54話 戻ってきた生活
朝、洗濯して掃除をして朝食を作ってイーギス様の部屋に行く。朝に弱いイーギス様が起きる時間は遅くて、たくさん家事をこなしてから私はイーギス様の部屋の扉を開けた。
「イーギス様、朝ですよ。起きてください」
「んん……」
イーギス様は唸ってから、布団を叩いていた私の手を引っ張る。
「わっ」
私は驚いて、布団の上に乗っかる形になった。イーギス様は寝ぼけてるのかそのまま私を抱きしめる。イーギス様の顔が近くて、ドキドキする。だけどすぐにハッとして、私は顔を上げた。
「イーギス様……、起きてください」
呆れて体を揺さぶると、イーギス様は私の手にキスをした。
「ふふっ」
「起きてるじゃないですか」
笑うイーギス様に脱力する。イーギス様は起き上がって、私の頭を撫でた。幸せそうに笑うイーギス様に胸がきゅんとする。可愛い。
「朝からナターシャがいるなんて幸せだね」
「安いですね、イーギス様の幸せ」
そんなもんでいいのか。だけど相当ご機嫌なようで、イーギス様は「うん」と頷く。最近は妙に色気付いてたから、純粋な表情が可愛くてイーギス様の前髪を払う。
「イーギス様、仕事しなきゃ。イーギス様も朝ごはん食べるでしょ?」
「もう少し……」
私を抱きしめて肩に顔を埋めるイーギス様。こうしてていいのかなぁ、と思いつつもそれがイーギス様の幸せなら少しくらいとも思ってしまう。
「ほら、時間ですよ」
数秒経ったところで私は立ち上がって、イーギス様の手を引っ張った。イーギス様はおとなしくベッドから降りる。椅子に座らせると、イーギス様はカトラリーを手に取った。
「ナターシャは食べないの?」
「私はもう済ませました」
朝早く起きたから、食べないと元気でないし。
「そっか」
「はい。私はやることがあるのでこれで」
ご飯を食べてるイーギス様を横目に部屋を出ようとすると、イーギス様に手を掴まれる。
「まだ居てよ。それもナターシャの仕事」
「それは侍女の仕事じゃありません」
もう、ちょっと優しくしたら調子乗るんだから。手を振り払うとイーギス様は眉を下げる。
「じゃあ、また後で」
私はイーギス様に手を振って、部屋を出た。廊下の掃除にイーギス様の部屋の掃除に昼食作り、やることはいっぱいある。でもそれが楽しかった。やっぱり私はお嬢様よりも動いてる方が性に合うみたいだ。
「ナターシャ様、少し休んだらどうです?」
「皆さんが仕事してるのに私だけ休めません」
侍女仲間のエリーに言われ、首を横に振る。
「ナターシャ様はイーギス様の婚約者なのに」
「でも動いてるのが楽しいんです」
昔と違って今は勉強も強制されないし、イーギス様のお世話を出来るのは幸せすぎる。
「変わってますね、ナターシャ様は」
「ありがとう」
まぁこの世界の人間じゃないからね、私は。2回目の洗濯をしに、私は庭に出る。今日も明日も明後日も変わらず、イーギス様は私のやりたいようにやらせてくれて。時折イーギス様の愛を躱しながら、あっという間に3年の日々は過ぎていった。




