51話 幸せの定義
イーギス様に邪魔されながらも、王子とフローラの交流を阻止していると王子が私を見て微笑む。
「イーギスは相当君のことが好きなんだな」
「……いえ。イーギス様はフローラと結ばれるんです」
ランパードと買い物してるフローラを見ながら言うと、後ろに引っ付いてるイーギス様が私の口を塞ぐ。
「またそんなこと言って。王子もこう言ってるじゃん」
「今の時代、恋愛結婚できることは幸せなことだ。そうだろう?イーギス」
寡黙な王子が珍しく喋ってる。その言葉に私は俯いた。「わかってる」とイーギス様は頷く。私たちの関係だって親が決めたものだ。それなのに、イーギス様は私のどこがそんなに良く見えてるのだろうか。
「王子も、フローラが気になってるんですか?」
「秘密だ」
王子とフローラはほぼ一目惚れに近い。出会ってしまったら私はそれを阻止できないのかもしれない。王子とランパードと別れ、フローラとイーギス様と3人で馬車に乗る。イーギス様の肩にもたれかかりながら、私は窓の外を見ていた。
「フローラは、王子のことが好き?」
「えっ、いやそんな……恐れ多い」
顔を赤らめて否定するフローラに、もうイーギス様ルートはないんだと悟る。目を伏せる私の手の甲をイーギス様が優しく撫でた。
「今日はありがとうございました」
フローラを送って、イーギス様と2人きりになる。
「ナターシャ、また悩んでるの?」
「……イーギス様は本当にいいんですか?もうフローラと結ばれることはきっと、ないんですよ」
私は諦めきれない。最推しが、ヒロインと幸せになれないだなんて。イーギス様は優しく私の肩をトントンと叩く。
「俺はナターシャさえいれば何も要らないよ」
「そんな……。小さい時からずっと一緒にいたから、錯覚してるだけです。私をお姉ちゃんだと思い込んでるだっ」
私が言葉を言い終わる前に、イーギス様が私の口を塞ぐ。甘いはずのキスが、私の涙でしょっぱかった。
「俺は間違わないよ。ナターシャを愛してるんだ」
こんなに言われて嬉しくない人なんていない。嬉しいんだ、嬉しいんだけどまだ心のブレーキがかかってる。イーギス様はフローラと一緒なら幸せになれると信じて疑わなかったから。
「私は、そうは思えません」
私のためにも、イーギス様のためにも折れない方がいい。私はイーギス様の胸を押し返した。
「ナターシャ……」
イーギス様の手が離れる。
「俺のこと、嫌い?」
「嫌いじゃないです。でも、恋愛的な意味じゃない」
推しにこんなこと言うのは心苦しいけど、はっきりさせるべきだと思った。そっか、とイーギス様が立ち上がって私の正面に座る。馬車の中で、私もイーギス様も何も言わなかった。イーギス様と一緒にいて、初めて苦しいと思った。推しをフることになるなんて、なんて贅沢で想像もしていなかった。イーギス様がフローラと結ばれないなら、誰となら幸せになれるんだろう。フローラ以外の女の子なんて、ゲームではほとんど出てこないから。私は軽くイーギス様に挨拶して馬車を降りて、ふらふらと自室に戻った。




