59話 ナターシャ・ユーリティス
クラスの女子に命令して、フローラへのいじめを開始する。朝早くからフローラの机に落書きしてくれたり服を破いてくれるから、私は見て見ぬフリをして登校する。
「セリ……、私の服が……」
「誰だよ!こんなことやった奴!」
悲しむフローラにセリが吠える。私は肘をついてイーギス様を見た。イーギス様は興味がないのか動かないみたい。後ろにいた王子が席を立って、フローラに近づこうとした。
「きゃ、」
私の横を通る王子に、私はわざと立って王子にぶつかりに行く。
「ナターシャ」
「すみません王子、でもあんな子に関わると王子の品が問われますわ」
立ち上がって私を支えるイーギス様を無視して、王子の腕に自分の腕を絡ませる。王子が眉間に皺を寄せて私を見た。攻略対象に冷たい目を向けられるのはつらい。
「そうですよ、レオンハルト様。関わらない方がいいです」
ただ、ランパードも同じ考えなのが心強い。王子はランパードに言われ、おとなしく席に戻った。
「それよりナターシャ様、何かしましたか?」
「私はそんな低俗なことしませんわ」
ランパードがひそひそと私に聞いてくる。しらを切るとイーギス様が私の肩を抱いた。
「そうだよ。ナターシャを疑わないでくれ」
イーギス様が庇ってくれて心苦しい。私はイーギス様を裏切ってしまっているから。失礼しました、と引き下がるランパードにひとまずホッとする。でも私は諦めない。次の日も次の日も、フローラへのいじめはひどくなる。私が目を背けたくなるようなことも、取り巻きたちはやってくれた。その度にフローラを助けに行こうとする王子にわざとぶつかる。
「ごめんなさい、王子。ぶつかってしまったわ。でもそんな子ほっといて私とお話ししましょ?」
「立場をわきまえるのはあなたですよね?」
呆れたように言うランパードを無視して、王子に上目遣いをする。そうしてると首根っこを掴まれて持ち上げられた。
「ナターシャ、悪い癖が再発した?」
「あら、イーギス様」
ゴォォォォと音でもしそうなくらい眉間に皺を寄せて、イーギス様が私を咎める。
「ここはイーギス様の助ける番ですよ」
「ナターシャ」
私の言葉にイーギス様が目を見張る。それからイーギス様は私から手を離して首を横に振った。
「ナターシャ、俺のためを思ってならやめてくれ」
苦しそうなイーギス様に私は胸を痛める。だけど、イーギス様が私と話してる間に、王子がフローラの方に行ってしまって焦る。王子は立場すらも気にしなくなっていた。
「そんなナターシャを見たくないし、君らしくもない」
「イーギス様は私の何を知ってるの?」
ゲームの話も信じない、前世の私も知らない。そんな私にイーギス様は顔を歪める。私はフンッと顔を背けて、教室を出た。本当はイーギス様に冷たくしたくないけど、私はいつ自分の世界に戻ってしまうのかわからないのだ。そうでなくとも、ナターシャはイーギス様を幸せには出来ない。そんなこと、最初から決まっていたのだ。だけど、フローラをいじめればいじめるほど王子とフローラが接点を持つ。他人に興味がないはずの王子が、積極的にフローラを助ける。昔出会ってしまった時から、ルートは決まっていたのかもしれない。




