52話 観察者
イーギス様が会いに来なくなっても、定期的に手紙は来ていた。手紙の内容は当たり障りのない世間話で、物足りなさを感じる。でも、これが私が招いた結果だ。
「イーギス様と婚約破棄を考えてるって本当ですの?」
「ええ、だからあなたにどうかなって」
最近はお茶会をたくさん開いて、イーギス様に見合う令嬢を探していた。その中でも特に人柄が良いと思ったのが、伯爵令嬢のマリア。私は屋敷に呼び出して、マリアに提案した。
「私は光栄ですが、イーギス様が了承してくださるかは……」
「とりあえず1回会ってみて」
もしかしたら気に入るかもしれないし。これは賭けだ。ゲームのシナリオから完全に逸れた展開。だけど、イーギス様の幸せのためにはなりふりかまってられなかった。
「お姉様!どういうことですの!!」
マリアとお茶してるとエイシアが乱入してくる。イーギス様にフラれてからというもの、男性と遊びに出かけることが多くなってたからすっかり忘れていた。
「私からイーギス様を奪っておいて婚約破棄だなんて。だったら私に返してください」
「エイシアじゃダメなのよ」
悪役令嬢だから。キーッとハンカチを噛むエイシアを部屋から追い出す。
「いいんですか?」
「いいのいいの。ね、1回デートしてみて」
頷いてくれたマリアに、そうと決まれば私はマリアのことを伏せてイーギス様を手紙で呼び出した。1週間後、グランドル公爵領でイーギス様とマリアが待ち合わせする。私は庶民の変装をして、近くから見ていた。
「イーギス様!」
イーギス様がやってきて、マリアが名前を呼ぶ。イーギス様は無視して、馬車によりかかった。え?
「イーギス様、お会いできて嬉しいですわ。私、マリアと申します。伯爵令嬢ですわ」
「あー、うん。もしかしてナターシャの知り合い?」
諦めず話しかけてくれたマリアに感謝する。イーギス様は頭を掻いて、マリアに尋ねた。
「ええ。ナターシャ様が手紙に書いてくださった友人ですわ。今日は私とデートしましょう」
「……ナターシャは来ないの?」
低い声で言うイーギス様に私までひぇっとなる。
「は、はい」
ごめん、マリア。私は心の中で謝った。
「まぁいいや。行こうか。劇観に行くんだよね」
「はい、お願いしますわ」
だけど、思ったよりあっさり歩き始めたイーギス様に驚く。私が来ないこと受け入れるんだ……。2人を、バレないように少し離れた距離から追いかける。マリアは一生懸命イーギス様に話しかけていて、イーギス様も少しそっけないものの相槌を打っていた。
「マリアなら大丈夫」
めげないでイーギス様と向き合ってくれそうだもん。私も中に入って、反対側の席から劇を鑑賞する。今日はロングセラーの王道ラブストーリー劇だ。ゲームのシナリオでも、イーギス様とフローラが見に来た劇で。身分違いの恋の障害を乗り越える感動ものだった。私はメイクが崩れそうになるくらい感動して泣いた。もちろん、その後のスチルイベントが最高だったんだけども。
「泣きすぎ」
おんおんと泣いてたら、ハンカチを差し出される。私はそれを受け取って涙を拭ってから、固まった。
「えっと……」
「相変わらず趣味悪いよね、ナターシャは」
ハッ、と鼻で笑う聞き慣れた声に顔を上げる。イーギス様が私を見下ろしていた。




