余興②ボツ案2公開
タイトル「いちげい!」
ざっくりキャラ紹介
或波 由仁助:高1男子。ペン回しが好き。言動がどこか抜けている。人との距離感が近い。
乾 涼夏:高1女子。由仁助とは家が隣の幼馴染。ふわふわとしたショートボブ。ふわふわしてる由仁助の世話を焼いている。
黒崎 志狼:高1男子。ネタキャラ。見た目に特徴がない。入学式で由仁助と知り合う。
黒井 根子:高1女子。黒髪のロング。クラスで浮いている。由仁助の隣の席。
兎澤 文乃:第一案より変更なし。小動物然とした、ちょっと不憫なヨーヨーっ娘。
亀掛川先生:由仁助たちの担任の先生。ゆるふわ系に見せかけて、単にドライなだけ。
これも同様に、由仁助が仲間を集めて部活を作る話です。兎澤さん以外は、第一案からキャラの名前とビジュアルだけを引き継いだ形になります。「ペン回し部を作るぞ」と言って説得力があるのはどんなキャラかを考えていったら由仁助が出来上がりました。ちなみに第一案の亀掛川後輩とこの亀掛川先生は姉妹です。
ボツ理由:由仁助が変なやつすぎてキャラを描き続ける自信がなくなったため。
高校でも部活はやらないと言った。
父はなぜかと訊いた。
やりたい部活がないからと答えた。野球もサッカーも陸上も、軽音も文芸も囲碁将棋も興味がないと言った。
何ならやりたいんだと父は尋ねた。
ペン回し部とか、深夜ラジオハガキ職人部とかをやりたいと答えた。
父はビミョーな顔をし、母は乾いた目尻を押さえ、妹のクルミは笑った。
「……」
今夜の夕食時の一幕を回想しながら、オレは布団の中で深夜ラジオを聴いていた。枕元には、ちょっとした弁当箱くらいのサイズのラジカセが、どっかのスタジオで喋っているパーソナリティとオレをつないでいる。夜も遅いので限界まで音量を絞り、微かに聞こえる軽快なトークに耳をすませる。
話を戻そう。高校の入学式を明日に控えたオレに父がした質問がことの発端だった。オレは素直にやりたいことを言っただけなのに、なぜか分かってもらえなかった。
部活動が嫌いなんじゃない。やりたいことがそこになかっただけだ。大事なのは何か好きなことに打ち込むことで、仲間と甲子園を目指したり、文化祭のステージでラブソングを歌うこと、それ自体に特別な意味があるわけじゃない。
それなのに、部活動に入ること自体が健全な高校生の条件のように扱われ、それを満たさなければなんか変なやつとレッテルを貼られてしまうのは、なんかこう、不本意だ。
「ペン回しを極める青春だって、あってもいいーー」
深夜テンションも手伝って、オレは映画のワンシーンみたいに呟いた。きっとろくでもない、オレ好みの映画だろう。
明日は入学式。そう思うと、体の内側をくすぐられるようなドキドキがエネルギーに変換されて、温かみを持って体内に充填されていくのを感じた。
オレが映画の主人公なら。オレのやるべきことは。
「ペン回し部作ろう」
天井のシミに向かって、オレは宣言した。
いちげい!
〜第一芸「ゆにすけ!」〜
「由仁助っ」
家を出ると後ろから声をかけられた。この声は、隣の家に住む幼馴染の涼夏ちゃんだ。幼稚園からずっと同じ学校で、似たり寄ったりの学力なので高校もオレと同じだ。
「おはよー涼夏ちゃん」
オレは振り向いて涼夏ちゃんに片手を上げる。子犬を思わせるふわふわのショートボブに、目の大きな童顔が可愛らしい。中学生の時より髪の色が明るくなった気がする。入学早々アウトローだ。
物心つく前から家族ぐるみで付き合いがあるので、友達でも恋人でもなく、もはや家族のように感じている。実際、オレたちを知らない人から兄妹に間違えられることもしばしば。ちゃらんぽらんな兄がオレで、しっかり者の妹が涼夏ちゃんだ。
当の涼夏ちゃんはやたらニコニコしながら「ゆーにすけっ」と軽いステップ3、4歩でオレの前に立つ。グリコのじゃんけんにオレの名前が採用されたみたいで悪い気はしない。
「高校の制服だよ! どお? ねぇ、どーお?」
涼夏ちゃんはくるりと回り、オレに制服姿を見せつけてくる。シワひとつないパリッとしたブレザー。目の覚めるように白いワイシャツは第一ボタンまできっちり閉じられ、赤のリボンは1度の狂いもなく胸元にある。涼夏ちゃんが動くたびに、チェックのプリーツスカートの段々がひらひらと揺れ、尻尾を振る犬のような可愛らしさを感じる。
「大丈夫、ちゃんと女子高生に見えるよ」
