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ペン回し部は廃部です!  作者: 中二病でも小説が書きたい!
第四章 根古屋薙の感傷
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7.1 雨上がりの夜空に①

 

 宿泊研修が終わり、ゴールデンウィークを挟むと、部活の申請期限の5月末まであと3週間を残すのみになった。残された猶予は少ないが、研修での『芽ヶ崎血戦』に勝利し、同好会潰しの魔の手を退けたからか危機感をあまり感じない。


 あの後、3つの変化が起こった。


 1つ目は、同好会潰しの壊滅だ。ユニ助の流血沙汰のせいで先生が介入する事態になり、同好会潰しの存在が学校に露呈したのだ。罰としてそれに関わった運動部は2週間の謹慎。ユニ助が逆モヒカンの刑を言い渡さなければ芽ヶ崎は責任を取らされて丸坊主にでもされていただろう。


 2つ目はもっとすごい。嘘だと思うかもしれないが、あの戦いを見た男子連中の間でペン回しがブームになっているのだ。ユニ助はクラス内で男子どもに一目置かれる存在になり、休み時間によく声をかけられている。授業中のペン回し人口は明らかに増加していて、新入部員が現れるのも時間の問題だと思う。


 そして3つ目。


 俺は自分の手元に視線を落とす。薬指と中指にペンを挟み、手を伏せる。意識を集中させ、フェイクトソニックの要領でペンに回転力を与える。そのペンは伏せた中指の節を回転し、1.5回転したのち中指と人差し指に挟まれてピタリと停止する。


「よしっ……ハハッ……! 見ろユニ助、シャドウだ!」


「すげえ! やったなシロー!」


 授業前の休み時間。俺はユニ助に連休中の特訓の成果を披露していた。ユニ助は手放しで喜んでくれる。一度自転車に乗れたら乗り方を体が覚えているように、一度習得してしまえばこちらのものだ。俺は得意になって何度もシャドウを回し続けた。


 すると、ガラリと教室前方のドアが開く。物理担当の大塚先生が入ってきた。大柄で筋肉質の全身を黒のジャージで包み、ヒゲ面にきついパンチパーマと鬼のようないかつい外見で性格も鬼のように厳しい。生活指導を担当していて、ペン回し部の新設を却下し続けている。ユニ助の天敵だ。


 この人が来ると教室に緊張感が走り、確実に重力が3割増しになる。クラス中の注目を一身に浴びた大塚先生は、何食わぬ顔で教卓の前に立つと持ってきたプリントの束をトントンと整える。


「えー……先月の宿泊研修での騒ぎからペン回しがブームになっているようだが……」


 大塚先生は一際強い音を立ててプリントの束を教卓に落とした。


「本日よりペン回しを禁止する!」


 バランスを失ったペンが、ポトリと俺の指から滑り落ちた。




 * * *




 放課後、部室の空き教室にて。


「そりゃあねーんじゃねーかなあオニヅカよおぉぉ……」


 窓際真ん中の席につくなりユニ助は机に突っ伏している。既に突き指は完治したようで、机からだらりと下がった右手でダブルチャージを回している。授業中のペン回しを封じられた反動で、自由時間にずっと回すようになった。言動と独立して動いている様子はさながら寄生獣だ。


「ね! うちのクラスでもペン回しブームなってたから、いける! って思ったのに……」


 その右後ろに座っているパーコはガシャガシャとルービックキューブを回しながら答える。相変わらず恐ろしいスピードだ。回す音が止むと同時に机に置いてあるスマホのストップウォッチを止める。期待外れのタイムに首をひねると、揃えたばかりのルービックキューブを無造作に崩した。


「上手いこといかないねー」


 パーコが言うまでもなく、部室にはどよーんとした空気が満ちている。俺たちを取り巻く状況は研修前より悪化していた。


 空前のペン回しブームは『ペン回し禁止令』の発令によってたった数日で終了した。ユニ助が作ったペン回しカッコいいという風潮は泡沫の夢と消え失せ、授業中の迷惑行為として嫌っていた声が大きくなった。新入部員など夢のまた夢で、ペン回シスト達の肩身はより狭くなる一方だ。いやペン回シストってなんだよ。


「亀掛川先生に聞いてみようぜ。意外と大したことないかもしれない」


 その空気を打破するために、俺はそんな提案をした。二人とも二つ返事で乗ってきたので、全員で亀掛川先生のいる地学準備室に赴き、ドアをノックする。


「マズいことになりましたね〜……」


 俺たちを狭い室内に通しながら、亀掛川先生は独り言のように呟いた。部屋の中は書類や参考書の山や、何かの模型、大量の段ボールなどで雑然としている。そして紅茶のいい匂いが充満している。案の定、仕事用のデスクにはティーカップとクッキーの缶が置かれている。パイプ椅子に座った俺たちは、亀掛川先生から紙コップの紅茶のもてなしを受ける。


「職員会議で『ペン回し禁止令』が決まったとき、さすがに先生も君たちの顔が一瞬だけよぎりましたよ〜……」


 亀掛川先生はしみじみとそう言い、ティーカップを煽った。肩までの栗色の髪の毛先にゆるいウェーブがかかり、パンツルックにブラウスとカーディガンというラフな格好。女子大生で通用する、というかつい数年前までそうだったんだろう。


「……」


 単によぎっただけで、禁止令を緩和させるように何か働きかけてはくれなかったのか。根古屋の件があるから恩を売って損はないと思うんだけどな。


「俺たち大丈夫ですかね!? ペン回し部、作れますか!?」


 ユニ助は不安そうに訊ねる。


「かーなーり、マズいですよ〜……大塚先生、お怒りでしたし〜……他の先生方も、授業中のペン回しをよく思わない方ばかりのご様子でした〜……特に、宿泊研修の騒ぎの中心である遊仁ゆにくんは、要注意生徒としてマークされてるので〜……しばらく大人しくしておいてください〜……」


「ええ!? 大人しく!? 俺部活作るのに!?」


「そんな遊仁くんが部長の『ペン回し部』が許可されるかというのは〜……まあ絶望的でしょうね〜……」


 亀掛川先生は淡々と告げる。ドライアイスのような冷たい目がまっすぐに俺たちを見据える。ゆるい性格なのではなく、この人は他人に興味がないだけだ。


「絶望的っていうのは、つまりペン回し部ができる確率は何パーくらいですか!?」


「そうですね〜……ではこう理解してください〜……本日をもって、ペン回し部は廃部です……」


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