39話 念願の侍女生活
「イーギス様〜朝ですよ〜」
扉を開けてイーギス様の部屋に入る。まだぐっすりと寝ているイーギス様の布団を剥ごうとしたら、がっつりイーギス様は布団を掴んでいる。そういえば朝弱かったっけなんて思い出しながら、床に散らばった服を片付け軽く掃除をする。
「イーギス様、起きてください。ご飯を食べましょう」
「んん、ナターシャ……?」
イーギス様の肩を叩くと、目を擦ってイーギス様が私を見る。
「はい。ご飯作ってきましたから、一緒に食べましょう」
もっと早くこうしておけばよかった。意外にキッチンはすんなり使わせてくれて、今まで質素なご飯を食べてたのがバカみたいだった。温かいスープに分厚いお肉、柔らかいパンはいい匂いで。奥様たちにバレないならと、グランドル公爵たちと同じ食材を使わせてもらったのだ。
「これ……、何で?」
体を起こして食事を見たイーギス様が驚く。久しくこんなご飯食べてなかったから、イーギス様の戸惑いもわかる。
「私が作りましたの」
「ナターシャが?」
私を見て瞬きをするイーギス様。恐る恐るスープを口に運ぶ。
「美味しい……」
「よかったです」
私にもちゃんと役に立つスキルがあった。イーギス様は目を輝かせてお肉やパンに手を伸ばす。
「すごい、これほんとにナターシャが作ったの?」
「ええ、シェフほどではないですが食べるには問題ないですわ」
私も喜ぶイーギス様を見ながら食事をする。侍女が一緒に食事なんてとも思うけど、今まで一緒だったし1人は寂しいだろうし。なんてたって、肩書きは婚約者だから問題ないですわよね。
「すごいね、ナターシャ。何でも出来るんだ!」
「何でもじゃありませんわよ」
薬だって服だって作れないし。服を新調してもらえてないから日々成長するイーギス様の服は、袖が短くてところどころ糸がほつれている。そんなことを考えると転生チートがなくてがっかりするけど、等身大の私でもイーギス様が喜んでくれるなら嬉しい。
「これからは私が料理も家事もしますわ」
「ナターシャ……。そこまでしなくていいよ。ナターシャは婚約者なんだし。今は侍女誰もいないけど」
しょぼんとするイーギス様に、私は身を乗り出して頭を撫でる。
「大丈夫ですわ。私はイーギス様のお世話をするのが夢だったんですもの」
「ナターシャはすごいね」
だから罪悪感なんて持たないでほしい。イーギス様をこんなにも悲しませてる今の状況に胸が痛いけど、きっと……きっといつか変わるって信じてるから。あと5年、あと5年で【麗しの花姫】のシナリオに到達する。それまで私はイーギス様を守ってみせる。
「イーギス様、ご飯食べたら掃除しますから部屋を出ていてください」
「ありがとう、ナターシャ」
家庭教師の元に行くイーギス様を見送って、私はイーギス様の部屋を掃除する。急がないと私も勉強の時間になるから、現代にいた頃よりも集中して家事をこなした。勉強を終えて、昼食を作って、洗濯をして、花嫁修行をして。大変だけどイーギス様のためになるなら頑張れた。ただ生活のために働いてた時より断然楽しくて、今を精一杯頑張ろうって思ってた。そのはずだった。




