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60話 推しと恋


 いじめをしても、フローラやイーギス様に冷たく当たってもお互いに効いてる気がしない。王子ルートにはナターシャはほとんど登場しないはずなのに、フローラは王子ルートを確実に進めているしイーギス様もフローラはどうでもいいみたいだった。

 

「どうしよう……」

「何が?」


 中庭のベンチで横になってると、イーギス様が前に立つ。


「イーギス様……」

「フローラに嫌われてまで、俺とフローラをくっつけたいの?」


 私の頭を起こして、イーギス様がベンチに座る。推しの膝枕なんて、贅沢すぎる。


「はい」

「でも俺の幸せは俺が決める。どうしてそれをわかってくれないの?」


 頭を撫でながら、イーギス様が怒った口調で言う。私は、そう言われても自分がしてることが間違ってる事だとは思えないんだ。


「イーギス様は私の全てなんです」


 人生が辛かった時、イーギス様が私に光を与えてくれた。大好きだから、最推しだからこそ幸せになってほしい。そんなふうに願うのは変なのかな……。


「そんなに思ってるなら、俺のこと好きになればいいのに」


 推しに恋するなんて畏れ多い。そんな場違いなこと、私には出来ない。


 「推しと恋とは違うんです」


 哲学みたいな話だな、なんて自分でも思う。でも明確に違うのだ。ゆっくりと、イーギス様が私の頭を撫でる。それが心地よくて眠ってしまいそうになる。イーギス様はナターシャ、と柔らかい声で私を呼んだ。


「俺がフローラのこともっとよく見て、それでもナターシャがいいって言ったら信じる?」

「……そんなことないと思いますけど」


 フローラより私を選ぶ理由なんてどこにもない。私のためにフローラを見るなんてもったいないけど、フローラに興味がない今よりもずっといい気がする。


「それでもフローラを見てくれるなら、いいと思います」

「決まり。これは浮気じゃないからね」


 イーギス様は私の額にキスをして席を立つ。フローラをもっとよく見るってどうするんだろう。とにかく、イーギス様がフローラと接点を持ってくれるなら、それは成功だと思った。その日から、イーギス様はフローラに話しかけて私を見もしなくなった。


「フローラ、俺が持ってあげるよ」

「イーギス様、ありがとうございます」


 フローラを見かけては近づいて、接点を持っていく。王子が入る隙もないほどに。


「いいのかよ。お前の婚約者」

「だから、私とイーギス様はそんな関係じゃないですわ」


 本来のナターシャだったら執拗にフローラを咎めてるところだけど、それをしてフローラが身を引いたら意味ないから。


「ナターシャ」


 王子が珍しく私に話しかける。


「イーギスはお前のことが嫌いになったのか?」


 最近イーギス様とフローラがいい感じだから王子も気が気じゃないんだろう。王子の言葉に私はにっこりと笑う。


「当然ですわ。イーギス様は最初からフローラのことが好きなんですの」

「そうは見えなかったがな」


 目を細めて王子が私を見る。王子の視線が胸に刺さった。だけど無口な王子はそれ以上何も言わず、ランパードの方に行く。王子の気にする通り、イーギス様とフローラはいつでもどこでも一緒に話している。わざとかと思うくらい私が目につく範囲で。


「もうイベント進んでるのかな」


 邪魔したら悪いから聞けてないけど、いくつかのイベントは進んでいるだろう。そう考えると嬉しいことのはずなのに、私の心はもやもやした。


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