「そうじゃなくてっ! もっとこう、ほら! え、遠慮しないで!」
「えーと……堅苦しいの苦手なのに、第一ボタンまで閉められてえらい!」
「ちがう! はぁ……もういいよ」
涼夏ちゃんはため息をついてリボンを緩め、第一ボタンを外して襟元をパタパタと煽った。あーあ、完璧な着こなしが……。
「せっかく綺麗だったのに」
崩れた制服を惜しむように呟くと、涼夏ちゃんはシャツを煽る手をピタリと止めた。愕然とした顔でオレを見つめ、瞳孔が開いたかと思うと見る間に赤面した。よっぽど暑かったんだろう。涼夏ちゃんは昔から暑がりさんなのだ。
「へっ!? なっ何言ってんの!? ユニスケのバカ! あほ! ユニスケ!」
涼夏ちゃんは両手をぶんぶんさせながら抗議した。赤面した顔からは汗がだらだら垂れていた。相変わらずの基礎代謝だ。
「ユニスケが変なこと言うから、めっちゃ汗かいちゃったよ! もー、1時間かけて前髪セットしたのに!」
ハンカチで汗を拭きながら涼夏ちゃんは恨みがましい視線をオレにぶつけてくる。
「涼夏ちゃんはそのままでいいんだよ」
「まーたそんなことを! ユニスケだって4日前美容院行ったくせに!」
「おう、最近流行りのマッシュウルフだ! ……あれ、涼夏ちゃんにその話したっけ?」
「わかるよ、隣の家だもん。私、ユニスケのことならなんだって知ってるよ。髪といえば、昨日からシャンプーも変えたんだね」
「すげぇー、涼夏ちゃんはなんでも知ってるなぁ〜」
「隣の家だもん」
たまに、オレのことを知りすぎていると思う。オレも涼夏ちゃんの隣に住んでいるけど、涼夏ちゃんのことをなんでも知っているわけじゃない。最近の若者は他人に無関心だとテレビで言っていた。オレも涼夏ちゃんを見習わないと。
いつも通りのやり取りを交わし、オレたちは駅まで歩く。高校までは電車通学。快速電車でいくつか駅を素通りし、高校の最寄り駅で降りる。駅を出て学校までは徒歩10分。駅近物件だ。駅近の定義知らないけど。
学校までの道は、オレたちと同じ制服の群れを追えばいいから覚えていない。涼夏ちゃんに言わせると「相変わらずユニスケはテキトーねー私がいないとなんにもできないんだから」。涼夏ちゃんは羊飼い側の人間なのだ。
「へぇー、うちの最寄り駅より栄えてるねー」
隣を歩く涼夏ちゃんがあまりに無防備に周りを見回すものだから、オレは少し注意することにした。
「涼夏ちゃん、あんまりキョロキョロしないの。田舎者だと思われるでしょ」
「いや、ここもそんなに都会ではないよ!?」
確かにこの辺りはスーパーとかファミマとかコメダとかでうちの最寄り駅より栄えていて、人通りも車通りも多い。途中の駅前にヨーカドーもあった。オープンワールド系のゲームで移動範囲が増えたようなワクワク感がある。
次第に通学路が賑やかになり、学校の気配が近づくのがわかる。緊張で無口になった涼夏ちゃんを和ませるために、オレは気さくに話題を提供する。
「オレ、ペン回し部作ろうと思う」
涼夏ちゃんはオレの発言を理解するのに数秒の思考を要し、やっと飲み込んだのか難しい顔で眉間に寄ったシワを揉んだ。
「……もう一回、何部を作るか言ってくれる?」
「ペン回し部」
「あちゃー、聞き間違いじゃなかったかぁー……でも珍しいね、ユニスケが自分からなんかやりたいって言うの。応援するよ! うん、がんばれ!」
涼夏ちゃんは両手でガッツポーズを作って応援してくれた。嬉しいなぁ。
「よかったら涼夏ちゃんもどう? 今なら副部長になれるよ!」
「えーと……」
「あぁ、もしかして涼夏ちゃん、どの部活入るか決めてる?」
「そうじゃないけど……でも部活かぁー、ど〜しよっかなぁ。私もユニスケみたいに帰宅部になっちゃおうかなぁ」
「いや、オレはペン回――」
「まぁ――バスケ部に入るつもりはないよ」
目を伏せた涼夏ちゃんのひやりとした声色が、通学路の賑やかさを切り裂いてオレの耳に刺さり続けた。おっと。オレとしたことが、話題選びを間違えたかも。
一瞬だけ冷たい目をした涼夏ちゃんだったが、1秒後にはそんなこと忘れてしまったように笑ってくれた。そうそう。涼夏ちゃんはその顔が似合ってるよ。
「だからそうね、ペン回し部に名前くらいは貸してあげるよ! 部活作るならメンバー揃えないといけないからね。5人くらいだっけ?」
「マジで? なにそれ。他にも部活作るのに条件あるの!?」
