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44話 迎え


 イーギス様の登場に、私は呆然とイーギス様を見上げる。まるで王子様みたいに、自分がヒロインになったかのようにイーギス様が跪いて私の前に来る。


「迎えに来たよ」


 私を抱きしめるイーギス様に、私は可愛く泣いて名前を呼ぶことすらできない。私はヒロインじゃないからだ。


「あれ?感動しちゃった?」


 ふふっと笑うイーギス様にまだ夢の中にいるようで、私は恐る恐る口を開く。


「何で……?」


 聞きたいことはいっぱいある。何でイーギス様がいるのか。エイシアはどうしたのか。お父様の許可は得てるのか。戸惑う私にイーギス様は私の手首を掴んで手の甲にキスをする。


「フィアンセを救いに来たんだ」

「フィアンセって……、エイシアは?」


 私たちの力では大人には敵わなかったはずだ。だけどイーギス様はいたずらっ子みたいに笑う。


「ユーリティス侯爵を脅したんだ。告発はしないよ、ナターシャの家族だからね。それに」


 イーギス様もお父様の悪事に気づいてたんだ。私なんかよりも確実に。そういえばイーギス様は頭もよかったななんて今頃思い出す。


「俺が君を手放すわけないだろう」


 会いたかった、とイーギス様が私を抱きしめる。3年ぶりのイーギス様は髪が伸びて、背も高く声変わりもしていて……私の知ってるイーギス様に似ていてくらくらした。


「ちょっと待って、」


 倒れそうになったところでハッとする。私はイーギス様の胸を押した。今、君を手放すわけないだろうって言ったよね?婚約者に戻れたのはいいけど、それはそれでまずくない?


「イーギス様?他のご令嬢と仲が良いという噂を耳にしましたわ」

「ナターシャはそういう男が好きだろう?それに奇遇だね、俺も君の噂を聞いたよ」


 そう言って、イーギス様の声が低くなる。顔が近付いてきて鼻が触れた。


「寂しい思いをさせたのはすまなかったが、他の男と遊ぶなんて感心しないな」

「それはっ、」


 反論しようとすると、イーギス様に口を塞がれる。久しぶりのキスに息が止まりそうだった。トントンと胸を叩いても話してはくれない。少しして、ようやくイーギス様の唇が離れた。


「俺は、ナターシャ以外何も要らないんだと気づいた。ナターシャだけが居ればいい」

「イ、イーギス様ちょっと待ってください……。イーギス様にはフローラがいるって……」


 私に執着されるのはまずい。そんなシナリオ改変望んでいなかった。イーギス様は呆れてため息を吐く。


「まだそんなこと言ってるのか。ナターシャも俺のフィアンセに戻れるように交渉してたって聞いたが」

「それは、事情があったからで」


 否定する私を抱き上げて、イーギス様は牢屋を出る。どこまで連れてかれるんだろうと危惧してたら、廊下でイーギス様は私を下ろした。


「ナターシャ、急なんだけど家に戻ってきてくれないか?今は屋敷に戻れてるんだ」

「イーギス様……」


 イーギス様の想いは今どのくらいなんだろう。これからフローラと愛し合う未来が見えなくなってる。イーギス様がそれで幸せならとも思うけど、私ではイーギス様を幸せにする自信がないんだ。


「イーギス様、私はイーギス様と結婚できません!」

「どうして……?」


 こ、これは私が悪女になっても意味ないことくらいわかる。シナリオ通りに戻そうとしたら、まさか典型的な異世界転生恋愛小説みたいな展開が待ってるだなんて。


「イーギス様はフローラと幸せになるべきだからです!出て行ってください!」


 心を鬼にして、イーギス様を突き放す。私は部屋にこもって、イーギス様を締め出した。

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