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ペン回し部は廃部です!  作者: 中二病でも小説が書きたい!
最終章 黒崎シローの独白
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10.3 走れ!③

 

 放課後の校舎を背にしてユニ助がこちらに歩いてきた。俺は植え込みの段差に腰を下ろしたまま、それを見上げていた。ユニ助は俺の一歩手前で立ち止まった。視界に影が差した。ユニ助の作り出した影が俺を包んでいた。


「シロー、お前なんでいなくなっちまうんだよ。ペン回し部作る話はどこ行ったんだよ!」


 開口一番ユニ助はそう問い詰めた。俺たちの間を一陣の風が吹き抜けた。風は俺の体温をわずかに奪い、前髪を片目に被せ、肩にかかった髪をざわりと揺らす。激昂するユニ助に温度差を感じて、口から乾いた笑い声が出た。


「はっ、一芸研究会には俺なんかいらねーんだよ。大塚先生も言ってただろ。好きなものがないやつは部員になれねーんだ。頭脳は根古屋がいるし。……俺がいたって、何の役にも」


「役に立たなきゃ、居ちゃいけないのか?」


「そうだよ。お前らはいいけど、俺は。何もないつまんねー人間だから。何者でもない俺には、あそこに居場所なんて……」


「何者かとか、そんな話をしてるんじゃねえんだよ! 俺は、黒崎シローに聞いてんだ! お前が、どうしたいかって聞いてんだよ!」


 ユニ助は感情をむき出しにして叫ぶ。両手で胸ぐらを掴まれる。小さい体に似合わず、襟が千切れそうなほど、力強く揺さぶられる。俺がどうしたいかなんて、部活設立には何の関係もない。俺はやつの手を払いのけ、襟を正した。そして、影が差した地面を睨みつけた。


「……戻ったところで、何の価値があるんだよ。俺に」


「友達だろ!」


 即答だった。その勢いに呼応するように、ごう、と向かい風が吹いた。やつの前髪やシャツがはためいて、小学生みたいに小さいユニ助の全身が膨れて見えた。青空に吸い込まれたその大声は消えることなく俺の耳に残った。


「俺は、お前が一緒だったからここまでやってこれたんだ!」


「……そんなことはねえよ」


「ある! 俺の夢をマジで信じてくれたから! お前がいつも隣で、クールでいてくれたから! 俺は安心してメチャクチャできたんだ! 頭いいクセして、なんでそんなこともわかんねえんだ!」


「……」


「ゴールまで、あとほんのちょっとじゃねーか……最後まで、一緒に戦ってくれよ!」


 命を削るようにして放たれたその叫びは、鼓膜を通り越して腹の底まで震わせるほどだった。荒い鼻息の遠くに、運動部の掛け声が聞こえる。頬を伝う汗が情熱の火花を散らす。長い眠りから覚めたように、俺の心臓は力強く鼓動した。


 しかし、俺は未だ立ち上がれずにいた。あのとき、大塚先生に好きなものはないと答えたことが間違いだとは思えなかったのだ。また、適当にごまかして部活を設立することが正解とも思えなかった。どうして俺はそう思ってしまうんだろう。ユニ助の夢を蔑ろにするようなことが正しいだなんて。


「ユニ助よ」


 ひとりで考えても分かりそうになかったので、俺はユニ助に問いかけた。ユニ助はアホ面を俺に向けた。


「お前、何でペン回し部なんか作りたいんだ?」


「好きなもの部活にしたい。そんだけだ」


「……」


「シロー、昔話をするぜ」


 ユニ助は俺の隣に座った。やつは前を向いたままで、その横顔がひどく大人びて見えた。


「俺はよ、中学んときも、ペン回し部を作ろうとしたんだ」


「……」


「適当な部活入って、ペン回しは趣味ですればいいなんてのはよ。親とか先生から、飽きるほど聞かされたぜ。こんなことしてるやつ他にいないから、ずっと不安だったし、心配もされた。でも、みんなが言うように要領よくふるまって、ホントの気持ちをごまかしたら、俺の中でなんかが死ぬ気がしたんだ。俺が俺でなくなる気がしたんだ」


「……」


「クラスに友達なんか1人もいなくてよ。俺にはペン回ししかないから、それをバカにするヤツはみんな敵だった。クラスの連中を睨みつけながら、教室の隅っこで1人でペン回ししてたよ」


「……」


「だからよ。入学式の自己紹介で、お前がペン回し好きって言ってくれたのがすげー嬉しくて。お前はさ。自分で期待してるほど大したやつじゃないのかもしれない。でも、自分で思ってるよりもずっとすげーやつなんだぜ!」


 自分の中で何かが解けた。まだ言語化はできないけれど、頭の中のモヤモヤとしたものがすっかりと晴れた。


「なんてな! 何言ってんのか、わけわかんねえな!」


「なるほど、そういうことか……俺はとんでもないバカ野朗だ」


「だははっ、特大のバカ野朗だぜ! 俺と話が合うんだからな! よしっ! つまんねえ話終わり! 行くぜシロー!」


 ユニ助は笑って立ち上がり、俺に手を差し出した。俺はそれを掴もうとして、左腕に巻かれた腕時計を見た。身体中の血が凍りついた。


「スマン、ユニ助……もう、間に合わねえ」


 期限の17時まであと1分しか残されていなかった。俺の説得に時間をかけすぎてしまった。今から職員室に行ったとして……。


「だから急ぐんだろ!」


 顔を上げる。ユニ助は、いたずらっ子のように笑った。


「走るぞ!」


「フッ、やっぱお前にゃかなわねえな」


 俺は、ユニ助の手を掴むと立ち上がった。走り出したユニ助の後を追うようにグラウンドを抜け、渡り廊下を走った。


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