて……」
1つ口にしたところでフローラが否定する。王子じゃないって見え透いた嘘、ゲームでは言ってたかな?
「ナターシャ様」
フローラは顔を上げて私を見る。まっすぐなその瞳は何か決意したように見えた。
「何でイーギス様に冷たく当たるんですか?イーギス様が可哀想です」
ここでイーギス様の名前を出されるとは思ってなかったから驚いた。まさか、フローラは本当にイーギス様ルートに行ってるの?その言葉に心がざわつく。嫌だ、と頭の中が埋め尽くされた感覚がした。
「あなたには関係ないわ」
「ですが、イーギス様はナターシャ様のことをあんなにも思ってるのに!」
聞きたくなくて、私はフローラを突き飛ばす。それからその場所を離れた。いきなりドンッと突き飛ばされて倉庫の中に倒れる。フローラが反撃したのだろうか、いやフローラはそんな子じゃない。あの3人の誰かだろうか。
「いたた……」
立ちあがろうとすると、その前に倉庫のドアが閉められた。
「いや、待って!待って、誰か!」
慌ててドアを叩いたがびくともしない。あの3人に恨まれて、倉庫に閉じ込められてしまったのだろうか。今の私を探しにきてくれる人はきっといないだろう。ここできっと私は一生を暮らすんだ……。そう思ってた時だった。
「ナターシャ?」
奥から聞こえた声に顔を上げた。




