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55話 16歳


 イーギス様の家で侍女として生活しながら3年が経った。今日はメイド服じゃなくて制服に身を包んで、イーギス様の部屋に迎えに行く。


「イーギス様、おはようございます」

「おはよう、ナターシャ」


 制服に着替えながら扉を開けるイーギス様。目の前に飛び込んできた腹筋に目眩がする。


「イーギス様!服着てから開けてください!」


 数ヶ月前から練習してたから早く起きれるようになったとはいえ、まだ寝ぼけてるのかイーギス様はははっと笑う。16歳になったイーギス様は、私の好きな【麗しの花姫】のイーギス様と変わりなくて。まだ子供だからとか、弟みたいとか言えなくなってきてつらい。


「ナターシャ、ドキドキしてるでしょ」


 私の腰に両手を回して抱きしめるイーギス様。相変わらず距離が近くて胸を押し返す。


「馬鹿なこと言ってないで、学校行きますよ!」


 そう、今日から私たちは王立学園に通う。【麗しの花姫】の舞台だ。3年前は失敗したけど、今ならイーギス様ルートも開放されてるはず。


「ナターシャ、髪セットしてよ」

「他の人にやってもらえばいいじゃないですか」


 先に馬車に乗ってようとしたら、イーギス様に引き止められる。イーギス様は私の手を軽く引っ張った。


「ナターシャも侍女でしょ?」

「……はい」


 この3年で、イーギス様は私の扱いが上手くなった気がする。侍女の役割だと言われ、私はほぼ一日中いーギス様と一緒にいた。子供の頃から何度も触ってきたイーギス様の髪。ふわふわしててやわらかくて、だけど今はあの頃とは違う。鏡越しにイーギス様に見られて鼓動が速くなる。冷静になんて出来なかった。


「ナターシャ、他の男の髪もセットしたことある?」

「ないですよ」


 前世も今も、こんなに距離が近いのはイーギス様だけだ。その言葉にイーギス様は満足げに笑う。私が前世で知ってたイーギス様からは想像もつかないような表情。もう、完全にイーギス様をゲームのキャラクターだとは思えなくなってる。この日が来るまでは、子供のイーギス様だからと割り切っていたけどもう無理だった。


「イーギス様」

「何?」


 手を止めて、私はイーギス様の髪をじっと見つめる。


「幸せになってください」

「ナターシャはそればっかりだね」


 私の言葉にふふっと笑って、イーギス様は私の手を掴む。


「一緒に、幸せになるんだよ」


 そう言われて泣きたくなった。私の幸せは、イーギス様が幸せになること。イーギス様とフローラの恋を見届けること。ずっとそうやって生きてきたのに、それが今揺らいでいる。今のイーギス様の恋愛を、私は応援できるのだろうか……。


「出来ました」

「ありがとう」


 私の知ってるイーギス様の髪型。ゲームの世界そのものなのに、本当に存在してる人みたいで私はイーギス様の顔を直視できなかった。


「行こう」


 イーギス様に手を引かれて、私はイーギス様の部屋を出る。学園に行けば、フローラも王子もいるだろう。どんな生活が、待ってるのだろうか……。どんな生活でも、私のやることは一つ。ゲームのシナリオ通りに演じること。それを私は新しく心に決意して、馬車に乗った。


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