8.4 Wake Me Up④
ユニ助と別れた後、俺はハッカのロリポップをくわえながら廊下をふらついていた。根古屋の件はユニ助に任せるとして、俺には俺の仕事がある。ペン回し部の現実的な設立方法の考案だ。
校舎中央部に位置する大きな掲示板の前で足を止める。そこにはA4サイズの部活の宣伝ポスターが隙間なく貼られている。野球部、サッカー部、軽音部、陸上部、女子バレー部、女子テニス部、吹奏楽部、剣道部、女子バスケ部、卓球部、男子バスケ部、男子バレー部、男子テニス部、女子バドミントン部、パソコン部、生物部、将棋同好会、漫画研究会、ジオラマ研究会……など。この学校文芸部ないのかよ。
文化部志望の選択肢は少ない。運動部に入るバイタリティがないゆえに吹奏楽部が候補から外れ、パソコン部でやっていける知識もない俺のような人間は、ラインナップと興味をすり合わせて妥協点を探す。ユニ助はそれに甘んじることなく、自分の本当にやりたいことを部活にしちまおうというんだから恐れ入る。
「――あっ!」
バカみたいな声が出る。閃いたのだ。ペン回し部を作る方法を。生まれかけた火種がかき消されぬように思考を流し、炎が大きくなるとともに頼もしさをもって燃え上がる。ロリポップの棒をタバコみたいにつまみながら廊下を早足で歩く。すごい。すごいすごい。このアイデアは最高だ。体が宙に浮き上がって今にも走り出してしまいそうだ。
『文芸部』を作る。ペン回し要素を排除するために、学校に睨まれているユニ助の代わりに他の誰かを部長にする。俺は読書が嫌いではないし、部員の中で一番まともなのは俺だという自信がある。順当に事が運べば俺が部長になる。文芸部なら顧問も見つかりやすい。文化祭に雑誌でも出せば活動としては充分だろう。裏でペン回しでもルービックキューブでもなんでもやればいい。
そして、文芸部初代部長黒崎シローの功績はこの高校に未来永劫語り継がれる。まあ、ユニ助もその一部に付け加えてもいい。
しかし、ユニ助はそれに興味を示さないだろう。ユニ助はペン回し、つまり自分が好きなものを、部活動という学校のシステムの一部に組み込むことで、自分の活動を世の中に認めてほしいのだ。道を共にする友人もなく、授業中の迷惑行為と白眼視され、技を極めても部活動のような賞賛は得られずむしろ冷笑の的になる。学校という公的な空間の中に、『授業中の迷惑行為』であるペン回しをする場所を作ることそれ自体がユニ助の目的であり、部長になるとか、そういった出世欲とは無縁の人間だ。そして、俺はそれを渇望している。見事に凹凸がハマる。俺たちは最高の相棒だ。
隙がない。何者かになる俺の人生設計。最後のピースがここにあった。
* * *
放課後。空き教室に集まった俺たちは、ユニ助の昨日の報告を聞いていた。俺が昼休みに聞いたのと同じ内容だ。
「ということで、俺は今からそのナゾときをする!」
最後にそう締めくくり、ユニ助は自席に座った。俺は図書館で借りてきた本を鞄から取り出した。ペン回し部を作る方法……いや、自分が何者かになる方法を思いついたから、心穏やかに読書できた。1時間もしないうちにユニ助は立ち上がって俺の机の前に来た。
「答えは出たかよ」
俺は文庫本から顔を上げ、ユニ助にそう問いかけた。
「ああ! 今から根古屋のとこに行く! シロー、一緒に来てくれ!」
「出歯亀する趣味はねえよ」
「分かってるって! 行くぞ!」
間違いなく何も分かっていない。気が向かないがご指名とあらば仕方ない。それに、およそ1ヶ月に渡って俺たちを悩ませた根古屋の一件にケリがつく様子に興味がないこともない。俺は教室を発つ準備をした。




