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ペン回し部は廃部です!  作者: 中二病でも小説が書きたい!
第四章 根古屋薙の感傷
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8.5 Wake Me Up⑤

 

 繁華街の公園に行くと、根古屋ねこや なぎは何かを待つようにしてベンチに座っていた。ベンチの他に遊具は、土台がバネの馬の乗り物が2台だけ。ゆっくり歩いても1分で一周できそうな小さくて静かな公園に1人で座っていた。


 根古屋は普段通りの赤髪のツインテールにワイヤレスヘッドホンを装着している。ピンクのパーカーにジャージ姿。足元にはスーツケースが置かれているが、何かを取り出した形跡はない。根古屋はベンチの左端に座り、右隣にギターケースを置いている。ベンチの右側は人1人分の空間があった。まるで、誰かのために開けているように。


 そこに座るのは俺ではない。公園の入り口の数メートル手前で俺は足を止めた。ユニ助が不思議そうに見上げるが、黙って背を向けた。そのままベンチの裏の茂みに足を進める。ここなら根古屋に見つからずに話を聞ける。公園に入るユニ助の後ろ姿を見送った。


「よお!」


 小さな公園なので、入場するとすぐ根古屋に気付かれる。ユニ助はフランクに片手を上げ、当然のように根古屋のベンチに座った。根古屋は特に拒絶するでもなくその様子を見ていた。ヘッドホンのイヤーカフに手を伸ばし、ボタンを数回操作する。ヘッドホンはかけたままだが、外音取り込みモードとかにしたんだろう。


「熱いとの冷たいの、どっちがいい?」


 そう言いながらユニ助は鞄から缶のコーヒーとコーラを出した。駅の自販機で予め買っておいたのだ。根古屋は無言でコーラを受け取り、プルタブを起こした。空気の抜ける軽い音が鳴る。ユニ助は若干引きつった笑顔で手の中のブラックコーヒーを眺めている。……こいつ、ブラック飲めないのに買ったのか。アホだ。


「今日も路上ライブか?」


 ブラックコーヒーの苦味に顔をしかめながらユニ助が雑談の種をまく。


「……まあ」


 根古屋は缶に印刷された文字を眺めながら曖昧な返事をする。予想だがこれは嘘だ。こいつはずっとユニ助を待っていた。でもそれを悟られたくないのでスーツケースにギターなんか抱えているのだ。予想だけど。


