53話 想定外
イーギス様は冷たい顔で私を見下ろしている。
「ナターシャが呼び出しておいて他の子とデートさせるなんて、何がしたいの?」
「そ、それは……」
鈍感な私でもわかる。イーギス様は怒ってる。でもでも、イーギス様はマリアとここまで来てくれたじゃないか。
「ナターシャは楽しかった?俺が他の子とデートしてるの。楽しいか、女遊びしてる男が好きだもんね」
口をぱくぱくと動かし、動けなくなってる私に顔を近づけてイーギス様が言う。
「俺、ナターシャのこと手放す気ないって言ったよね?」
そう言って、イーギス様は私の鼻にキスをする。それから私の隣に座った。
「待って、マリアは?」
「追い返したよ。もう一緒に劇観たんだからいいでしょ?」
か、かわいそうなマリア……。もう私に会ってくれないだろう。イーギス様は私の腰に手を回して、ぐっと距離を詰める。
「考えたんだ。ナターシャが俺を恋愛対象じゃないって言っても関係ないって。絶対振り向かせてみせる」
「イーギス様……」
そんなことを考えてたんだ……。イーギス様の顔が見れなくて俯く。
「わ、私は前世の年齢含めたら31歳です。イーギス様とは付き合えません」
「何それ。またナターシャの妄想の話?」
信じてもらえてない……。それは別にいいけど、イーギス様は納得してくれない。
「イーギス様は誰だったらいいんですか?どんな女の子が好きなんですか!」
「だから言ってるじゃん、ナターシャだって」
一貫してブレなくて、私は頭を抱える。これじゃあ、イーギス様を幸せにできない。
「ナターシャは矛盾してるよね?俺の幸せを願ってるくせに、俺を遠ざけようとする」
「それとこれとは別だからです」
心を鬼にして伝えると、イーギス様が私を抱きしめる。
「一緒だよ、どうしたらわかってくれる?」
「それは……」
困ってるとバンッと強く扉が開いて、現れた人物に私は目を丸くした。
「お姉様、イーギス様いるんでしょう?この私を騙すなんて許せませんわ!」
エイシア……、何でここまで……。イーギス様と顔を見合わせたら、イーギス様は私をソファーに隠してエイシアの方に出て行く。ここからじゃ会話は聞こえないけど、揉めてるみたいだ。イーギス様が守衛に頼んでエイシアを追い出す。それからこっちに戻ってきた。
「ナターシャ、やっぱり俺の家に来ないか?ユーリティス家じゃ居心地悪いだろ……」
心配そうにするイーギス様。平気だと言いたいところだけど、私もエイシアやお父様と争う気は起きなくて。
「侍女として置かせてください」
「ナターシャ……」
私は起き上がって、イーギス様に頭を下げる。私にとっても、イーギス様の侍女生活は楽しかったからそうやって生きていけるなら最高だと思った。特に必要なものはなかったし、グランドル家に元々置いてあった物は残してくれてたみたいでそのままイーギス様の家に行く。久しぶりのイーギス様の家は懐かしくて、泣きたくなった。
「もう本家に戻れたから、ナターシャも好きに暮らすといい」
「働かざる者食うべからず、ですわ」
私は早速侍女長に会って、仕事を紹介してもらう。イーギス様は呆れてたけど、私のやりたいようにさせてくれた。




