36話 近づく距離
「フローラ、どういうこと?」
部屋で着替えて来客を迎えに行った私に、イーギス様が不機嫌そうに言う。
「どういうことって、遊ぶならフローラも一緒じゃないと」
「すみません、お邪魔でしたか?」
瞳を潤ませてイーギス様の顔色を伺うフローラの肩を抱く。
「そんなわけないよ。フローラは私の親友だもん」
「ありがとうございます、ナターシャ様」
フローラとイーギス様のカップリングが好きな私としては、フローラを呼ばない選択肢はない。リーゼルたちに見つからないように、フローラをイーギス様の部屋に案内して真ん中に座らせる。
「ごめんね、昨日は放置しちゃって」
「いえ、体調が悪かったなら仕方ありませんもの。もう大丈夫ですか?」
心配してくれる優しいフローラにガッツポーズをして元気をアピールする。
「ナターシャ、勝手に決めないで」
「えー、イーギス様はトランプやりませんか?」
イーギス様の部屋の引き出しからトランプを取ると、フローラが不思議そうに見る。今まで遊び相手がいなくてトランプは眠らされてたから、ようやく出番が来たというのに。
「まぁ、ナターシャがやりたいなら」
「嬉しいです」
イーギス様も椅子に座ってくれて、私はカードをシャッフルする。フローラにも説明して、たくさん色んな遊びをした。
「お2人は面白い遊びを知ってるんですね」
「全部ナターシャが持ってきたんだ」
目を輝かせるフローラに、イーギス様が答える。
「すごいですわ。それに全部勝ってしまうイーギス様も」
「2人ともわかりやすいからね」
イーギス様の言葉に恥ずかしそうに顔を赤らめてフローラが俯く。なんか、前よりいい感じじゃない?
「もっとちゃんとお相手できるように頑張ります」
「いいよ、これでも楽しいから」
うんうん、好きな人とならどんな遊びでも楽しいよね。今日は微笑ましく私も2人のことを見れた。
「もうすっかり遅くなってしまったので、私は帰りますわ」
「フローラ、また遊ぼう」
立ち上がるフローラに私も立ち上がって握手を求めると、もちろんとフローラが笑って握手をしてくれる。
「ではこれで、きゃっ」
歩こうとしたらフローラはずっと座ってたせいかよろけて、それをイーギス様が受け止めた。
「大丈夫かい?」
「は、はい……。ありがとうございます」
耳まで真っ赤にしてフローラがお礼を言う。イーギス様がフローラに手を差し伸べた。
「またよろけたら困るから、外まで送ってくよ」
「ありがとうございます」
部屋を出ていくイーギス様とフローラを見ながら、私はトランプを片付けてそのままイーギス様の部屋を掃除する。ベッドの下にピアスを見つけて、胸が痛んだ。でも、これもイーギス様の人生には必要なこと。イーギス・グランドルは女好きで軽薄で愛に飢えている。そんなキャラクターだから。
「私に出来ることはイーギス様を見守ることだけ」
イーギス様のお母様の死も再婚も私は食い止められなかった。どれだけイーギス様の幸せを願ってシナリオを回避しようとしても、イーギス様の幸せはシナリオの先にあって。イーギス様がイーギス様になるのを、私は止めてはいけないんだ……。