「すげーよな、昨日見てたけどギターめっちゃ上手いし! 作曲もすんだろ!? いやマジですげーよ」


「何で、昨日居たんだ?」


「フォローしてるからな、『うなぎいぬP』を!」


「……マジ?」


「おお、ほらこれ! この『ゆにこ』が俺!」


「ああっ! この人かよ!? リプしたことあるぞ! 女子だと思ったのに! クソっこのボクを騙したな!?」


「だははは! 俺、遊仁ゆに 或波あるは! よろしく!」


 今さら自己紹介も変な感じだな、とユニ助はアホ面で笑った。根古屋は何か言いたげに俯いた。コーラの缶を手の中で転がしている。


「ギターは、小5の頃からやってた……パパの影響でね」


 根古屋は俯いたまま呟いた。1ヶ月もの長い時間をかけて、根古屋とユニ助が初めて会話をしたように見えた。


「ありがとな」


 ユニ助は礼を言った。根古屋はユニ助を見た。その表情には何か鬼気迫るものがあった。


「グリーンデイ、めっちゃいいわ! なんつーかこう、歌詞はわかんねーけど聞いてると元気になれるっつーか! ノリノリになれんだよな!」


「ビリージョーのパワフルな歌声。スリーピースなのに迫力あるサウンド。シンプルでいてカッコいいギター。……」


 根古屋は言葉を切り、コーラを口にした。喋りすぎて照れているのか。


「お前にすすめられてからというものよー、YouTubeでこればっか聴いてんだ! もう有名どころはコンプリートしたぜ!」


「……そう、か」


「ありがとな、教えてくれて。……『Wake Me Up When September Ends』。良い曲だな」


「……」


 ユニ助は缶コーヒーを傾け、顔をしかめて言った。


「……ちぇっ。にげぇな。コーラと交換しない?」


「バカ」


 根古屋はコーラをベンチに置き、布製のギターケースから真っ赤なエレキギターを取り出した。ベンチから立ち上がり、ストラップを首にかける。


 くるりと振り向き、足を肩幅に広げてユニ助の正面に立つ。根古屋は真っ直ぐユニ助を見つめている。ユニ助も視線を逸らさない。何度か深呼吸して肩を大きく上下させると、ヘッドホンを外して首にかけた。緊張からか唇が震え、頬が紅潮している。ネックを抱いた細い指が弦と擦れてキュッという高い音が鳴る。ギターをアンプにつなげないまま、根古屋はピックを振り上げた。




 ♪


 どれだけ時が過ぎても

 あなたを忘れることはないだろう


 なけなしの勇気が

 今にも挫けそうだ


 季節があなたを置いて

 流れても僕はずっとここにいる


 痛みは日ごとに増して

 気が狂っちまいそうだ


 ♪


 人生に意味なんてない

 最近そんなことばかり考える


 息をするから生き

 命が尽きれば死ぬ


 人生が映画なら

 台詞を飛ばす僕をクビにしてくれよ


 過去を星座みたく繋いで

 センチに浸る趣味はない


 ♪


 人生無意味なことなんて

 何もないとか言うけど


 それなら僕はバカでいいから

 あなたと一緒に居たかった


 ♪


 あの時ああすりゃよかった

 浮かぶのは後悔ばかりだった


 神様 そこで見てるなら

 あんたは死ぬほど悪趣味だな


 耳鳴りのような強い風が

 あなたから体温を剥ぎ取った


 あれから頭痛が止まらないんだ

 僕は打ちのめされちまったんだ


 ……



「ハァ……ハァ……」


 ワンコーラス歌い終えた根古屋は、荒い息を吐いて額の汗を拭った。昨日の路上ライブの様子とは少し違う。ギターをかき鳴らして叫ぶように歌う荒っぽさに加えて、今にも泣き崩れてしまいそうな儚げな表情が見え隠れしていた。


 根古屋はしばらくその姿勢のまま呼吸を落ち着かせ、ベンチに戻ってコーラを飲んだ。根古屋は真っ赤なエレキギターを抱くようにして、独り言のように話し始めた。


「軽音部に入って……バンドを作った……そんで、聴かせたんだ、この曲を……」


 ユニ助は黙って聞いていた。


「絶望なんだよ……これを……切ないラブソング、だなんて言われたら……身体中の血が冷たくなって……バカらしくて学校なんか行ってらんないわけ……」


「マジかよ!? とんでもねーバカヤローだな! そいつ鼓膜にカビ生えてんぜ! そりゃバカらしくもなるわな!」


「フッ……」


 根古屋は意味ありげに笑った。コーラを飲み干し、ギターをしまうとベンチから立ち上がった。スーツケースの持ち手をつかむと、そのまま公園を出た。ユニ助も後に続く。俺はバレないように2人の数メートル後方をついて行く。駅に続く道を2人並んで歩く。やつらの会話は問題なく聞こえてくる。


「前、ボクの家に勝手に上がったとき女の人いただろ。あれ叔母さん」


「へえ、じゃあ2人暮らし?」


「3人! 『うなぎいぬ』がいる」


「ああ、あのネコな!」


「叔母さんはもともとマンションに住んでたんだ。でも、うなぎいぬ飼いたいって言ったらあの家買ってくれた。ほんと良い人だよ」


「そりゃあすげー良い人だな!」


 いや、すごすぎんだろ。


「よかった。最後に、マシなヤツと会えて」


「最後?」


 ユニ助が聞き返す。根古屋は前を向いたまま言った。


「退学するんだ。音楽でメシ食ってく」


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