47話 ナターシャの想い
馬車に大差ないと思ってたけど、グランドル家の馬車は腰が痛くならなくて快適だった。穏やかに進むからうとうとして眠たくなる。
「ねぇナターシャ」
イーギス様が私の頭を撫でて問いかける。イーギス様の手が優しくて、気持ちいい。思わず目を閉じそうになってたら、イーギス様が私に聞いた。
「ナターシャは何で、俺とフローラを付き合わせたいの?」
「……それは」
改めて聞かれると返事に困った。運命の相手だからと言ってもイーギス様は納得してくれないだろうし。私の知ってることを言ってもいいのだろうか?
「ナターシャ?」
「この世界は、ゲームの世界なんです」
でも、隠し事してるのもいいとは思えないから。私はイーギス様に本当の話をする。
「ゲームの世界?」
「はい。ここは作られた世界なんです。私は別の世界でこの世界をゲームとして遊んでたんです。そこではフローラがヒロインで、みんながフローラに恋をする。フローラは遊ぶ人によって、誰と結ばれるか変わってくるんです」
イーギス様の顔を見ると、イーギス様が目を丸くする。
「ここが、作られた世界……」
「はい。だから、イーギス様はフローラに恋する運命なんです」
イーギス様の手が離れ、イーギス様は顔を覆う。自分の世界が、自分が作られた存在だと知ってしまったらどんなふうに感じるだろう。辛いと思う。それでも、私は言うべきだと思った。
「ナターシャは、それで遊んでたの?」
「はい、だから学園に通ってる未来のイーギス様を知ってます。だからイーギス様がどんなふうになるか、フローラとどういうふうに恋するかを知っています」
包み隠さず、知ってることを全部話す。イーギス様は私の手を掴んで、押し倒した。
「だから、ナターシャは俺を遠ざけるって?馬鹿げた話だ。もしそれが本当の話だったとしても、もうその物語は変わってる」
イーギス様が私の首筋に吸い付く。痕をつけるように強く。
「俺は、ナターシャがいないと幸せになれない」
「イーギス様……」
私はイーギス様の頬に手を伸ばす。
「もう、大丈夫です」
安心させるように、私はイーギス様の頬を撫でた。イーギス様が私を抱きしめて、肩を振るわせる。会えなかった時間はとても長く、苦しかった。そんなふうに思う私も、イーギス様なしではもう生きられないんだと思う。でもこれは恋じゃないと、私は思ってたんだ。
「イーギス様、幸せになってください」
「嫌だ」
髪を撫でながら言うと、イーギス様に拒否される。思わず手を止めると、イーギス様は顔を上げた。
「一緒に、幸せになるんだ」
私の手に指を絡ませて、強く掴む。私はおとなしくされるがままだった。イーギス様の触れた手が、肌が熱を保つ。ドキドキして、心臓が壊れちゃうんじゃないかと思った。
「可愛い」
イーギス様が笑って、私の額にキスをする。もう私の知ってるイーギス様じゃなくなってた。服の隙間から見える鎖骨が、首筋が男の人を感じさせてくる。イーギス様が私の頬を撫でて涙を拭う。いつの間にか泣いていたみたいだ。私にとってもイーギス様と離れてた期間はしんどくて、今がすごく幸せだと思った。




