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ペン回し部は廃部です!  作者: 中二病でも小説が書きたい!
最終章 黒崎シローの独白
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9.2 好きなもの②


 放課後、数週間ぶりに根古屋が登校するというので俺たちは正門に出向いていた。この時間、正門は帰宅する生徒が絶え間なく通過する。根古屋を部室までエスコートする算段、なのだが。


 袖をまくって腕時計を睨むと約束の時間から15分が過ぎている。俺は不安になって隣に立つユニ助に訊ねた。


「ホントに来るのか?」


「駅は出たってDM来たぜ!」


 ペン回しで暇を潰しながらユニ助は無邪気に答える。こいつは根古屋が来るまで忠犬ハチ公の如くいつまでも待ち続けるだろう。最終下校時刻が過ぎても真っ暗な門の前でこうしてペン回ししながら待ってるんじゃないかと、隣に立つ相棒の底知れなさに不気味なものすら感じる。


 投げやりな気分で道を眺めていると、つるんで帰宅する生徒たちの背中の隙間から、遠くの曲がり角に人影を見つけた。ピンク色のパーカーにブレザーを羽織り、一陣の風に真っ赤なツインテールが炎のように揺れる。ひらめくスカートの下にはジャージを履いている。小さな頭には校則違反のワイヤレスヘッドホンが堂々と装着されている。繁華街の野良猫こと根古屋 薙が1人で、帰宅する生徒たちの波に逆流してこちらに向かってくる。


 新品のレインコートみたいに校則を跳ね除ける強烈な自我を体現するような根古屋の風貌に、周囲の生徒たちは目を奪われ、恐れ、冷笑した。


「ヤバっ何あの子」


「髪の毛真っ赤じゃん」


「パーカー着てるし」


 ある者は振り返り、またある者は指をさす。根古屋は下を向いて誰とも目を合わさずに歩いている。夏の湿気みたいにまとわりつくノイズはそのヘッドホンでかき消せているのだろうか。


 根古屋はユニ助の前で立ち止まり、顔を上げる。ユニ助はいつもの笑顔をして言った。


「よお根古屋! 今日も決まってんな!」


「……フン」


 根古屋は鼻を鳴らしてヘッドホンを外した。イヤーカフの辺りに付いたボタンを操作しておそらく電源を消し、首にかける。


「部室行こうぜ!」


 ユニ助が根古屋の手を取る。すると、根古屋はびくりと体を縮こまらせた。


「ひゃっ!? 気安くボクに触れるな!」


 根古屋は頬を赤らめた。……おや?


 ユニ助が先頭になって3階隅の空き教室に向かう。ドアを開けると、教室の前方隅の椅子に座った兎澤先輩にパーコがちょっかいをかけて遊んでいた。


 パーコは先輩の背後に回り込み、ほっぺたをもちもちしている。先輩は無表情でされるがままだ。流石に怒った方がいいと思うぞ先輩。


 パーコと先輩は俺たちに視線を向けると、


「ねこやなちゃん!?」


「……うなぎいぬP?」


 後ろに立つ根古屋を見て同時に言った。パーコは床を蹴ったかと思うと、運動神経抜群の俊敏な身のこなしで、金髪の残像を残して目の前に迫る。そして俺を押しのけるようにして根古屋に詰め寄る。


「ねこやなちゃんじゃん! ガッコ来たんだ! え、元気!? てか私のこと覚えてる!? 前に一回話したよね! ってかユニ助言ってよ! ねこやなちゃん来るならさ! もっと歓迎会とかしたのに!」


「だははは! 言ってなかったっけ!? わりーわりー!」


 目の前で繰り広げられるハイテンションなやり取りに根古屋は困惑気味だ。一歩後ろに下がるのを視界の隅で捉える。気持ちは大いに分かる。


「ほらシローなに突っ立ってんの! こっち来てねこやなちゃん! 座って座って!」


 パーコが根古屋を室内に連行して適当な椅子に座らせ、自分はその隣に座る。俺たちもなんとなく、根古屋を囲むようにして適当な椅子に座っていく。


「部員はこれで全員だな! じゃー自己紹介でもすっか! まずは俺! 前も言ったけど遊仁ゆに 或波あるは! ペン回し部の部長やってるぜ! 好きなものはペン回し! よろしくぅ!」


 実質何も言ってないような自己紹介が終わる。次は誰が、と思ったらパーコが元気に手を挙げた。


「はいはいはーい! 次私ね! 私、いぬい 涼夏すずか! ピカピカの高校一年生! 見りゃ分かる? あははっ、そーだね! 友達からは名前で呼ばれたり、こいつらからはパーコって呼ばれてるよ! ねこやなちゃんの好きなように呼んでね! 休みの日はショッピング行ったり音楽聴くのが好きかな! あと好きなものはルービックキューブ! ちなみにペン回しはぜんぜんできない!」


 明るい自己紹介だ。こいつのうっとおしいくらいの元気さは間違いなく根古屋に伝わった。すると、パーコの隣に座る先輩が小さく咳払いをした。


「……兎澤とざわ 文乃あやの。2年。キャロでいい。ペン回しはできない。好きなものはこれ……」


 先輩はダボっとしたブレザーの袖に右手を隠し、仕込んでいたヨーヨーを取り出した。座ったまま手首を返すようにしてヨーヨーを水平に投げ飛ばした。蛍光グリーンのストリングが伸び切るとヨーヨーは巻き戻って手中に戻ってくる。先輩は手の中の黒光りするそれと、油性ペンを根古屋に差し出した。


「……と、うなぎいぬP。サインください」


「ボクのこと知ってるの?」


「最古参」


「そ、そっか……へへ、リアルでファンに会うのは初めてだな」


「宛名はキャロで。C、A、R、R、O、T」


 根古屋は照れた様子でペンのフタを開け、先輩からヨーヨーを受け取る。ストリングの先は先輩の中指に巻き付いたまま、根古屋の手元にヨーヨーが来るようにストリングを伸ばしている。ペン先がヨーヨーの表面を撫でる寸前、根古屋は思い直したように視線を先輩に戻した。


「黒に黒じゃ見えなくない?」


「ハッ……! 不覚……ッ!」


「修正ペンあるよ!」


 パーコが横からひょこっと助け舟ならぬ助けペンを送る。パーコからそれを受け取った根古屋は白の修正ペンをサラサラとヨーヨーに走らせる。それを覗き込む無表情な先輩の目は心なしか輝いていた。根古屋がパーコに修正ペンを返したのを見計って俺も自己紹介した。


「俺は黒崎シロー。ユニ助と同じクラスだ。ペン回しは人よりできる。好きなものは……」


 俺はブレザーの内ポケットからハッカのロリポップを取り出した。ポケットにあった全部を掴んで机にバラバラと並べる。


「は、ハッカ? お前変わってるな……」


 根古屋は引き気味な目を俺に向けてくる。そうか? すまないな。俺が変なせいで変な空気になっちまって。特に何かアピールするつもりはなかったんだが。そうか。変わってるか。


「まあいいや。じゃあボクも自己紹介しとくか。根古屋 薙。好きな食べ物はいちご。ペン回しはできない。っていうか……」


 根古屋は何かを怪しむような顔で俺たち4人を眺めた。


「一体何してる部活なんだ? ペン回し部って」


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