35話 看病
イーギス様は慣れない手つきで私の額に濡れタオルを乗せる。キッチンから持ってきたのかすりおろしたりんごをサイドテーブルに置いて、私の体を起こした。
「無理しすぎなんだ。勉強に侍女の仕事なんか、おまけにフローラのことまで何か企んでるし」
イーギス様は私の口にスプーンを持ってくる。私はおとなしくりんごを口に入れた。冷たくて甘い。
「フローラが、イーギス様の運命の相手なんです。信じてください」
イーギス様を見上げて言うと、イーギス様は私に噛み付くようにキスをした。
「嫌だね、俺の運命の相手は君だけだ」
「イーギス様……」
そんな……。
「でも、他の令嬢ばかり……」
「それはナターシャが、そういう男を好きだからだろ?ナターシャの趣味は一切理解できないけど」
呆れた顔でイーギス様が言う。聞き捨てならない言葉を言われた。
「理解できないって、イーギス様はかっこいいんです!」
チャラいだけじゃない、フローラに対する愛情表現が素敵で私は夢中になった。辛かった私の心の支えで、転生してイーギス様本人に出会ってからはその過去も含めて好きになって大好きだった。イーギス様は特別で、大好きな人なの。
「ねぇ、ナターシャは誰を見ているの?」
イーギス様は私の頬を両手で包んで問いかける。
「イーギス様です」
「本当に?」
確かめるイーギス様に首を縦に振る。イーギス様以外、見えてない。
「じゃあ、何で堕ちてくれないんだろうね」
ふふっ、と笑ってイーギス様は私を抱きしめた。強く、強く。体が熱って眠気があった私は、イーギス様に抱きしめられたまま眠る。イーギス様は私をベッドに寝かせて頭を撫でた。目が覚めると体のだるさは消えていて、抱きしめられてる感覚に違和感を持つ。ふと隣を見るとイーギス様の顔が近くにあって、声を出しそうになった。な、何で?
「起きた?おはよう、ナターシャ」
イーギス様がふわりと笑う。相変わらずの美形で心臓に悪い。
「イーギス様、何で……?」
「何でって、ナターシャが俺のベッドで寝てたから」
にこにこと笑ってイーギス様が何てことないように言う。
「わ、私たちは結婚してない」
「婚約者だから問題ないでしょ?」
そう言われると否定できない。この世界の常識がわからないし、今の私はまだ婚約者なのだ。って、そうじゃなくて……。
「何で私、イーギス様のベッドに?」
「熱出してたんだよ、覚えてない?」
イーギス様に言われたら何となく思い出したような気がするけど……。
「私、変なこと言ってませんでしたか?」
「うーん、どうだろう?」
何話してたか覚えてなくて聞くと、イーギス様はまた笑う。穴があったら入りたい。
「と、とにかくお世話になりました!仕事があるので部屋に戻ります!」
私はベッドから起き上がると、イーギス様に手を引っ張られた。体制を崩してイーギス様の胸に倒れ込む。
「イーギス様?」
「今日はおやすみ。ゆっくりしよ」
私の髪を撫でて、イーギス様が微笑む。私はイーギス様の胸を押した。
「だ、ダメです。仕事しないと」
「でももう言っちゃった。ね、俺付きの侍女として今日1日俺と一緒にいてよ」
いいでしょ?と鼻を突かれて私は固まる。楽しそうなイーギス様の顔を見てたら逆らえない。私の望みは何よりも、イーギス様に幸せで居てもらうことだから。
「いいんですか?今日は来客は……」
「ナターシャが付き合ってくれるなら全部断るよ」
鼻歌を歌ってベッドから起き上がるイーギス様。何で今日はそんなに上機嫌なのだろうか。