「ほんっとにテキトーね……あとは、顧問の先生と、学校に認められるような健全な活動内容、とか?」
「それはクリアできるとして……」
「その自信は何……?」
「部員があと3人かぁ。先は長いな」
「私が名前貸すのはあくまで最後の手段だからね!? 極力、部員は自力で集めること! いいね!?」
「はーい……」
それにしても、部員かぁ。まぁ、なんとかなるよね。そんな気がする。
* * *
校門入ってすぐの、校門と校舎の間のちょっとした空間、ピ……ピロ……ピロリ菌……なんだっけ。とにかくそこに張り出されたクラス分けの名簿を見ると、オレと涼夏ちゃんは同じクラスだった。思わず顔を見合わせて苦笑してしまう。ピロティだ。間違えた。腐れ縁だ。
トイレでリボンとか前髪を直したい涼夏ちゃんとは離脱し、オレはひと足先に教室に入る。1年7組。オレのハイスクール⭐︎ライフが始まりを迎える。どきどき。
新学期の席は名前順と決まっている。出席番号1番、或波由仁助。廊下側の端っこがいつだってオレの定位置だ。隣の席の女子――黒井さんは、まだ来ていないようだし、オレの後ろの席も空いている。
教室を見るとみんな近くの人と話していて、出遅れた感が否めない。いかんな、オレも早急にペン回し部の部員勧誘をしないと。
黒井さんの方を見て気づいたけど、そのひとつ後ろの席に男子生徒が座っていた。ひとりだしちょうどいい。手始めにこの人から攻めよう。
オレは椅子に座ったままくるりと左斜め後ろを向き、くだんの男子と向き合った。目が合ったので、にこやかーな笑顔でご挨拶。
「初めまして〜。オレ、或波由仁助。よろしくね」
オレと向き合った男子は緊張のためか固い表情をしていたが、何かを決心したようにふっと微笑んだ。
「僕は黒崎志狼! 黒いのに〜〜っ、シロウ! なんつって! よろしく!」
黒崎くんはキメ顔でオレに握手を求めてくる。かましてきよるわ、黒崎くん。
「……なかなか楽しい人だ」
「真顔で言うなよぉー! えっ? もしかして僕滑ってる? 渾身の自己紹介ギャグなんだけどダメかなこれ?」
「ネタキャラまっしぐらだね。オレは嫌いじゃないけど」
むしろ自己紹介ギャグがなくても数ヶ月後にはネタキャラのポジションに落ち着いているだろう。ネタキャラの星の元に生まれてそうな思考回路だもん。
「はぁ……ダメかぁ……同じ中学のやつ1人もいない高校入ったから、なんとか名前覚えてもらおうと昨日徹夜で考えたんだけどなぁ……」
「徹夜で……ふっ、考えたんだ、あれ……ふふ。黒崎シロウくん。覚えたよ。よろしく」
すると、黒崎くんの顔がパーっと輝いた。良い人ではあるんだろう。
「よろしく! 入学式から友達ができて嬉しいよ!」
さっそくお友達ができたので、オレは本題に入る。
「ところでシロウくん。部活どうするか決めてる? ってかペン回し興味ある? オレ、ペン回し部作ろうと思ってんだけどさ、どうだろう、高校生活をペン回しに捧げてみないかい?」
職員室でもらってきた創部申請書を取り出すと、黒崎くんは椅子を蹴倒してひっくり返る勢いで仰天した。
「えええええ!? なに!?仲良くしてから壺とか買わせるパターン!? こわっ! 都会こわっ!」
「まぁなんでもいいから、とりあえずここにサインだけしてもらって」
「やだよ! 僕は軽音部に入るんだ! なぜならモテたいから!」
「ペン回しでもモテるぞー」
「ペン回しではモテないよ!?」
部員獲得のために頑張っていると、涼夏ちゃんが教室に来た。リボンや前髪を直すだけにしては時間がかかりすぎなので、トイレの中で色々と女子同士の付き合いがあったんだろう。
「ユニスケ、もう友達できたんだねー! えーと……」
「黒崎、黒崎志狼です! 黒いのにシロウ! って覚えてください!」
「そんでペン回し部の初部員」
「或波くん? 僕は入るなんて一言も」
「やだなぁー気さくに由仁助部長と呼んでくれたまえよ」
「こらユニスケ、お友達困らせたらダメ! ごめんねー黒崎くん。私、こいつの知り合いの乾 涼夏。ユニスケのことで困ったらなんでも言ってねー、ぶん殴ってやめさせるから」
そう言うと涼夏ちゃんはオレの後ろの席に鞄を置いて、オレをひとにらみしてから女子のコミュニティの中に入っていった。出席番号2番、乾涼夏。笑っちゃうくらい腐れ縁だ。このやり取りも何度となく繰り返した。




